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《Liberty of Life》  作者: 魚島大
1章 Welcome to the “Liberty” life!/「自由な」生活へようこそ!
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4話 First catch your hare/まずはウサギを捕らえてからすることだ

ちょっと説明がはいりまして長くなりました。サブタイトルは英語の格言です。辞書から探したものですが、日本語訳をちょっと変えてあります。

 ギルド内の簡単な周辺の地図によると、ぼくが最初に降り立ったあの草原を少し南に行くと、ワック草原と呼ばれる広々とした草原があるそうだ。そこはもうフィールドであり、モンスターなどもポップする。そこに薬草が生えている。なるほど確かに初心者でもできるような仕事だね。


 前衛の場合は種族特性も含めて一番向いた武器が自動で装備されているという、後衛向きである種族は何かしらの杖が武器の変わりに装備されるが、なぜかぼくの場合は初期資金である2000コルバしかない。なんだこれは。いじめか。ハズレ種族はこんなところにまで響くのか。ここがギルド内でなければぼくは叫んでいただろう。


 いやいやいや待て。いくらなんでもそんなことはないだろうということで、自分のステータス画面を出す。種族特性のところには掲示板で見たようなメリットとデメリットがもっと細かく書かれているが、その中の一部に『半妖精族を含む一部の強力な魔法種族は魔法陣展開型魔法を発動できます』と書いてある。


 そもそもこの世界の成り立ちや魔法の設定などは細かく「伝説」という形でオープンワールド中に散らばっているが、種族ごとにことなり、その伝説を集めることでアンロックされるという要素もあるらしい。すなわち、その「伝説」を発見しなければ使えない上位スキルがあるということだ。


「つまり……なんらかの上位スキル持ちということか」


 ハズレ種族も捨てたものではないかもしれない。その可能性が見えてきたぼくは俄然ワクワクしてきた。「よし」と小声で気合を入れてギルドを出る。そのときもやや注目されたが、


 魔法陣展開型魔法というものを使ってみたかったけど、ここは街の中である。一部イベント中を除いて、魔法、武器の使用は街の中では禁止されている。つまりフィールド上にでなければならない。


 来た道をさっくりそのままなぞって入り口──正確にはワックタウンの南門をくぐる。小さな詰め所にいた門番が声をかけてきた。


「おや、スヴェン君。早速冒険者になったんだな」


 うーん。さっきのギルドの受付員といい、AIを利用したNPCには見えない。アゴに手を当てる姿などがとても人間臭い。はっきり言ってこの状態のまま現実世界に出ても違和感がないくらいには人間らしさを備えていると僕は思う。


「ええ、薬草取りに行ってきますね」


「気をつけろよー」


 のんきな門番の声を受けながら歩を進めていく。……ハヤトが「移動速度が遅い」といっていたけど、つまり、(小柄だから)「移動速度」が遅いということじゃないのか。フィールドまではそこまで距離はない。初心者が迅速に街に帰還できるように1・5km程度のものである。


 フィールドの入り口には特に何も変わりはなかった。あるとしたら何かの草食動物の頭骸骨があるくらいである。……わりとびっくりした。周りを見渡してもぼく以外には特に人は見当たらない。頭上にアイコンが出た冒険者──MOB冒険者であろう者が遠目に豆粒程度に見えるだけだ。


「ふっふっふ……」


 誰もいないのでぼくは思わず不気味な笑い声を漏らした。周りに人がいたら間違いなくいなくなるような笑い方だった。ハズレ種族の希望たる魔法陣展開型魔法を使うときだっ。


 手をピンと前に伸ばして魔法を発動させる。……しなかった。


「おいっ!」


『事前に魔法系スキルを閲覧してください』とメッセージがポップする。なるほど、気が急いていたということだね。メッセ―ジの指示に従いステータスのスキルの部分を確認する。スキルのレベルは自身のレベルにしたがって上昇していくから、初期習得スキルは絶対にレベル1からなのである。それ以外は現在のレベルの半分を習得した状態で始まる。種族によっては取得不可能のものがあるから気をつけなければならない。


『無属性魔法(魔法系スキル)使用可能魔法:フラッシュ』


 うん、それはひとつだけだろう。だけどさ、攻撃魔法じゃなくて妨害魔法だと誰が予想したよ!


