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《Liberty of Life》  作者: 魚島大
2章 Flying with conviction/飛び立て、その想いで。
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19話 To my precious you/大切な友へ

投稿が遅れて申し訳ありませんでした。

「んあ?半妖精におすすめのスキル?」


 通信先に浮かぶホログラムで、怪訝な表情をしたハヤトが映った。今回は戦闘中じゃなくて何よりという気分だった。とはいえ、ぼくひとりじゃ手詰まりなことにかわりはないから、事情を隼人に説明する。つたない僕の説明をハヤトはじっくり聞いていた。


「なるほど。弱点をなくしたいけど、半妖精という種族自体に邪魔されているってわけか」


 さすがゲーマーというべきか。ぼくの話を聞いて一発で理解してくれたようだった。そのほうが手間も省けるのは間違いない。実にいいぞ。困ったときのお釈迦様ならぬ困ったときのハヤト様だな。


「うーん。俺自身の種族は人間だから、逆に取得できないスキルもあるんだが、そうだな」


 あごに手をあててハヤトは考え込んでいる。こいつはイケメンだから、そんな格好をしていても似合う。こういうのを見ると、ただしイケメンにかぎる、という言葉が僕の中に浮かんでくる。ぼくがこいつの友人ではなかったら、嫉妬の嵐が吹き荒れているだろうと思った。


「君しか頼る友人がいないんだ、頼むよ」


 両手を合わせて頼み込む。ハヤトはいいやつだから、顔見知りが頼んだら無碍にはできない。付け込んでいるようで嫌だけど、振り回されているからこれでおあいこともいえる。ぼくのその懇願ともいえる頼みに、ハヤトは再度「うーん」とあごに手を当てて考え込んでしまった。1回引き受けたら終わるまでは間違いなく真面目にやりとおすのがハヤトだから、しばらくこのまま動かないかもしれないとぼくは思った。


「ちょっと待っててくれ。俺のクランの書庫に何かあるかもしれん」


 ほらやっぱり。ぼくの予想は大当たり(ビンゴ)だったじゃないか。ハヤトはそう言って一度通信を切った。ということは、あいつはしばらく調べ続けるはずだから、連絡は来ないだろう。その間どうやって時間を潰そうか考えた。あとなにかやること、やること、やること……、あそうだ。防具買わなきゃ。物理防御力をあげるにはそれも必要だよ。すっかり頭から抜けていた。


 ぼくは図書館を出て、中央広場まで戻った。ここから図書館と逆の方向、つまり東に行けば武具や防具が並ぶ通りだ。NPCの店だけではなく、初心者向けのPCの店もここにはある。その店も、前衛向け、後衛向けと分かれているそうだから、ぼくの場合は後衛向け、いや、あれか。ソロプレイだから前衛向けの軽い鎧の方がいいのか。どうなんだろうか。まあ、それは専門である人にでも聞けばいいかな。


 中央広場でミックスジュースを買って喉を潤しながら、ぼくは東に向かった。


 武器屋というか鍛冶屋が大量に並んでいるような通りだ。ぼくのような初期装備の人もぽつりぽつりと歩いているから、ぼくが目立つということはない。基本的に、魔法使いの人も前衛の人も最初のワックタウンで買えるような装備ばかりだ。何かしら買っておいたほうが良かったかもしれないけど、魔法使いのローブなんてぼくが着てもねぇ。


 まぁ魔法使いは魔法使いらしく、その類のお店に入ってみましょうかね。


「いらっしゃいませー」


 やっぱり客層としても、杖を持っていたりとんがり帽子をかぶっていたりと、一般の人たちがイメージする魔法使いの格好をしたような客が多い。その中で布の服を着て魔法使いが使うような杖を持っていないぼくは浮いていた。……やだなー、これ。


「どのようなご用件でしょうか」


 すごい、完全に浮いたぼくに対して完璧なる営業スマイル!本職(プロ)の人かな。


「動きやすい物理防御力を上げるようなものってあります?」


 僕自身は独り身なんだし、そんな仰々しいローブみたいな防具は要らない。「動きやすい」と注文をつけたから、その辺は店員さんもわかってくれるはずだ。だって見るからに優秀そうなできる女性っぽいから、ぼくの意図を読み取ってくれるはず……。


