39話 Just walk beside me and be my friend/ただ僕の隣を歩いて、僕の友達でいてくれ
「やぁ、待っていたよ。スヴェン君、クリアミラ君」
やや不安になりながら、ライディーンの本拠へ行くと、脳髄から痺れるような声が出迎えてくれた。副長のラート氏だ。
「とりあえずハヤトは連絡をしてくれていたようで、何よりです」
「ふふ……その心配も頷ける。ハヤトは即断即決突撃思考だからな。今回のこれだって、ハヤトがいきなり団員に伝えて御自ら迎えにいってしまった」
……しょうがないやつ。
「ま、私たちのことが伝わっていたなら幸いだわ。さて、妖精さん?」
……あっ、やべ。
「ラートさん、どこか空いている部屋はあるかしら」
にっこりとした笑顔でクリアミラ女史はそう言った。目が笑っていない。その「やばい」雰囲気をラート氏も感じ取ったのか、笑みの周囲には冷汗が浮かんでいる。おっと、さしもの副マスターでも起こった美人は危険とみえる。
「1階の小会議室が空いている。……ほどほどにしてやりたまえ」
「私の気が向いたら」
それから数分、ぼくは阿修羅のごとき剣幕で彼女に怒られた。まるで屠られる羊のように美しい女性に連れて行かれるぼくを見て、拠点に残っていた数人の男性メンバーが憐れみの表情を浮かべていたが、それを確認する術はぼくに残っていなかった。
「ふむ。……思っているより似たもの同士らしいな。あの幼なじみ2人は」
ラート氏がそう嘯いていたなんて、ぼくには知るよしもなかったのである。
ぼくがまるで学校の床掃除の後の雑巾のように絞られたあと、ハヤトは拠点に帰ってきていた。芝居がかった仕草でぼくたちを紹介し、ぼくのことを10年以上の幼なじみと紹介する。その、なんだ、ドヤ顔でこちらを向かれても困る。なぜそこでドヤ顔をする必要があったのかもぼくにはわからない。さらに、団員の人たちの視線がこちらに向く。その視線は妙な温度を持っていた。そう、例えるならば、「ああ、これが例の……」みたいなやつだ。少なくともネガティヴなものではない。
「スヴェンです。どうぞよろしく」
「クリアミラ。よろしくね」
新人よろしく頭を下げて、様子を窺う。少なくとも悪印象はない。むしろ、ぼくらのことを団員の人たちも知っていたような様子だ。これはおそらく、ハヤトがこれ幸いとぼくらの話をたくさんしていたんだろう。間違いない。あいつのことだ。絶対するに決まってる。
「てなわけで、これからの防衛イベント、しばらく2人が参加する。よろしくしてやってくれ」
わー! パチパチパチ! という拍手で迎えられる。ああ、とりあえず一安心。
「あらためて自己紹介といこうぜ……!」
ドヤ顔のまま語るの止めてくれないかな。笑うんだけど。
ハヤトはぼくが笑いをこらえているのをよく知っていてか、そのドヤ顔のままこちらに向けてにやりと笑った。やめて、笑うから。
「……ぼくは君のことをよぉく知っているんだけど?」
なんとひねり出した言葉の最後のほうはもう半分笑っていた、と思う。しょうがない。ハヤトは狙ってあのドヤ顔を披露したに違いないのだ。
「それでもいいじゃないか」
ぼくのことは意に介さず、ハヤトは大仰な仕草で自己紹介をした。わざわざそんな、ねぇ? こんなことしなくたってぼくは君のことを知っているというのに。あ、それともクリアミラ向けかな。
「俺はハヤト! 人呼んで、烈火のハヤトだ!」
しゅぱぱぱぱーん、というSEが後ろで鳴りながら、彼は懇親のドヤ顔+ヒーローポーズ。ぼくはその場で噴出した。そこに全力を出さなくてもいいと思うんだけどなぁ。団員の人たちも含めて。
「はぁ……。ラートだ。ハヤトが迷惑をかけて……いるようだな。お疲れ様」
相変わらずのイケボである。女性ファンが多いのも頷ける。ライディーンの団員に黄色い悲鳴をあげるようなタイプの女性はいないようだが、数人は表情が眼に見えて明るくなっているのがわかる。
それは、彼の美声に惹かれたのか、破天荒な団長のSEを担当しなくてもいいからなのかのどっちだろうか。ハヤトは全く仕方がないやつだ。
「エリアスよ。スヴェン君とクリアミラちゃんには一度会ったかしらね。ホント、うちの団長は突っ走ってばかりだけど、よろしくね」
ため息をついてやれやれ、と肩を上げるさまが異様に似合っている。人によっては姐御! とか呼んでそうだ。パンクロッカーみたいな髪型してるし。いや、特に他意はないんだけど。
「ニコでス。スヴェンサンとはお知り合いですネ。クリアミラサンも、どうぞよろしくでス」
どちらかというと長身が多い《ライディーン》において、ひときわ小柄なのが生産職のニコだ。独特のなまりがあるが、それが彼女のかわいらしさを助長している。リス系の獣人と思われているが、いつもフードをかぶっているので、実際のところはよくわからない。生産職であるが、レベルはもちろんぼくより上だ。やれやれ、とんでもない人たちのところに放り込まれたものだ。
「ええ、よろしく。……かわいい。後で頬ずりしてもいいかしら」
……ちょっと待って。今なんて言った?