 思わず細かい説明文を飛ばしてしまった。ハヤトの言うとおりソロプレイで誰も攻撃してくれる人がいないときに妨害魔法だけ使えても確かに意味ないわ!


 しばらく空を眺めていると冷静さを取り戻すことができた。行ったことないけど、自然が多い北海道などはこんな感じなのだろうかなどと意味のないことを考えていたら頭から抜けていた冷静さももどってきてくれたようだったので、改めてスキルの説明文を見てみる。


 それによると、無属性魔法はすべての基本となった魔法であって、世界で始めて使用された魔法である。魔力を変換せずにそのまま攻撃、防御のエネルギーとして転用するため、魔力の使用量が少ない。しかし、下位レベルの魔法では威力が低いために攻撃、防御ともに決め手に欠ける。結果として大量の魔力を使用するため人間では扱いにくいのだそうだ。中位、上位にはそのままエネルギーとして変換しているために莫大な破壊力を持つものが増えていくらしい。最初に使える魔法である【フラッシュ】は強烈な閃光を発する妨害魔法で、相手のHPには影響を与えないが、一定確率で相手をスタン状態にさせることができる。


 スタン状態というのは漫画でみるような頭に星が回っているような状態のことで、気絶していることを示す。スタン状態にすると特定のレアドロップが手に入ったり、一部モンスターは捕獲することが可能になる。捕獲したモンスターはギルドに持ち帰れば報酬になることもあるので、積極的にスタン状態にすることを奨励している。


 とりあえず、もう一度手のひらを前方に草原に向けて「フラッシュ」を使用する。すると、青い魔法陣が右手1センチ先ほどに浮かびそこから激しい閃光が炸裂した。


「うわっ!?」


 フラッシュというだけあって閃光がすごいものであった。まだ目がちかちかするのだから。うまく閃光そのものを見ないように使用しないと自滅しそう。……レベル1なのにこんな使用しずらい魔法ならハズレと言われても仕方がない。でもこれはこれで利用できるはずだ。


 世の中には魔法(物理)とか、魔法(ただし魔法とはいってない)とか、「ドーモ、マジシャンサン、マジシャンスレイヤーデス」、「アイエエエ!? マジシャンスレイヤー!? マジシャンスレイヤーナンデ!?」……すなわち魔術師殺しとかがいるわけだけども、それとは違って普通の(ここ重要)魔法だから、案外目晦まし(本当の意味で)になるんじゃないかと思っている。


 まあ戦術を考えるのは後にして、薬草を探そう。といっても、あたり一面草だらけ。どれが薬草でどれが雑草か分かったものではない。地べたに這いずって一本草を引っこ抜き、口に入れて噛んでみる。苦い、まずい、青臭い。幼い頃ブロッコリーを初めて食べたときよりまずい。ぺっぺと即座に吐き出して微妙に色の違う草も食ってみる。こっちはえぐい。結論、ぼくにはわからない!


「ぐぁ、口の中がヤバイ」

 

 これは早急にどうにかせねば、と水筒の水で口を洗う。なお、この水筒はデフォルトでついてきていた。


 ということで、フレンドたるハヤトに連絡。


「おいおい、自分でやるんじゃなかったのかよ!」


 サウンドオンリーの通信であるけれど、何か向こうが切羽詰っていることは分かった。何せ至近距離から金属と金属を打ち鳴らす音がするのだ。大方つばぜり合いでもしているのだろう。


