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再会

秋の気配が濃くなった時分、花神楽商店街では今日も賑やかな声が響いていた。

その一角で人待ちをしているのだろうか、腕時計に視線を向けては辺りを見渡す灰花の姿があった。

180を超える長身は商店街を行き交う人達の波に埋もれずよく目立つ。

そんな灰花の視界に入らぬよう建物の影に隠れて彼を監視する3人の姿があった。

灰花の友人である隆弘、テオ、ノハの3人だ。


「灰花、ずっとそわそわしてるね」

「そりゃそうだろ、もうすぐスロワとの待ち合わせ時間だからな」

「1時間前に待ち合わせ場所で待ってるとは男の鏡でござる」


今日、灰花はスロワとデートの約束をしている。

いくら二人が付き合っているとはいえ、灰花がスロワと知り合ってからの時間はテオ達の方が長い。

なので、彼らは灰花からスロワと巡るデートコースの相談を受けていたのである。


「灰花、ちゃんとスロワと恋人らしい事してたんだな」

「アイツいつもくずはの事しか喋らねェからな」

「彼女自慢ならぬ、くずは自慢」

「彼女からホモ花って呼ばれてても仕方ねぇわ」

「同感でござる」

「灰花はホモ花に改名したの?」

「そうだぞ、宮下ホモ花だぞ」

「そっか、知らなかったよ。これから名前、間違えないように気を付けないと」

「たかちゃん、ノハが真に受けるから冗談は選ばないと」



親友達が今自分の事をホモ呼ばわりしていて、しかもデートについて回ろうとしているなどとは夢にも思っていない灰花が、人混みの中に見覚えのある姿を見つけて顔を綻ばせる。

