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chap 2・午前10時半の転入手続き


「……紹介する。お前をこの学校に転入するのに協力してくれた、璃里浜女子高等魔術学校理事長──」

「ウェリア・L・星塚でーす!」

 命知らずにも、あの魅雪の紹介を完全にぶった切る形で元気よく自己紹介した女性──それも信じたくないことにこの学校の理事長で、かつ都津風をこの学校に入学させたいと提案してきた──ウェリアは、新しいおもちゃでも手に入れた子供のような満面の笑みで都津風の方を見つめ、楽しげに手を振っている。

「あ、は、はあ……都津風、ユーキです」

「おおっとお? ちょーっと元気が足りてないんじゃないのかい兄ちゃん? もっと元気にぃ、いえーい☆」

 ……大丈夫か、この人。主に頭が。

 ――――――脳内に1ヘクタールくらいのお花畑持ってるんじゃないかこの人。

 ―――――――――本当にこんなふざけた感じで理事長なのかこの人。

「何が言いたいのかはあらかた察しが付くが、今は耐えろユーキ……」

「おう……」

 魅雪に言葉に、何とも言えない表情を作るユーキ。

 恐らくこうなることが分かっていたのだろうか、何やら「やっぱりか」というような微妙に苦い表情を見せると、未だテンションの高い理事長―――ウェリアに向かって喋りだした。

「……この間渡した書類は、目を通したな?」

「ん、読んだ読んだ。都津風(とつかぜ)ユーキ──うん、変わった苗字だねぇ……。以前通っていた学校は普通の公立高校、趣味はゲーセン通い、経歴、特筆すべき事項は特になし(・・・・)。使用魔術は──術名、“Psycho(サイコ)”。学術名『念動サイコ論理ロジック』……であってるね?」

 書類というのは、どうも都津風に関する書類らしかった。超能力について書かれていないことから「魔術師としての都津風ユーキ」について書かれた、表向きの書類だろう。

 しかし、都津風には気になることが一つあった

「……アネキ、そのサイコなんとか……ってのは、なんなんだ?」

 先程の会話のなかで出てきた、聞きなれない単語。ウェリアは術名や学術名と呼んでいたが、都津風にはなじみのない言葉だった。かろうじて魔術関連の単語なのだろう、という予想ができるくらいである。

「お前、そんなことも知らないのか……」

 ……魅雪の反応をみるに、そうとう基本的な用語らしいことも理解できた。

「んーと、この世界には多くの種類の魔術があるのは、知ってるかな?」

 意外なことに、この場で説明を始めたのは、頼り無さげなウェリアであった。

「ええと……炎を出したりとか、水を操ったりとか……ですか?」

「そ、この世の中にあるそれらの魔術全てには、ちゃんと分類がなされていてね──」

「例えば、お前が今言った二つは『炎熱フレイ論理ロジック』に『流水アクア論理ロジック』という分類に含まれている魔術──どちらも初期の魔術において重要な役割を果たした、五大元素を司る魔術だな。特に炎熱フレイ論理ロジックは、近代に起こった産業革命において最も初めに表れた魔術として、『黎明の炎』と呼ばれている」

「へぇ……。全く知らなかった」

 気のない反応にがっくり、といった様子で魅雪は肩を落とした。そうとう基本的な知識だったらしいが、魔術の知識がからっきしの都津風にはさっぱりな内容だったので仕方がないだろう。

「そうそう、今ミキリンが言ったとーり。すべての魔術には、すべからくそういった名前が付けられているの。ただ、君の魔術なんだけど……」

「……ミキリン? ミキリンってひょっとして――――――」

「気にするな。いいな?」

「あ、はい」

 気になるネーミングがあったので追求しようとしたが、ミキリン(仮)の一言で止められた。目が二、三人殺ってる人間のような鋭い眼だったので、これ以上の追求はしないほうが吉だろう。


「コホン。話を戻すぞ。お前の使う超能力に該当するような魔術は、勿論ない。そもそも魔術ではないのだから当たり前だがな。ゆえに──」

「新しく名前を作ったと?」

「そう、そのとーり!」

 ガタンッと音をたてて座っていた椅子から立ち上がると、ウェリアは熱のこもった口調で語り出す。

「いやぁ……。普通なら、魔術に名前をつける場合はその魔術の特徴からつけていくんだけどねぇ。炎熱フレイ論理ロジックなんかは、当時の英語で炎を意味する『フレイム』から来てるし」

「……じゃあ俺の場合、超能力(テレキネシス)を使うんだから『テレキロジック』になるんじゃないですか?」

「ところがどっこい!既に電気を操る『電光エレキ論理ロジック』って似たような学術名があって、使えなかったのですよ!」

「普通、学術名は分類のための名前だからな。似通った名前は使えない。まぁ、テレキネシスもサイコキネシスも似たようなものだと判断して、念動サイコ論理ロジックで通すことにした」

「な、なるほど……」

「わかってくれたかな?」

「後でググるか知恵袋に相談します」

「ははーん、さては君わかってないな!?」

 色々と説明をしてくれるのは都津風にとってもありがたいのだが、長すぎて途中から聞いていなかった都津風はここで理解するのを放棄していた。

「……まぁ、いいだろう。その辺は学園(ここ)でしっかり学んでこい」

「そうそう、その辺の基礎までしっかり教えてあげるからさ〜!」

「は、はあ……」

「大丈夫、ここは国に認められた魔術学校だからね。こんな口調の理事長だけど、そんな不安そうな顔をしなくてもいいから! それに勉強を教えるのはちゃんとした先生だし!」

