33話 Take the sword/剣を取れ
3500文字程度を書くのにいったいどれくらい時間をかけているのか(自分に対しての呆れ)
「ほら、大勢でお出迎えだ」
ぼくとクリアミラの目の前には、2ケタを超えようかというホブゴブリンの群れ。醜悪な顔がぼくたちを見つめ、唸っている。迫力ある光景だ。
「随分と盛大な歓迎ね」
クリアミラは弓に矢をつがえ、ホブゴブリンたちに向ける。ぼくは右手に意識を集中させ、青白く光る剣を作り出した。近接戦闘用の試しで来たというのに、それを忘れていてはお話にならない。先ほどのようにクリアミラに怒られてしまう。
魔力剣は作成してしまえば、発動を切らない限り魔力を追加消費することはないエコロジーな魔法だ、もちろん、ぼくにとって。そして、本来ならばなんらか近接戦闘用スキルなどを覚えてなければならないはずの系統の魔法であるが、ぼくにはそれがないから、完全に無手勝流で扱わねばならない。これも後で考えるべき問題だ。こういった問題を発見することも重要なことである。……ぼくの言葉じゃない。クリアミラからの受け売りだ。
「案外綺麗なものね、それ。剣と魔法というよりはSFの世界にありそう」
……色々な方面からおしかりを受けそうな台詞を言うのはやめてください。
「あら、ごめんなさい? ──来るわよ!」
クリアミラのその言葉とともに一気にホブゴブリンが突進してきた。この人数は──捌ききれない!
空いている左手から吹き飛ばし属性かつ範囲攻撃の【シューター・ショット】を放って近づいてきた連中を牽制しつつ、クリアミラと目線を合わせて、示し合わせるように左右別々の方向へ駆け出す。
「【魔力収束】──マナ・セイバー!」
ホブゴブリンに切りかかる。──受け止められた! 想定していたとおりの事が起こる。ゲームシステム的にも、ぼく自身にも、剣の技術というものは身につけていないから当たり前といえば当たり前だ。しかし。ぼくには他にも近接攻撃魔法がある。
【ゼロドライヴ】をホブゴブリンの顎に食らわせて、その場を離脱。後ろから襲い掛かってきたホブゴブリンをしゃがんでかわしつつ、足を魔力剣で払って転倒させ、頭に【シャープシューター】。クリティカル表示を尻目に、右手の剣を突き刺してフィニッシュ。
続いて、【マナ・ビーム】を撃ちながら接近して、思いっきり足を踏み切って空中へ。前方の3体のホブゴブリンへ魔力球を撃ってさらにダメージ。やつらが仰け反っているうちに着地して、両手に魔力剣起動。両手を突き出し、突き。そのまま腕を交差させるように中央のホブゴブリンごと切り裂く。
運用しやすい。威力高い。代わりに発動する際に魔力を喰う。そんな印象をマナ・セイバーからは受ける。
マナ・ビームは運用しやすく長射程な代わりに威力が低い。スフィア・ブラスターよりは威力が高いが、近接戦闘魔法に比べると低い。あと、連射がきかない魔法であるということだ。
検証をしているうちに、十数体いたであろうホブゴブリンは全滅していた。ほとんど連携らしい連携もしない珍しい戦い方になった。言い方を変えれば、連携する必要のない相手だったともいれるかもしれないが。それにしても、最近は苦戦することがない。これが慢心に繋がるとかよくありそうだから、気をつけておこう。オーバーモンスターという勝てない相手が出てくる相手を念頭においておく必要がある。
「もうこのあたりにはいないわね。……聞いているの?」
「大丈夫、聞いているよ」
こちらにクリアミラが歩いてくる。彼女のステータスを確認してみると、MPが多少減っているだけで、HPには1ケタのダメージもなかった。さすがである。疾風迅雷とはこのことか。
「妖精さんもダメージはないみたいね。ホブゴブリンにダメージを受けていたらこの先大変だから、頑張って避けるか受け止めるかしてね」
無茶を言うなよ。
「冗談よ。ほら、あと20体ぐらい倒さなきゃならないんだからさくさく行くわよ」
「了解」
連れだって高原の中に進んでいく。時折飛び出してくるホブゴブリンをクリアミラと連携しながら倒して、さらに奥へ。ギルドカードにはどのような依頼であるかということと、目標が書かれている。詳細な情報もわかる。例えば、倒すモンスター数と、現在倒しているモンスターの数が/で区切って表されるなど、より視覚的にわかるように運営が工夫を凝らしているのだ。
「ペースは順調だね」
「いいわ。このまま終わらせましょう」
ぼくとしてはあまりそんな台詞ばっかり吐いていると、強敵出現フラグだから嫌なのだけど、まぁコミュニケーションと割り切ろう。いくらゲームの中とはいえ、台詞で敵の出現乱数が変わるわけでもないだろうし、さすがにそんな機能はついていないだろう。……ないよね?