「忙しそうだからかけなおすよ」


 さすがにぼくも馬鹿ではないからすぐに通信を切ろうとした。切れる直前に「青く光る草を探せ! くっ、この野郎! おらぁ!──」


 最後の「おらぁ!」に思わず口が緩んだ。まあ彼は強いだろうからさほど心配はいらないだろう。それにしても、いささか大雑把過ぎるのではないだろうか。


「さて、どうしたものかな」


 青く光る草……はっきりいって今のこの草原では青く光っているようなものは見当たらない。入り口近くから動いてないせいもあるだろうか。ぼくはそう考えて、短い草を踏み分けながら奥へと進む。遠目には鹿のような動物が走っており、また別のほうからはぴょんぴょんと跳ねるウサギが見えた。別に心が跳ねることはしない。ウサギはかわいい動物であるがそれだけだ。そう思いながらさらに歩を進める。すると、草と草との間から金色の粉を揺らめかせながら人間の手のひら程度の紫色の服を着た翅持ちのモンスターが出てきた。急な遭遇である。しかし、ぼくには何もしてこない。ひらひらとぼくの周りを飛び回っているだけであった。あ、もしかして、ぼくが半分妖精だから同種と思っているんではなかろうか。モンスターたちの頭上にはアイコンが出ていて、「イービルピクシー」と打たれている。金色の粉はますますぼくの肩や頭に降り積もった。とりあえず粉を取ってアイテムボックスに入れておく。【妖精の粉を手に入れました】とポップされた。


 しばらく悪妖精(イービルピクシー)とともに妖精の粉を採取しながら歩いていたけれど、いい加減にうっとうしくなったので、両手を左右に突き出して魔法陣を展開、【フラッシュ】発動。発動の瞬間にぼくは目をつぶって眩しさをさえぎった。


 目を開けると、モンスターはみな目を回してスタン状態であった。全く警戒していない状態からスタン攻撃を受けるとどうやら確定になるらしい。【妖精の粉】のほかに、【妖薬草】、【妖精の翅】を手に入れることができた。どうやら【妖精の翅】はめったにドロップしないものらしい。レアドロップが多くなるというこの種族のメリットを今ぼくは存分に実感していた。そして、魔法陣展開型魔法の利点も。まずつきものの詠唱がいらない。杖をふるう手間も要らない。魔力を手のひらに集中させるだけであとは魔法陣が構築される。楽なことこのうえない。


 そして、ついに、いくつか青く光る草を見つけた。四つんばいになって抜き取っていく。この周辺には15本ほど生えていた。あと5本を探してさまようと、ウサギがいた。念のためにもう一度言っておこう。こころが跳ねることはない。ウサギはぼくを認めるとはねて突進してきた。


「──馬鹿なっ!?」


 そんなシリアスな叫びとともにウサギの突進を食らったぼくは尻餅をついた。ステータスをみると少ない体力が減っている。呆然とウサギを見ているともう一発顔面に突進を受けて頭を地面に叩きつけられる。結構凄い勢いだったけれど、いたみはそこまでのものではない。


 起き上がっている途中に3回目の突進をくらいそうになるけれど何とか両手で防いだ。はっきりいってしまおう、その一撃だけで痺れているよ、ぼくの腕。かなり肉体的能力は低いようだ。わかっていたことだけど。


 痺れた両手をそのままにゼロ距離で【フラッシュ】を発動させる。距離があまりに近かったからか、またも即スタン状態に持ち込めた。「捕獲」し、アイテムボックスに入れる。


 初戦闘もあったし疲れたからこのあたりでログアウトすることにした。ステータス画面からログアウトを開いて、タッチ。


 ぼくの体は青い渦に包まれ、意識が一瞬だけ消える。


 目を覚ますと、VRギアの緑色の光が見えた。起き上がってVRギアをはずし、伸びをする。寝る姿勢であるとはいえ、それなりに疲れは溜まるのである。


「晩飯作って寝るか」


 食事を済ませてシャワーを浴びてベットへ入る。明日から春休みだから、のんびりやることにする。それにまだハヤト──尊人に金も返していない。


「ふぁああ……」


 大きくあくびをしたあと、ぼくの意識は落ちた。


ここまでお読みいただきありがとうございました。よければ感想などお書きいただけると作者は喜びます。

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