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混乱

職員室の校内電話が着信音を響かせた。


「もしもし?」


これからの対策について会議の進行を務めていた校長は話を中断して受話器を取った。

口を挟まず話だけ聞き、「分かった」と短く返事をした後電話をきる。


「保健室にいる三人な、傷口縫ってもらった方が良いらしいんだ。誰か車回してやってくんない?」


校長が顔を上げ職員室内を見回す。


「僕が行こう」


アレックスが車のキーを持ちすぐに席を立つ。


「ああ、頼む。もう三人は昇降口で待ってるそうだから」

「分かった」

「キミの車は全員乗れるのか?」


クレイズの呟きに、校長がそういえばとアレックスの顔を見る。

運転手にアレックス、治療が必要なロッソ・シギ・レンリツ、付き添いに深夜を乗せるとして、最低5人が乗車出来なくてはならない。


「お前のカマロちゃんって何人乗りよ?」

「この緊急事態に交通法なんて守ってる場合だと思うかい?」


アレックスは爽やかな笑顔でその場からあがりそうになった抗議の声を押し黙らせ、職員室をあとにした。


アレックスが昇降口に到着すると、傷口を止血処置された三人と深夜、イセリタの姿があった。


「待たせたね!さあ、行こうか!」

「アレックス先生!あなたの運転で行くんですか?!」

「何か問題があるかい?」

「ありませんけど、急いて危険な運転はしないでくださいね。子供は頭を打ってるんですから、安全運転をお願いしますよ」

「勿論だとも」


生徒の容体を第一に心配するイセリタに大きく頷いてからアレックスはレンリツを抱えあげた。


「ちょっと。降ろしてよ。いくら怪我してるからって私一人で歩ける」

「君はよく転んでいるだろう?私が抱えて移動した方が早いし安全さ!」


言いながら、アレックスはなるべく歩行の振動でレンリツの頭が揺れないように気を付けながら職員駐車場へ向かう。

シギは深夜に肩を貸してもらい、ロッソはイセリタに手を引いてもらいながら先頭を行く二人の後を追う。

駐車場が近づくとロッソがきょろきょろと周りを気にするそぶりを見せた。今朝三人が通り魔に襲撃を受けたのはここ、職員用駐車場内であるという話はアレックスは既に職員室で聞いていたので、彼もまた周囲への警戒を強める。

幸い6人は何事もなくアレックスの愛車に辿り着く事が出来た。アレックスはレンリツを助手席扉の前にゆっくりと降ろし、運転手席に回り込みながらドアキーで車のロックを解除する。

後部座席に深夜がシギとロッソを押し込めるように乗せ、自身も乗り込む。

さすがに男三人が後部座席に座ろうとすると窮屈のようだった。


「それじゃあアレックス先生、任せましたよ」

「ああ」


力強く返事をしてアレックスは運転席に乗り込む。

しかし、エンジンをかけようとしてアレックスがガソリンメーターが振り切れる寸前である事に気付いた。


「おや?」

「どうした?何かトラブルか?」

「いや、どうやらガソリンがなくなっているみたいなんだ」

「なくなっている?」

「ああ」


それだけ深夜に返すとアレックスはすぐに車を降り、周りに停まった車の外装を確認しながら携帯を操作する。

校長に電話をかけているらしく、車を出せる職員に自分の代わりに病院へ向かってほしいと伝えていた。

その話を聞いていたイセリタが、アレックスが電話をきると同時に詰め寄る。


「ガソリンがなくって出発出来ないだなんてどんな間抜けですか!」

「まったく不思議なものだよ、昨日給油したばかりなのに」

「しなくちゃと思ってて、したつもりになってだだけではないのですか?」


アレックスが首を横に振る。


「でも、ガソリンが勝手になくなるなんてありえないでしょう」

「そうだよ、ありえない」


イセリタの言葉を重ねて事実を肯定する。


「つまり、誰かにガソリンを抜かれたって事ですか?」

「恐らくね。幸い、被害にあったのは私の車だけみたいだけど」


無理矢理抉じ開けられた痕跡がありありと残った給油口を見つめながら、アレックスは呟く。



アレックスから愛車に不具合が生じて出発出来ないから他の教員の車をまわしてほしいと連絡を受けた校長はすぐにその場にいる車通勤の職員に車の手配を指示した。

不具合の詳細を尋ねたくはあったが、そんな話は後でも聞ける。

通り魔が出没したという駐車場に、一秒でも長く襲われた三人を待機させていたくはない。

武闘派であるアレックスとイセリタが一緒なので、もしも通り魔と再びエンカウントしても大丈夫だとは思うが。

通り魔対策はこれといった案が出ないまま、生徒へ一人での行動はなるべく控えるように声掛け、その保護者への連絡、校舎周りの見回りなどがすぐ行動に移せる案だとまとまりつつあった。

この場の誰もが通り魔撃退の方策などない事は分かっている。

どれだけ警戒していようが遭遇する時は遭遇するのだ。

遭遇した際どんな対処が出来るかなど、いくら心掛けを説いたところで本人次第でしかない。

生徒全員を常に見守る事など出来ないのだから。

漫画のようにピンチの時に駆けつける事など都合良く出来ないのだから。

対策会議など、保護者や教育委員会への「学校側はちゃんと対策しました」アピールでしかない事実に校長は歯がゆさを感じた。

時間は一時間目の開始時間をとうに過ぎている。

通り魔に対する不安感を何一つ拭えないままだが、一度担任を各教室に向かわせた方が良いだろう。

そう指示を出そうと口を開きかけた校長の耳に、廊下からばたばたと派手な足音が聞こえてきた。

音はまっすぐに職員室に向かってくる。


「失礼します!」


ガラリと派手な音を立てて職員室の扉が開かれると、2年のユトナが息を弾ませ駆け込んできた。


「何事ですか」


レストが席を立ちユトナに近付く。


「グラウンドが燃えてるんだ!」

「はい?」


ユトナに手を引っ張られて共に来ていた奈月が、彼女に補足する。


「違うでしょユトナ。燃えてたのはドラム缶」

「そうそう!」

「分かるように説明をしなさい」

「廊下を歩いてたら」

「教室で待機していなさいと放送があったでしょう」

「そんな事言ってる場合じゃないんだって!」

「分かりましたから。落ち着いて話しなさい」

「えっと、あれ?!奈月、オレどこまで話したっけ?」

「廊下を歩いてたら」

「そうそう廊下を歩いてたら、だ!そしたらグラウンドの方から煙が立ち上ってるのが見えたんだよ!」

「それで?」


レストが先を促す。

燃えている。煙。ドラム缶。

嫌な予感しかしなかった。


「よく見たらグラウンドにドラム缶があってさ!物凄い勢いで中身が燃えてたんだよ!」

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