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《Liberty of Life》  作者: 魚島大
1章 Welcome to the “Liberty” life!/「自由な」生活へようこそ!
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10話 Red sun/赤い太陽

風邪と薬による蕁麻疹から復帰しました。リハビリ作兼急造品なので短いです。

 緩やかな風が草原を吹き渡る。もう繰り返し見た光景をぼくは見流し、見慣れた衛兵の職を盗み見て、ワックタウンへ入る。太陽の光はオレンジ色に淡く輝き、西に沈もうとしていた。現実(リアル)で昼食を取ってからそれなりの時間もたっているようだ。あまりやりすぎても良くないだろうとぼくは思った。


 日曜日(あした)も休みなのだから、そこまで急ぐことはないだろう。ぼくは単独のゲームプレイだし、始めたばかりなのだ。ハヤトははるか先へ行っているだろうし、へビィゲーマーと考えられるクリアミラも、あの慣れはLOLというゲーム自体を始めたばかりでも、同じような完全再現(フルダイヴ)型のVRゲームをやってきたからだろう、ということが伺える。ぼくは彼ら2人と違って本格的なゲーマーというわけではないから、自分のペースでやっていくことにしようと、今更ながらに決意しなおした。……よくよく考えると、ゲームに決意っていう表現は変かな。


 そんな取り止めのないことを思いながら、西日に照らされた最初の街を歩く。ギルドに向かう広場に先ほど別れたクリアミラがたたずんでいた。こちらからは夕日に照らされた横顔しか見えない。しかし、その夕日と彼女の美しい横顔が相まって、不思議な一枚の写真のような雰囲気を醸し出していた。銀髪が夕日に映えて、不思議な色に変化する。初めて会ったときから快活な彼女だったけれど、今の彼女は不思議な雰囲気を見にまとっていた。


 ぼくはそんな彼女をなんとなく邪魔したくなくて、大きく左に迂回してギルドへと向かった。


 アイテムインベントリにデゾルドル草が入っていることをしっかりと確認してから、ギルドの扉を叩く。中に入ると、何人かのNPC職員が忙しそうに立ち働いていた。けれど、PCの冒険者は数人しか見当たらない。やはりリア友と始める人が多いのか、2人以上、多いときで5人くらいの集団が多い。ぼくのようなソロプレイヤーは数が少ないようだ。ぼくが本当にソロというかというのは厳密には違う気もするけれど。


「あら、スヴェンさん」


 すっかり顔馴染みになってしまったNPCの女性職員にデゾルドル草を手渡し、報酬8500コルバをもらう。今回の依頼の最中には特に売れそうなドロップ品は残念ながらなかった。


「何か依頼を受けていかれますか?」


 にこりと笑いながら問いかけてくる職員に「いや、今日はもうあがるから、大丈夫」と答えてギルドを出る。まだ西の空に弱弱しい光になりながらも沈むぎりぎりのところでふんばっている太陽が見えた。クリアミラはどうしたのかと思って彼女がいた場所に眼を向けてみるけど、そこには柔い風が吹き、ぼくの頬をなでてくるだけだった。


 快活エルフ娘、というのが第一印象であるけど、妙にとらえどころのない女の子であることも確かだ。よく、女性は二面性を持つというけれど、彼女のさっきの雰囲気もそれにあたるのだろうか。……そんなことは性別男のぼくが考えても詮無きことだ、とかぶりを振って、沈みゆく太陽を眺める。


 LOLでは夜のほうが各種モンスターが強くなるという。その状態ではまだレベルの低いぼくは危険だろうと思う。種族特性でオーバーモンスターを引き寄せるのだから、泣きっ面に蜂になりかねない。

 

 ステータス画面を開き、ログアウトのボタンを押す。一瞬の意識の明滅のあと、透明なガラスのような曲面に包まれたベッドに寝ている、という状況を思い出した。ああそうだ。ぼくはハヤト──もう現実世界に戻ってきたから林尊人でいいだろう──の部屋にいて、なおかつ彼の購入したVRベッドを借りているのだった。傍らの尊人はまだVRベッドの中だ。その表情はギアに隠されていて、伺えない。窓を見ると夕日は沈み、現実世界にも夜の帳が下りようとしていた。

 

 幼い頃からの友人とはいえ、あまり長居することも良くないだろうと思ったぼくは、尊人には悪いけど、先に帰らせてもらうことにした。歩いて30秒もかからないところにぼくの家はあるから、なにかあったら尊人本人がぼくの家に駆け込んでくるだろう。僕はそう思って、尊人のお母さんに一声かけて彼の家を辞去した。


「ただいま」


 自宅に帰ると、珍しく父の靴があった。最近新しい企画をしているから、といって家に帰ってくるもの遅いし、平日を休みにして日曜出勤が多かったというのに。どうしたんだろうか。


「おお、義孝。なんか久しぶりだ」


 父はちょっとやつれていたけど、いつものように元気そうだったから大丈夫だろう。リビングにつながる台所には母がいて、なにやら煮物を作っていた。

「お帰りヨシちゃん。ご飯できてるから」


 そういう母に答えながら椅子に座って父と二言三言喋りながら食事を取る。ああ、尊人のお母さんのカレーも美味しいけれど、やはり自分の家の食事が一番である。出来立ての煮物を食べ、それを最後に食事を終えて、冷蔵庫から食後のプリンを取り出して2階の自分の部屋へ階段を上がる。


 プリンを食べながら春休みの課題を進めておく。──尊人は大丈夫か。LOL、春休み、徹夜、VRゲーム……あっ(察し)。


 それから1時間ほどかけて課題を進めた。お風呂を沸かして、一番に入る。なにせうちの母親は長風呂だから、万一母親のあとに入ろうものなら、時間的な意味で大惨事になること請け合いである。藤原家の風呂は広い。大浴場ほどではないけれど。家の大きさに見合った広さというべきか。まあ一般的な家よりは大きいと思う。


 そしてさっさと歯を磨いてベッドに入る。それにしてもVRベッドはさすがというべきである。しかし明日は日曜日だから尊人の突入するのは気が引ける。普通に自宅でVRを楽しもうと思う。そうとりとめのないことを考えていたら、意識はクッションに引かれて沈んでいった。


短いながらお読みいただきありがとうございます。感想などいただけると作者の励みになります。

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