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《Liberty of Life》  作者: 魚島大
2章 Flying with conviction/飛び立て、その想いで。
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21話 Dunk Of The Game/ダンク・オブ・ザ・ゲーム

ちょっと現実が忙しく投稿が遅れました。申しわけございません。


ランキングに載ったとある方から「すごく面白そう」という言葉をいただきました。この場を借りて感謝申し上げます。

いつも読んでくださっている皆様方のおかげと思います。

 青い光球を右手に作り出したぼくと対面しているゴリラは、うなり声を上げながら、こちらにじりじりと近づいてきている。魔法を使用した攻撃ではあるけれど、物理的な攻撃力も持っていると考えていいのではないか、と右手を見ながら思う。それなりに跳んでこれをぶつけないといけないから、なかなか大変な作業になりそうだ。


 これをぶつけるイメージを頭に描け。


 走れ、跳べ、体を反らせ。


 ゴリラとぼくがすれちがう。ぼくは空中、ゴリラは地上。……上手くいかなかった。


「もう1回だ」


 自分で自分に言い聞かせるように声に出してから、またゴリラと向かい合う。正面からぶつけてもいいのかもしれないが、それは万が一失敗したときのリスクが大きすぎる。あきらかに今ぼくが目の前にしている敵は、物理攻撃が強力そうな見た目だからだ。それに、ぼくの魔法攻撃に関してはあまり相手に効果はなかった。分厚すぎる筋肉というものが魔法を防ぐとは全く僕も思っていなかったのだ。どんなでたらめ筋肉だ。脳みそまで筋肉かこのゴリラめ。万物の霊長たる人間に逆らうんじゃ……よくよく考えたらぼく人間じゃないや。半妖精だから、厳密には人間と定義できないかも。


「ふぃー」


 ひとつ息を吐いた。運よく、邪魔は入っていない。一対一(ワンオンワン)だ。


 今までにない技だから、上手くイメージが固まらない。そのまま水平に突っ込むにはちょっとこちらが不利だし、かといって後ろに回ったりしても反応が早いから結局同じになってしまう。さあ、どうしようかな。なにかボールをぶつけるイメージ。バレーボール?むしろアレはボールを叩いて加速しているから違うな。


 開いている左手で衝撃波を放つ。ゴリラが仰け反る。


 身をかがめて低く跳ぶ。


 体ごとぶつかるようにゴリラに右手をぶつけた。


 青い光がゴリラの体表に広がった。よろよろと後ろにさがり、明らかに苦しんでいる。幸か不幸か、ぼくの取った対策は当たっていたようだった。それにしてもこの新魔法、どこかで見たような気がする。国民的忍者漫画とか。まあよくあるよね、エネルギーを直接ぶつける技。


「グ、グゥ……」


 先ほどまではこちらに愚直に突進するだけだった敵が、ぼくを伺うように距離を取っている。相手のステータスを確認すると、それまでは微量しか減らなかったHPが明確な形を持って減少している。むしろぼくは遠距離魔法が筋肉で防げるとは思っていなかったよ。驚きだ。


「ガァァッ!」


 口に赤い光玉。発射。


 横に回避。【スフィア・スライサー】。効果薄し。やはり【スフィア・ゼロドライヴ】を使うしか有効な手立てがないか。


 何かいい方法はないか。考えろ、考えろ、考えろ。


 ぼくの狙いはあいつの頭なんだから、上に飛べばいい。なにか良いイメージはないか、ぼくは記憶を探る。敵の行動パターンが変わっている辺りには知性ある動物というものを感じさせるが、ぼくは動物愛護団体のメンバーでもなんでもない。今電子上とはいえ命の危機を感じている以上、倒すのにためらいはないのだ。


 そうだ。バスケットボール。あれなら、上に跳ぶイメージも持ちやすいんじゃないか。ぶつけるんだから……ダンク?


 ぼくは自分の考えに天啓を得たような感覚を覚えた。そうだよ、ダンクシュートだ。まさにそうすれば、あいつの急所に光球をぶつけることができる。何で思いつかなかったのだろうと思うくらい、これはいい考えだ。


 続けて発射してくるゴリラの光弾をジグザクに跳びながらかわして接近する。3メートルほどの距離で飛び上がって空中で体を弓なりに反らせてその勢いで右手をヤツの頭上に振り下ろした。


 ──入った!


