37話 Next Stage/新たな舞台へ
ぎ、ぎりぎり8月に投稿ができた……。
「はぁっ……はっ……」
単独討伐。ぼくの目の前には、豚の顔をしたずんぐり体のモンスターが倒れている。テトラパッカのボスモンスター、オークだ。こいつを倒したことで、第3の街ファレストピークへの道が開けた。
「……手間のかかるモンスターって本当に面倒くさい」
このオークというモンスターは、負けそうになるとどこからか人質をひっ捕まえてきて盾にするというえげつない戦法を取ってくる。なぜ都合よく近くにNPCがいるのかという点には突っ込まないでおくけど、とにかくそんなことをされると面倒くさい。
ハヤトのような高レベルプレイヤーがやるやり方としては、人質を取る取られるの前に超強力な一撃で倒すという方法だ。ぼくもそれをしようと思っていたけれども、残念なことに、最強魔法を中断させられた。ほかならぬオークの攻撃で。まさか雄たけびを上げて聴覚に攻撃してくるとは思わなかった。その時は防御魔法も展開していなかったから、ガラスに激突して気絶した蝉よろしく枝から転げ落ちて地形ダメージを受けてしまった。物理ダメージのおかげでぼくはオークと本格的な戦闘前から青色吐息。ポーションを飲む間もなくオークが襲い掛かってきたおかげで、ぼくはそんな危険な状態での戦いを強いられていたんだ。
防御魔法と魔法剣で前衛職並みの近接戦闘を行うことになるとは思わなかったけれど、25レベルを超えたら、蝶のような羽が光の翼に進化する。そのおかげで、それまで地上で戦闘している間、どこかに逃げる方法が走るしかなかったのが、光の翼で空に逃げるということができるようになった。
戦闘して体力がやばくなったら空に逃げてポーションで体力を回復するというせこい方法で持ってボスモンスターを倒すことができた。
「テトラパッカでポーション買わないと……」
ごっそり購入していたポーションがなくなったから、買い足さなければ……。
物理防御が低いということは、攻撃を受けたならばダメージがでかいということ。
ダメージがでかいということは、その分ポーションがたくさん必要になるということ。
本来ならば1本で済むようなダメージが、ぼくの場合は3本とかいるわけだ。水腹もいいところだよ。
1人で大量購入するから、すっかり生産職の人とも顔見知りになってしまった。最初はパシリにされているんじゃないかと心配してくれたが、実際のところはもちろん全然ちがうわけだ。
テトラパッカに戻って、ギルドに報告して報酬をもらったあと、生産職の人々が軒を連ねる商店街へ。
テトラパッカに居ついてからいつも利用しているポーション屋がある。店主はニコ。フードを目深にかぶっているから顔が見えない、と本人は思っているらしいが、小柄なせいで会計のときに顔が見える。だが、本人は気づいていない。ぼくは正直、教えるべきか迷ったけど、ハヤト系列の人間だから、とりあえず黙っておくことにした。彼女はハヤトの雷霆と提携を結んでいる生産職だ。リスのような耳と尻尾を持つ獣人族で、愛らしいことから女性プレイヤーからの人気が高いらしい。詳しくは知らん。
「スヴェンサン、どうも」
「やぁ……ポーション、まとめ買いです」
彼女はフードの下の目を見開いたようだった。それはそうだ。彼女の店にポーションを購入しに来たのは少しの前のこと。大量に購入していったから、しばらくは来ないと踏んでいたのだろうか。
「もうなくなったのですカ!? 使いすぎですヨ!」
わざとなのか、そういう演技なのかな。ニコは最後の言葉だけ、変に片言になる。別にかわいらしいからいいけど。
「しょうがない、防御力が弱いんだもの」
「いやまぁ、半妖精はそうでしょうけド……、ハヤトサンも大変でしょうネ」
ぼそり、と後半につぶやいた言葉はぼくには届かなかった。聞き返しても、「なんでもないですヨ……、アハハ」と愛想笑いをしているだけだった。まぁ、いいけど。
「いつものセットでいいんですネ?」
「それでよろしく」
「毎度ありデス。5,000Cになりますヨ」
金貨をじゃらじゃらと出す。5,000枚も数えていない。持ち金から銀行のように引き出して、そのデータを表に出しただけ。綺麗にピラミッド状に金貨が積みあがっていく。