 なるほど、自分が他人にどう思われてるかの自覚はあるらしい。その点ではまだまともな人間のように見える。口調は威厳とかけ離れたものだが……人格が破たんしていなかっただけよしとしよう、と都津風は心の中で納得した。

「ええと……それじゃあ、これからお世話になりますッ」

「うむ、ようこそ璃里浜へ!」

「……ところで、元女子高って聞いたんですけど……男子はどれくらいいるんですか?」

「うん……? ううーん……? いち、にい、さん……」

「指で数えるくらいしかいねえんですか!?」

「女子高って名前が残っちゃってるからね~。残念でもないしむしろ当然」

「マジか……」



 〇〇



 理事長室から出て車を停めていた場所まで戻ると、魅雪は一人で車に乗り込んだ。これから用事があるらしく、役所まで帰る必要があったのだ。つまり、都津風とはここでひと時の別れである。

「──あいつは……私がここに通っていた頃のクラスメートなんだ。あの当時からあんな感じ──まぁなんだ、掴み所がない奴でな……」

 別れ際、車のウィンドウを開けて魅雪はボソッと語りだした。

「アネキ、あの人と同級生だったのか」

 さっきの会話。魅雪を「ミキリン」という(都津風に言わせれば全く似合っていない)あだ名で呼んでいたが、どうも同級生だったらしい。どうりで親しげだったわけである。

(──けど、このカタブツのケがあるアネキをあだ名で呼ぶとは……そうとうに親しい仲なのか、あのウェリアって人の肝が据わっているだけなのか……?)

「ミキリンねえ」

「~~~~~~~~~~~~ッ!あああああッ!!」

 ミキリンと聞いた瞬間、悶絶する魅雪。

 この男勝りな性格をした魅雪が、あたかもアイドルのような呼ばれかたをしていたというのは面白い発見だった。しかもこのあだ名を言われた本人は滅茶苦茶恥ずかしがっている。普段から怒っている魅雪と仏頂面の魅雪ばかり見ている都津風にとって激レア中の激レアな表情だ。

「あ、あのな、そのあだ名は高校のときにアイツがつけた名前なんだよ!

当時の私が、そのあだ名が広がるのを止めるのにどれだけの労力が掛かったことか……! 何度やめろと言ってもアイツは聞かないし……拡散するのは阻止できたものの、結局アイツだけは止められなかったが……」

「……昔からあんなキャラだったのか……」

 魅雪自身、この名前は好いているわけではないらしい。むしろ苦労した昔を思い出すだけらしい。

 と見せかけて、実は嬉しいのかもしれないが。

 頭を抱えてため息を吐く魅雪の口元が、なんとなく緩んでいるのを都津風は見逃さなかった。

(ツンデレだ……)

 口に出したら殴られそうだったので、心の中で静かに突っ込みを入れた。

「ああ、いやそんなことより、だ」

 都津風の視線に気付いたのか、話題を強引に打ち切るようにして魅雪は話題を変えた。ツンデレがバレたと思ったのかもしれない。

「この学校に男は少ない……というのはウェリアの話の通りだ。男であるお前がここに通うとなると、恐らく今までよりもハードな日常が待っているだろう」

「まぁ、今までとだいぶ勝手が変わるだろうからな。覚悟はしとくよ」

「ん、それもそうだが……。何があっても、プライドだけは守っておくことだぞ?いいな?」

「……プライド?」

 学校生活の心得には場違いな言葉が出てきて、都津風は思わず聞き返した。

「ああ……この学校にはお前よりも強い力を持つ生徒がごまんといる。単位を取るのは大変だろうが、まぁ、頑張れよ」

 ……が、帰ってきたのはもっと要領のつかない返答である。混乱する都津風を尻目に、魅雪は車のエンジンをかけた。

「俺より強いやつ?単位?ちょ、なんの話だよアネキ?」

「それじゃ、言質は取ったからな!せいぜい頑張れよ!」

「いやいや、一体なんの話なんだよ!?おい、アネキ!?」

 都津風の不安の叫びなど華麗にスルーし、魅雪を乗せた車は軽やかに、そして逃げるかのごとく速やかに学園の門を潜り抜けていった。




 後になって都津風は思い返す。このとき既に、都津風が望んでいた平和な学校生活など存在していなかったことを。

 あと数十分もすれば、気づく頃合いである。

 ───この学園が、真月高校よりも遥かに厄介な学校であったことに。

ども、絵凪です。


今話でストックが尽きたので、またのんびりと書いていきます。

その為、次話投稿が遅れるかもしれませんがご容赦ください。




※書かれていませんが、理事長はユーキの超能力について知っております。話の中にその内容を組み込めず……結局、ここで明記させていただきます。至らないところの多い作者ですが、これから改善していく所存ですので、よろしくお願いします。


2016年1月9日追記。

修正するにあたって、理事長が都津風の能力について知っていること云々は二話くらいに書き足しました。やったぜ。

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