 完璧だ。


 ゴリラの頭からは煙が上がっている。ぼくの小柄さと低機動力を上手く舞空術で補える。そして、想像以上に【ゼロドライヴ】と相性がいい。ハヤト、まさかここまで見抜いてぼくにこれを勧めたのか。あいつならやりかねないところがある。……種族とスキルの組み合わせとか言っていたし、あいつが何かに勘付いた可能性はあるかもな。


「ウグルルルルゥ……」


 新魔法の威力も申し分ない。近接戦闘にも対応できるだろう。ただし、リーチが短いのが難点か。それを跳ぶので補えば、もしかしたら上手く使いこなせるかもしれない。研究のために動画サイトでバスケットボールの動画を見よう。VRのトレース・システムなら、特に鍛える必要もない。その逆もしかりで、VRでいくら鍛えても、それはイメージという形で体に定着するだけで、実際にその動きを現実で行うには現実で鍛える必要がある。話がそれた、今は目の前の敵に集中しなければ。


 ゴリラは頭にぼくの一撃を受けた後、目に見える形で動きが弱まった。これはいける。格上だけど、あのでかい腕の攻撃さえこちらに当たらなければ充分に勝機はある、そう思った。


 さぁ、もう一度狙う。相手の動きは明らかに精彩を欠いている。さっきよりは狙いやすいはずだ。


 ダッシュ。接近。跳躍。


 両手の間に作り出したそれを前に突き出すようにして当てようと──する前に腹をカウンターでぶん殴られた。


「がはっ」と肺から空気を押し出されるようにしてぼくは思い切り後ろに吹き飛んだ。現実だったら絶対内臓破裂で死んでる。今もめちゃくちゃ腹が痛い。片腹大激痛(本来の意味で)。


 正面からはやはり危険か。なにかやつの目を潰す手立てがあれば楽になるはずだ。……あるな。【フラッシュ】を使えばいい。あれは妨害系魔法だ。激しい閃光と爆音で敵の聴覚と視覚を一時的に封じることができる。接近しながら閃光を使って、目を晦ませたときに跳躍してやつに思いっきりぶつければ、大きなダメージになるはずだ。


 さぁ、やってやろうじゃないか!


 軽い足跡とともに一気に踏み切って加速する。敵のゴリラは今までとは違って腰をすえてこちらを迎え撃つ構えのようだ。


 拡散する魔弾(シューター・ショット)を放って牽制しつつ、一跳びでゴリラの頭を狙える位置まで走ると同時に光を閃かせた。モンスターはたまらず腕を交差して目を覆う。生物的な反応だから、どうにもならない。勝利の女神はこちらに傾いた。


 ダン、と思いっきり左足を踏み込んで跳躍する。両手で頭上に抱えた光球を少し前に振り出すようにしてゴリラの頭頂部にぶつけた。


 絶叫。乱舞するポリゴン。消滅していく敵の体。何とか勝てた。自分の体力ゲージを確認すると、3分の1ほど減少している。これはぼくの物理防御のステータスが低いということなのか、それとも、相手の攻撃力がたかいのだろうか。それともどっちともが混ざっているという可能性もある?


 まぁ検証はまた今度にしよう。今はとりあえずここから戻ることが先決だ。フィールドマップをホログラムで表示する。基本的にどの種族でも、このフィールドマップは基本データとして開くことができ、その情報は各地の冒険者ギルドで手に入れられる。かなり奥まで探索してしまったようだから、戻るにもそれなりの時間がかかるだろう。体力がこの状態だとなにかの拍子に倒されかねない。慎重に……慎重に戻らなければ。


 林の陰に体を潜めながら入り口に向かって進む。単独でいるモンスターにはこちらが見えない角度から【シャープシューター】でクリティカルを狙い、そうでなければ気づかれないように逃げた。気づかれて戦うこともあったが、なんとか退けて、一目散にフィールドの入り口を目指した。体力と魔力どちらも削られることになったけれど、運良く入り口から転がりだせた。あとは街までモンスターから逃げつつもどるだけだ。


「ふー」


 結構な距離を走ってきたから、とりあえずは息を整え、水筒の水を飲んで水分補給をする。仮想世界とはいえ、水分不足というものは大変だから、しっかりと管理する必要がある。現実では言わずとも知れたことではあるが。


【舞空術】のおかげで、ある程度の敵は無視しても脅威にはならなくなった。全くもって便利なスキルである。


 大蜘蛛が出てきたら、その巣穴らしき地中の穴ごとそれを跳び越して全力で逃げる。ゴブリンだったら跳びつつ吹き飛ばし効果のある魔法を使って距離をとるなどといった対策でスムーズに街まで戻ってこれた。


 ギルドに寄って報奨金をもらう。35000コルバ。おおう、結構な値段だ。ぼくにはどうしてもMP回復用のポーションが大量に必要になるから、これはありがたい。早く戻らなければ夜間に入ってしまい、今のぼくでは倒せないモンスターがわいてくるから、何もドロップ品は回収していない。今度からはもっと早い時間帯がいいかもしれないな。

 

 大量の金貨を袋に詰めて、ログアウトする。


 仮想世界から目を覚ますと、ぼくの部屋の窓から西日が差し込んできていた。かなり長時間集中してゲームをやっていたようだ。喉も渇いて仕方がない。


 次はどうしようかな、と考えながらぼくはリビングへ降りていった。


ここまでお読みいただきありがとうございました。感想、評価等ございましたら是非お願いいたします。


それではまた次回お会いしましょう。

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