確かに彼女らしくない声が聞こえたが、ぼくの個人的安堵のために聞かなかったことにしておこう。うん。つついたら藪蛇が出そうだ。
「さて、君たち2人は一時的な加入となるわけだが……。うちの団長が君と戦いたがっている、スヴェン君」
知ってたよ。なにせハヤトはぼくと戦いたがっていた。その理由は半妖精と戦ったことがないという理由だったはずだ。本人がそう言っているのだから間違いない。やれやれ……。
「ああ、それなら知ってます。なにせ窓から怒鳴られましたから」
「おいやめろ、俺の団長としての威厳が……!」
急に焦った様子でこちらを振り向くハヤト。……一体何を焦っている?
「心配するな団長。これぞというとき以外はあんまりないぞ」
涼しい顔でラート氏がトドメをさす。美麗な顔して、けっこう強からしい。そうでなければハヤトの補佐なんてできないか。
「レベル差がありすぎるから、HPは同じ数値。MPとスキルはそれぞれのものを使用できるようにする。防御力は、スヴェン君と同程度に調整。それでいいか、ハヤト」
「ああ。大丈夫だ」
大分ぼくに有利な条件だが、ちょうど倍ぐらいのレベル差があるから、妥当なものだろう。
「スヴェン君もいいかい?」
「ええ、大丈夫です」
ラート氏は、朗々とした声で宣言した。
「決闘モード、起動」
その瞬間、円形のアリーナができあがる。ぼくとハヤトは中央に立ち、ほかの団員やクリアミラ、ラート、エリアスらは観客席のような場所に座っていた。ローマのコロッセオの縮小版と考えればいい。初めてすぐのときにぼくは絡まれたけど、ハヤトがそれを引き受けたのはもしかしてこれだったのだろうか。
「んじゃ、楽しく闘ろうぜ、兄弟」
「ま、そうだね。戦ろうか、兄弟」
互いに拳をぶつけて離れる。自慢じゃないけど、こういう時どうするかなんて互いが一番よく知っている。それだけハヤトとの付き合いは長い。まったく、得がたい幼なじみだよ。
ハヤトは右手に両刃の剣。柄が片手用にしては少し長いから、あれは両手で振るうこともできるタイプのやつだ。対して左手の剣は湾曲した片刃の剣だ。柄に半円状の護拳が付いている。サーベルに近いな。
近づくのはしたくないな。とりあえず……!
──魔弾!
レベルが上がったぼくの魔法は連射力も威力も全てが、ハヤトと一緒にいたころとは全然違うぞ。
スフィア・ブラスター、スフィア・スライサー、マナ・ビームなど、射撃系の魔法を総動員してハヤトに接近する暇を与えないように。
ハヤトはぼくが撃った魔法を全て2本の剣で弾いている。その証拠に、ハヤトの周囲には激しい火花が散っている。なるほど確かに、「烈火」と渾名されるだけはある。どうやったら今現在進行形で撃ち出している種類の違う弾幕を弾けるのだか。
そうして、ぼくが一瞬気を緩めたとき。
ハヤトはそれを見逃さなかった。
右手がくるりと1回転。ハヤトの顔の横に構えられた右手の剣先がこちらを向いた。
来る!
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
裂帛の気合とともに一直線にハヤトが突進してくる。つまり、全力の突きだ。
ぼくが放った魔法ごとぶち破ってくる。間に合うか。
【シールド・プロテクション】を起動しつつ、それを顔の前に構えた右手に集中する。本来は四肢を防御するけれど、今は知ったことじゃない。
まるで爆発でもしたかのようなすさまじい轟音。本来は人体が出す音ではない音を立ててぼくの右手とハヤトの剣がぶつかった。その衝撃であたりに煙が立ち込める。
煙が晴れると、右手の魔法障壁がハヤトの剣とぶつかってバチバチと青い電気を迸らせている。
「2人とも、それくらいにしておけ。今連絡が来たが、どうやらお姫様がこっちにくるようだぞ」
「今暖まってきたところだったのになぁ。まあしょうがないか」
決闘モードが解かれる。ふぃー、疲れた。
お姫様、ね。……ルクレーシャ皇女のことかな。
「行こうぜ。美貌の姫様が見られるぞ」
戦っているときは真剣な顔だったのに、もうニヤニヤ笑いかよ。
「美人を見るのは得だな、行こうか」
ここまでお読みいただきありがとうございました。更新は変わらず遅くなります。求職中であります。それではまた次回40話でお目にかかりましょう。