視線をたどると見覚えのある少女の姿があった。

灰花の彼女、スロワだ。

ばたばたと慌てた様子で走りながらこちらに向かってくる。

灰花の目の前で立ち止まり、後膝に手をついて大きく息を吐いた。かなりの距離を走ったのだろうか、呼吸を整えようとするも中々整わないようだ。


「灰花、お待たせ!ごめんね、待った?」

「いや、俺もさっき着いたとこだよ。そんな急がなくて良かったのに。まだ待ち合わせ時間にだってなってないぞ」


言いながら灰花は上下するスロワの背中をさする。


「もー寝坊しちゃってさ!まじ焦った!家出てから時間確認する余裕なんてなくって!」

「さては今日が楽しみで中々寝付けなかったんだろ」


呼吸が整ってきたスロワが顔をあげて灰花を見る。


「そうに決まってんじゃん!ずっと楽しみにしてたんだから!」


まっすぐ笑顔でそう言われ、つられて灰花も笑う。


「おう、良い一日にしようぜ」

「期待してる!ほら、ちゃんとエスコートしてよね!」


スロワが灰花の腕に自分の腕をするりと絡ませると灰花が焦った声をあげた。


「おい」

「何よー、彼女が彼氏と腕組んじゃいけないの?」

「いけなくないけどよ」

「じゃあ何さ」


ジロリとスロワが灰花を見上げると、灰花はその視線から逃れるようにスロワから顔を背す。それでもスロワは腕を離さず視線を離さずにいると、灰花がぽつりと呟いた。


「照れる」

「は?」

「だから!こういうの照れるんだよ!」


想像していなかった返事なのだろう、スロワは一瞬固まってから笑い出した。

行き交う人々が何事かと視線を向けたが、すぐにカップルが仲睦まじく会話をしているだけだと分かり通り過ぎていく。


「わ、笑うとこじゃないだろ!」

「笑うとこでしょ何それウケる!灰花って確かに変なとこでウブだよね!」


灰花が言い返す事が出来ず渋い顔をする。

そんな彼がおかしくて押し殺す事なく笑いながら、照れる彼氏などお構いなしにスロワは嬉しそうに灰花の腕に身を寄せた。



「いい感じじゃねぇか」


灰花とスロワのやりとりを影から見守りながら、テオとノハは隆弘の言葉に頷く。


「ホモ花、嬉しそう」

「だな」


ノハが隆弘の冗談を真に受け灰花の事をホモ花と呼んだ事には二人共、面白いからと訂正せず会話を続ける。


「なぁ、結局どんなデートコースになったんだよ」

「まずいつも二人で行ってる楽器屋行って、スロワが気になってるっつってたカフェ行って、カラオケ行って、最後に紅葉に色づいた遊歩道を歩きながら帰るってコースだ」

「思ったより普通なんだな。たかちゃんプロデュースだからもっとおしゃんてぃーなデートプランかと思ってたでござる」

「こういう時はデートだからっつって無理に背伸びして小洒落たとこ選んでらしくない事するよりも、いつも通りの方がいいんだよ」

「さっすがたかちゃん!経験豊富な色男は違うね!」

「よせよ、俺はリリアン一筋だ」

「ねえ、あの二人、移動するみたいだけど」


見ると灰花とスロワはいつも二人が足を運んでいるという楽器店がある方向へ歩を進めはじめているところだった。


「おッ、腕組んだままじゃねぇかよ」

「俺達も腕組んじゃおうぜ」

「テオと隆弘が腕組むなら僕も組みたいな」


隆弘の腕にテオとノハが絡もうとしながら、二人をおうために三人が物影から出てくる。


「目立つだろうが離れろ!」

「断るでござる」

「僕もやだー」


口では離れろと言いながら隆弘の顔は楽しそうに笑っていたので二人は離れようとはしない。

商店街に男子高校生の騒がしくも楽しそうな声が響いたが商店街の雑踏で、三人のはしゃぎ声は灰花とスロワには届かなかいようでこちらに気付く様子はなかった。

半ばテオとノハを引きずる形で隆弘が灰花達の後をついて歩を進めていると、見覚えのある人影が隆弘の横を通り過ぎた。

思わず隆弘は立ち止まり記憶にある名前を呼んだ。


「ヨシノ!」

「にゃ?」


ヨシノと名前を呼ばれた人物が振り返る。隆弘と目が合ってから訝しげに隆弘の顔をまじまじと見ていたが、暫くすると思い出したのか、「あ!」と声をあげた。


「隆弘クンじゃん。おっひさー!」


ヨシノは片手を天に向かって伸ばし、左右にぶんぶん振り回しながら再開の挨拶を告げる。

隆弘はテオのノハを自分の後ろに下がらせて警戒の色を濃くした。


「お前、こんな所で何してやがる」


夏休み、宮神楽小学校でガス爆発事故が起こった。

世間には事故だと報道されたが実際は故意に仕組まれたガス爆発で、隆弘は現場に偶然居合わせ一部始終を見ていたので知っている。目の前にいるヨシノが全て企てたのだと。


「怖い顔しないで、今日はお休みだから花神楽に遊びに来ただけだよ」


あの日と変わらない笑顔を湛えながらヨシノは答える。


「一人でか」

「そうだよ」


隆弘は辺りを見回す。ヨシノと共に花神楽にやって来ていた少年、裕一の姿はなかった。


「お前、夏休みにぐら校来てた奴だな」


テオが隆弘の背中から顔を出す。


「虫取りしてたら倒れちゃって昇降口で横になってるって紹介してもらった人かな?えっと、名前は確か…」

「テオだ。いやはや、どうにも夏は心を少年に戻してしまうらしくいかんでござる。その情けない姿は今すぐ脳から削除してくれ」


ノハも隆弘の背中から顔を出す。


「その子、二人の知り合いなの?」

「はじめましてさんだよね、ヨシノですー!」

「ノハだよ、はじめまして」

「テオクンにノハクンだね、よろしく!」

「うん、よろしく」


きゃっきゃと楽しそうに振る舞うヨシノの姿からは、夏休みのガス爆発のような無茶をやらかそうとしているようには見えない。

極端な話ではあるが、そもそもガス爆発に至った原因はヨシノが友達との約束を果たすための行動した事だったと隆弘は記憶している。

その件を抜きにすれば、単純に楽しい奴だったとも記憶している。

隆弘は警戒を解いた。


「おや、あそこに見える銀髪頭は灰花クンだね。おやおや、お隣に彼女さんとはデート中かな」


目ざとく灰花の姿を見つけたヨシノは、何かに気づいたらしく隆弘達と灰花を交互に見る。


「キミ達もしかして二人をつけてんの?」


図星をつかれて隆弘とテオは苦い顔をする。


「親友のデートがうまくいくか見届けてやらねぇとな」

「へぇ、悪趣味だね」


悪気なく放たれた言葉が隆弘とテオの良心にちくりと刺さったが、灰花のデートという面白いイベントを前にそんな痛みは自分達を引きとめる痛みにはならない。


「その悪趣味にお前も付き合せてやろうか」


隆弘が「どうせお前暇なんだろ」と言葉を続け、ニヤリと笑う。


「確かに予定はないけど。お邪魔じゃない?」

「お邪魔なもんか、気にするな」

「そうだよ、皆一緒だともっと楽しいよ」

「んー…」


テオとノハにも誘われてヨシノは考え込んだ。

明確な予定はないとはいえ宮神楽から花神楽にやってきたという事は、それなりに寄りたい所などあったのだろう。


「無理にとは言わねェけどよ」


隆弘さんの言葉にヨシノは首を振り、無邪気に笑いながら答えた。


「折角のお誘いだもの、共犯になっちゃおっかな!」

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