そんな自分でもよくわからない不安を心の中に抱えながら、高さのある草の狭間から野を射掛けてきたホブゴブリンの攻撃に対して身をかがめて回避する。太陽は天高く昇っているし、もくもくとした綿雲も見える非常にいい天気なのに、ぼく達を覆うこの高い茂みが敵の視認を難しくしているんだ。入り口は足首ぐらいの草原であったというのに、今はぼくのへそぐらいまで伸びてきている。成長しているわけではないだろうから、恐らく奥へ行けば行くほど草が生い茂っているのだろう。
「ガァァッ」
知ってた。
待ち伏せをする程度の知能はあるようだが、体格がでかいのと、鼻息が荒い……というよりは涎をたらしているから、その音ですぐにわかる。わかりやすく言ったら呼吸音だろうか。
襲い掛かってくる前にクリアミラが風魔法でホブゴブリンを巻き上げる。空中で身動きが取れなくなっているところに風の刃が飛んでいき、ホブゴブリンはあっさり切り裂かれた。それに連鎖するように数体のホブゴブリンがこちらに攻めかかってくる。ぼくの近くに3体、クリアミラの近くに2体。これくらいの数ならば特に連携をしなくても問題はないだろう。それにしても、戦力の逐次投入はよろしくないと習わなかったのか。そんなことあるわけないだろうが。
上から切り落としてくる錆びた長剣を半身になることでかわし、すれ違いざまに顔面にゼロドライヴを見舞う。縦回転していきながら吹き飛ぶ1体を無視して、次に取り掛かる。
ちょうど左右から襲い掛かる2体に魔弾を連続発射しながら距離をとる。
後方宙返りして切断属性のスフィア・スライサー。しっかり持続ダメージが入ったことを確認して、空中からもう一度魔弾の雨を降らせる。
──着地。
低い姿勢から走りつつ、両手に魔法剣を発生させ、2体の真ん中部分まで走りこむ。
自分の体の前で交差させるように一閃。
ホブゴブリン2体を切り裂いて、ポリゴン化して、とりあえずこの場は勝利。
「さらに奥に行かないと敵はいないかもね。厄介厄介」
クリアミラはそう言うが、その表情には彼女の言うところの厄介さはまったく感じられなかった。どうやら言葉だけそう言っているようで、真意はまた別のところらしい。
「この辺で探しまわるっていう案をぼくとしては提案したいけど……」
「それでもいいけど、ほら。それだとなぁんか面白くないじゃない?」
相変わらず、面白いことが大好きのようで。ぼくとしては多少の呆れの感情があるけれども、それないに協力してきた間柄である。ここで僕が強く意見を主張しても彼女は曲げはすまい、そう思った。まぁホブゴブリンについては安全マージンも充分に取れているし、このフィールド自体の危険度もそう高くない。
「クリアミラは一度言い出したらあんまり意見を曲げないから、しょうがないね」
彼女はすこしむっ、とした顔をしたが、まあ冗談の範疇だし、これくらいには付き合ってくれ。
「私が頑固者みたいじゃないのよ、もー!」
言葉尻だけは「ぷんすか!」しているが顔は笑っている。彼女が怒ったら怖いのは身に染みているから程ほどにしておこう。
奥へ進むとさらに草が生い茂り……ではなく、むしろ赤茶けて煤けたような地面が見えてきた。なるほど、このあたりから敵の強さも増すらしい。ぼく達の目の前には双頭のヘビがいた。なんかこう、爬虫類に縁があるね。ぼくは嫌だけど。
「財布にしてやりなさい、お金たまるわよ」
実際のところは、たいした敵ではなかった。クリアミラのセリフが示すように。もちろん、属性的な相性というのを考えなくていいエネミーであったということも影響はしている。彼女の風魔法で打ち上げられたヘビは続いて飛び上がったぼくの魔法剣に切り刻まれて絶命した。うーん、なんとも悲しい末路かな。手に入ったドロップ品は「双頭の蛇頭」と「双頭蛇の皮」、「麻痺毒液」の3つだ。一番後のやつは鍛冶屋に持っていけば追加効果を武器に加えることができる。ぼくのは魔法で鍛えられた短剣らしいから残念ながらできない。
矢に塗り込めればいいんじゃないか、というなんとなしの思いから「麻痺毒液」はクリアミラに奉り、その分ドロップ品を多めにぼくがもらった。こういう簡単なことも重要だぞ。人を相手にしているわけだから、失敗したら険悪な仲になりかねない。奢れ奢らないとか払う払わないとかそういう世界になる。うん、ハヤトでなくてもそれくらいは知っている。
「ありがとね」
どういたしまして。
ここまでお読みいただきありがとうございました。感想等お寄せいただけると私の励みになります。それでは、次回34話でお目にかかりましょう。