「またお待ちしてマス。たまにはハヤトサンに連絡してあげてくださイ。『スヴェンのやつの近況がわからん』ってうるさいデスカラ」
ニコの口元にはしょうがないといった様相の笑みが浮かんでいる。……ハヤトのやつ、その気になれば隣同士なんだからさっさとドアを叩けばいいものを。まったく、面倒くさい幼なじみを持ったものだ。そのうち面を出してやらないと、「せっかく誘ったのに一緒に遊ばないってのはどういうことだぁ!」とプンスコしそうでならない。ええい、想像したハヤトがそのまますぎる。……別に感謝してないわけじゃない。ただ、あいつの押しが強すぎるだけだ。もしくは攻略速度。ぼくじゃ追いつけんところもある。
「そのうち連絡しとくよ、まったく……」
さて、ポーションも購入し終わったことだし、クリアミラに挨拶だけして、第3の街、ファレストピークへ行くとしよう。ハヤトもそこで待っているはずだ。つい昨日連絡が来て、「もし終わっていたとしたらでいいんだが、ファレストピークで待ってるぜ」とホログラムフォンに伝言が入っていた。一体どうして僕の攻略速度が分かったのか。電話を折り返してみると、「なんだかんだ俺の教えた方法でレベリングしているはずだから、そこから計算した」とのこと。それしかぼくに教えていないからだろうが、まったく(2回目)。
しかし、ニコは第2の街にずっといていいのだろうか。本来はもっと高レベルなポーション作りができる生産職のはずだ。ハヤトが日常的に使用するポーションを卸しているのだから、レベルも大体同じぐらいだろう……。ぼくの知らない移動方法がなければ説明はできない。そういうことにしておこう。
そんなことを考えていると、あっという間にクリアミラの家に着いた。よし、とりあえずヒモは脱却かな。
「あら、妖精さん。なんかすっきりした顔ね」
「まぁね。世間のそしりを受ける体勢ではなくなったみたいだから……」
ワンピースで玄関先に出てきたクリアミラは、普段とはまたちょっと違った魅力があった。それだから何といわれたらそれまでだけれども。わずかな動悸の乱れが彼女にばれないことを祈る。
「それで、どんな御用かしら?」
「ああいや、この街を攻略することができたから、そろそろ第3の街へ移ろうと思って」
「あら、それなら付いていくわよ。向こうにポータル作っておけば、自分の家に戻ってこられるわけだしね」
ヒモを脱却できたと思ったらできない……だと!?
「家作るにはお金かかるわよ? 私はあなたに比べてポーション代とかかかるほどでもないけど、あなたはかかるでしょう?」
ぼくの企みがバレていた、だって……!?
「私の場合、矢なんて骨と動物の羽があれば私でも作れる程度の簡単なものだわ。ポーションはそうはいかないし、素人が作るなら買ったほうがいいわね」
なかば呆然としているようなぼくに向かって、クリアミラはさらに言葉を続けた。
「結局は、私と一緒のほうがいいわよ」
こうなってはぼくも白旗を掲げるしかない。
「……わかったよ。でも、いつも君に頼ってばかりじゃいけないから、なんとかする」
「ええ。ハヤト君もあなたのことを気にしているでしょうから、それでいいわ」
ふわり、と笑みを見せた彼女に少し見ほれていると、「上がっていきなさいな、ごちそうするわよ」という言葉が降ってきた。
「いいの?」
「もちろん。カレーうどんだけどね」
「やったぜ」
ぼくのテンション爆上がり。これまで彼女の家にご厄介になっている状態だったことをなんとか脱却しようとしていたのに、あっさりとそれを忘れる。
熱い掌返し。
あ、クリアミラ特製カレーうどんは大変美味でございました。
彼女の食事をたいらげたあと、ぼくと彼女は連れだって乗合馬車に乗り、次の街へと向かった。しばらく馬車に揺られ、急な山道にさしかかる。開けて見えた景色は、とてつもなく巨大な樹そのものをくりぬき、その中に街があるという超弩級のものだ。
樹の中に街が作られている。ここがファレストピーク。第3の街だ。
「さて、新しい街で頑張ろうかな」
「手伝うわよ」
新しい街と、傍らにはエルフ。ぼくは新しい戦いの予感と、膨らむ期待を抱きながら門をくぐった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。感想等いただけると喜びます。それでは、次回38話でお目にかかりましょう。




