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《Liberty of Life》  作者: 魚島大
2章 Flying with conviction/飛び立て、その想いで。
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18話 A room without books is like a body without a soul/本のない部屋は魂のない肉体のようなものだ

今回の名言は古代ローマのキケロの言葉からとりました。

 しばらく掲示板がお祭り騒ぎだったようだ。あの野次馬の中の誰かがわざわざぼくとエルフの戦いを実況していたから、それに関係して大量にスレがたっている。もちろんぼくの名前は流出していないし、とある半妖精という扱いになっている。おふざけのスレから本気の考察のスレまで千差万別だ。元気だね、皆さん。エルフであるクリアミラも銀髪という外見的特長がスレに載っていたから特定されやすくはなってしまうだろうが、それでもぼくよりは目立たないといえる。なぜなら、半妖精というのは「公式」で珍しい種族とされているのだ。ただレア種族になるから珍しいという問題ではない。もちろん、半妖精になる確率も極まれだと思っていいだろう。つまり何が言いたいかというと、ぼくは特定されやすくなった、ということだ。


 しばらくは野次馬に背中を叩かれたり、胴上げされたりぼくも主役のような扱いを受けていたけど、しばらくしたら運営の連絡が来て、『差別的発言・自らのクランへの強制的な勧誘、強要』ということで彼らはどこかへつれていかれていた。自業自得だから、反面教師になりこそすれ、同情するものは誰もいないだろう。クリアミラは「あんな人たちどっかに行ってしまえばいいのよ!」と強い調子で吐き捨てていた。やがて現実のお祭り騒ぎは沈静化して、代わりにスレでの議論に移ったといっていいのだろう。ここまでくるとぼくにはもう、なにもすることがないから、あとはその推移がどうなるか、だ。


 正直な話、こんなイレギュラーな戦闘がおこるとはぼくもまったく予想していなかった。しかも、皮肉なことにこれが初めての本格的なPC相手の実戦であったから、余計に、こんなことが怒るとは考えていなかったのである。ここで敗北していたら大惨事だけど、しっかりきっちり勝てたので問題はないとぼくは思う。むしろ心配すべきなのは彼女だ。


「えっと。クリアミラ。大丈夫?」


 非常に月並みな聞き方で申し訳ないのだけど、僕自身もまだこの状況を完全に把握できているとはいいがたいから、そこはなんとか納得してほしい。


 ぼくのその質問に彼女はきょとん、とした表情をしたあと大仰な仕草で手を振った。


「え、何が? ──ああ、さっきのこと? それならもう大丈夫よ。こういうゲームだとよくあることだから」


「本当に面倒くさいけど」とイラついた様子で腰に手を当ててため息をついていたクリアミラの様子は、まさに不機嫌絶頂というべきで、全く知らない人が見れば、いくら美人でも声をかけたくないと思うほどのとげとげしいオーラが彼女を覆っていた。はっきりいってしまえば、喋っているぼく自身がここから逃げ出したい思いでいっぱいである。でもそういうわけにはいかない。ぼくにも目立ってしまった以上、この状況を収束させる義務があるからだ。


「クリアミラ、とりあえずどこかでお茶にしようか。ここだとほら、視線浴びたままだから」


 私、不機嫌です!というオーラを撒き散らしている彼女に触ると棘が刺さるどころじゃすまないかもしれないが、とにかくどうにかしなければという思いでややしどろもどろになったけど、なんとか近くのカフェに移動した。彼女の手をひいてちょっと強引につれてきたからさらに起こっているかもしれないと戦々恐々しながら繋いでいる左手の先を見たら、ニコニコとして機嫌がよさそうだったから、ぼくは拍子抜けになってしまった。そんなにニコニコすることあっただろうか?ぼくが手を引いたから?いやいや、自ぼれにも程がある、そんなわけあるか。もしあったらぼくは驚きでひっくり返る自信があるぞ。


「ふふ、よかった、空いているね」


 彼女の機嫌はすっかり元通りで、今度は逆にニコニコと花が咲いたような笑みを振りまいていた。そしていつのまにか、店員を呼びながらオレンジティーを注文していた。店員が僕のほうに話を振ってくる。ぼくは彼女の豹変の方に集中していて考えていなかったけど、アイスカフェラテをとっさに頼んだ。人間急にいわれるとなかなか対応できないものだが、今回の場合は何とか取り繕うことが出来てよかった。