 店員さんは奥に引っ込み、なにやら物色をしていたようだけど、ほどなくしてこちらに戻ってきた。手には薄茶色の地味な革の鎧があった。


「お客様はお1人で生活していらっしゃいますね?」


「ええ」


 どこからその情報を手に入れていたのかはわからないが、向こうは妙に僕のことを知っているようだった。あれかな、掲示板でも見たのだろうか。


「でしたらこれが良いでしょう。少々値が張りますが、品質と防御力の上昇はお墨付きです」


「杖などはいかがいたしますか?」という店員の言葉に杖はいらないんで大丈夫ですと答えて、レジに向かった。その後ろで店員その他もろもろが驚いているようだったが、ぼくにはその理由がわからない。さっさとレジで金を払って出ていった。早くに問題が解決できた。予想外。


 店の外に出て、中央広場まで再度戻る。今のところ、依頼を受ける気は起きない。実際、今のぼくが依頼の途中でハヤトの連絡を受けたとして、それに応対しながら依頼を遂行できる能力はぼくにはない。だからのんべんだらりと中央広場のベンチで座って空を見ている。まだ冬が終わったばかりの春だから、現実世界では少し肌寒いところがあるんだけど、この世界では肌寒さは感じず、過ごしやすい気温だとぼくは思う。こんなところにもVR技術の発展を見ることができるな。数人がこっちを見ている。なかまになりたそうにこちらをみている?


 ま、それはないだろうね。だってぼくは半妖精だから、ぼくを仲間にしても特にメリットがないだろうからね。うん。


 あ、そうだ。せっかく防具を手に入れたんだから、装備をせねばならない。それをしなければ宝の持ち腐れならぬ鎧の持ち腐れだ。ステータス画面を開いて装備品を確認する。『オーディンの短剣』という恐ろしい文字が見えた気がしたけど、そこはスルー。スルーったらスルー!布の服の部分を赤鬼革の鎧に変える。物理防御力が上昇。自分の素の物理防御力の数値に鎧の分の物理防御力が加算される形だ。本当は腕部分とかも防御できた方がいいかもしれないけど、まぁ魔法使いだから大丈夫でしょ。……ここだけ見るとぼく自分自身のことなのに無責任だな。ハヤトに怒られそうだ。


 ステータス画面が通話がきたように震え、右下に「PN.ハヤトより通信が来ました」と表示される。お、来た来た。さすがハヤト。仕事が速い。


「防御力より回避力と移動力を上げるべきだ。舞空術をおススメするぜ」


 ハヤトの勧めるものは外れないという不思議な法則があるから、ぼくはもちろんそれに従う。


「舞空術? どんなのなんだい?」


 もちろんそんな名前のスキルがあることをぼくは知らない。比較的短時間で調べてきたことから、ハヤトがその情報を知る余地はあった、またはすでに知っていて何らかの理由でその情報が使えるか調べた、そんなところだろう。通信ホログラムにはどこか面白がるような表情をしたハヤトが映っている。一体何をこいつは考えているんだ……。


「それはお前が調べたときのお楽しみにしておけ、義孝」


 よりによって現実のほうの名前で呼ぶとは。なにか深い理由があるのだろうか。今のぼくにはハヤトがわざわざリアルの名前を出したことの方が気になった。


「……なにかあるのか、ぼくに」


 もちろんこいつが意味もなしにリアルの名前を呼ぶことはない。ハヤトはゲーマーであるからこそ、個人情報の流出というものは人一倍気を使っているはずだ。だから、ハヤトがわざわざぼくの名前を読んだということは、呼ばねばならぬ何かがあるということだ。


「なに、ちょっとしたつながりを、な」


 ハヤト自身も確証は掴めていないんだろう、自信なさげな口調であった。ま、こいつが調べているんだ、よきにしろ悪しきにしろ、ぼくが振り回されるのは確定といってよろしい。さてさて、どうしたものか。


「まあいいよ。君のことだ。対策は考え付いてくれるんだろう?」


 ぼくはハヤトとは長い付き合いだ。そして、この男は間違いなく動くだろう。その理由はわからないが。ぼくに理由を教えないということはぼくを巻き込みたくないか、ぼくが関係しているけど、ぼくの知らないところで決着をつけたいのか。さあどちらだろう。もちろんぼくの推測がすべて外れている可能性だってあるから、もしその場合は意味深に考えすぎたぼくが馬鹿だったというだけの話だ。


「おう、心配はしなくてもいいぞ。こっちでなんとかするからな」


 やはり友人の声を聞くと言うことは悪いことではない。ぼくはそう思って、新たなスキルへの期待を胸に、図書館へと戻る道を歩き始めた。


ここまでお読みいただきありがとうございました。感想、評価等お待ちしています。作者の励みになります。

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