 やがて運ばれてきたドリンクを片手に改めて話をした。自分自身はここに拠点を構えていることや、もともとは友人に誘われて始めた──などということを、クリアミラとぼくは話した。色々2人で話したことはあったけれど、ここまで落ち着いた環境で話すことはなかったように思う。ゲーマーと思っていた彼女もぼくと同じように友人に誘われてLOLを始めたという共通点に二人して笑ったりしていたが、楽しい時間だった。ちょうどドリンクを飲み終わるころ、街の時計台の鐘がゴーン、ゴーンと鳴り響いた。


「もう三時か。私はもともと依頼に行こうと思ってたところなの。先に行くよ」


 そう言って彼女はオレンジティーの代金を置いて颯爽と去っていった。よくよく考えれば、ぼくも元々は別の目的があったのだった。それを鑑みると、さっきのエルフたちは迷惑以外の何ものでもないということだろう。彼女はいつものように風魔法で去っていったわけではなかったけれど、その後姿にはもう憂いを感じなかった。とりあえず不機嫌は吹っ飛んでいたようで何よりである。


 ぼくは少し残っていたアイスカフェラテを飲み干すとすぐに席を立った。僕自身も忘れかけていた目的があったからである。半妖精の弱点を埋める方法と、防御力の強化の方法だ。具体的には、何らかの防具の購入を目的としていたのに、さっきの連中のせいで頭からデリートされそうだった。何度も繰り返すが、いい迷惑である。それにあの発言。ゲームを現実と混同した挙句の発言だったのなら、あいつらの脳ミソの出来は限りなくお粗末である。もしかしたら、現実では勉強が出来たのかもしれないけれど、あのような発言をする時点で人間性はお寒い限りである。


 レジで彼女が置いていった230コルバと自分の分である250コルバを払って、店を出る。「ありがとうございましたー」という店員の言葉を背中に受けながら、ぼくは町の西側にあるという図書館に向かった。もちろん図書館というから、本がおいてあるのだろうが、そこに何か突破口があるかもしれない。そう思ったからだ。


 図書館に入ること事態は無料のようだが、本を借りると1冊500コルバかかるようだ。よく、魔法使いの学校であるような天井まで届く本棚というものであった。こういう風にするのはいいが、一番上の本はいったいどうやってとるんだ、という純粋活素朴な疑問がぼくにはうまれてきた。まあ何らかの方法が有ることは間違いないだろうから、職員にでも聞けばいいだろう。そう思った。しかしそれにしても、この広大な本山から自分の目的とする図書を見つけるというのは一種の修行に他ならないのではないか。そんなことまで考えるような膨大な本の量である。


 スーパーのように番号と具体的な例を書いた札が天上から下がっているのでどのような本がおいてあるのか、ということがわかるようになっているから、防御力を上昇させることができるような本のところへ向かう。しばらく本を物色してみたけれど、種族特性と合わないようなものも多く、なかなかよさげな物が見つからない。まさかこんなところでレア種族であるという弊害を感じることになるとは。全くの予想外である。


 ならば、と今度は物理防御力ではなく物理攻撃力を上げるような効果が載っている本を探しに行こうと思い、天井から下がっている札を見ながらしばらく広い図書館内をうろついた。


 結果から言うならば、空振りに終わった。たしかに物理攻撃力をあげることに関して有効な手段はいくつかある。しかしここでも、それを習得できる種族の壁が立ちはだかった。レア種族である半妖精はどうやらこういった手軽にみずからを強化できる手段に関しての基準が非常に厳しいようだ。どうしたものか。完全に手詰まりであった。さっき職員に聞けばいいのではと考えたけれど、その職員のような人、もしくは種族が全く見当たらない。これはどういうことだ。うーん。


 考えても仕方がないようだ。図書館内はステータス画面のオープンが禁止である。現実世界でいう携帯電話による通信の禁止と同じようなものだろう。なぜなら、ステータス画面からフレンド通信が可能だからだ。静かにしているこの空間でフレンド通信を行われたら迷惑であることは間違いない。そんなことをしたらぼくがさっきのエルフたちのようなものになってしまう。そんなことはしたくない。


 ということで、図書館を出る。よく見ると、この図書館はとてつもなくでかい木をくりぬいてその木の中に作ったようだ。このような建築は現実にはないだろう。まさにファンタジー建築というわけだ。ぼくはフレンド通信を試みたが、よくよく考えてみれば、ぼくのフレンドというのはハヤトとクリアミラしかいないということに気がついて失笑がもれた。


 ぼくはハヤトのような口が回る人間ではないし、いくら友人とはいえ、女性にフレンド通信をこちらから行うというのはいささか気が引けた。ハヤトならばその点問題ない。なにせ幼なじみだからな。


 そう考えて、通信しますか?のホログラムにイエス、と答えた。


ここまでお読みいただきありがとうございました。感想、評価等ぜひぜひお願いいたします。作者の励みになります!

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