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chap 1・午前10時の理事長室

一日で続けて投稿。

前話前書きで書き忘れてましたが、この話は1割のネタと2割のノリ、3割の深夜テンションに4割の厨二病と5割の妄想により構成されています。


合計すると十割を超えてるとか言ってはいけない。



1月9日追記

拙い文章を少しマシな方向に直しました。

 四月七日、午前七時。

 魅雪と都津風を乗せた車は、緩やかな坂道を上っていた。

 日にちから推察できるかもしれないが、本日は始業式である。そして、都津風が春休みを終え、今向かっている新たな学校に転入する日でもある。

 一体どんな学校に転入するのか、とドギマギする都津風であったが、どうも道のりからして真月高校ではないことがわかって胸をなでおろした。

 ……しかし、こんなに家から遠いと通学が大変なのではないだろうか……?

 その旨を魅雪に聞いてみると、

「今からお前が通う学校には寮がある。そもそも、今のお前がまともに通学できると思っているのか? 朝、この車に乗るのにも一苦労だったってのに」

 そんな答えが返ってきた。

 たしかに、今朝はひどかった。あのデマニュースが流れてもなお、マスコミはずっと毎日、都津風の家に張り付いていたのだ。親がいない都津風家にはまともにマスコミを追い払う人もおらず、かといって本人が出て行くわけにもいかず……魅雪が言っても当事者と無関係な人間だから、と相手にされなかったらしい。

 どうもテレビ屋ってのは本気で暇な人たちらしい、と都津風は毒づいた。

 いや、あるいは世間がとても平和だから、これしか話題がないのかもしれない。どちらにしても都津風からすれば迷惑には違いないのだが。

 しかしまあ、現在向かっている学校の理事長はテレビを見て都津風に興味を持ったという話で、さらに学費を免除するという条件で俺を転入させたいと魅雪に持ちかけてきた―――という経緯もあるから、あながちマスコミがすべて悪とも言い切れない。

 ただ、家に帰れないというのはちょっとばかり痛い。十数年の歳月を過ごした家だから愛着がないこともないし、いつ帰ってくるのか全く不明な父親と母親とのコンタクトも取りづらくなってしまうのも気がかりだ。

 ……あと、これを言うとまた殴られそうだが―――ゲーセンに通いづらくなるのも気がかりだった。学校の近くにゲーセンがあればいいのだが、と車の外を覗いたが、なにやら高級住宅街を通っているらしく、立派な洋館や日本風の屋敷しか見えなかった。

 ―――仕方ない、これは保留だ。親のことについてはアネキに頼むか。

 考えを切り替える。現状、ゲーセンは重要なことではあるが……しかし、それよりも大事なことがある。

「話は変わるけどさ、アネキ。結局、俺の力は魔術の一種ってことで押し通すんだよな?」

 そう。この先、都津風の能力をどうするのか、ということ。そして、魔術とはどう織り合わせるのかということ。魔術学校に通うにあたって、どうやら魅雪は理事長には真実を伝えたらしい。その上で都津風を受け入れることになった、という話は、魅雪から伝えられている。

 しかし問題なのは、たとえどんなに書類で言い繕ったところで、都津風は魔術を使えないということだった。都津風が使えるのは世間で言うところのオカルト、超能力にあたる代物であって、「魔気(マナ)」による燃料と「学問(ロジック)」によって行使される、論理的な魔術とは似ても似つかないものである。

 さらに、魔術はただの努力云々で使える代物ではなく、完全に先天的な才能によるものが大きい。ゆえに今から魔術が使えるように練習すればよい、という話でもない。

 たらば、どうするのか。

 とりあえず、そのことについては前々から魅雪と相談していた。書類上は魔術が使えることにしなければならない以上、この点は避けえないことなのだから―――早々に対処をしておく必要があったのだ。

 話し合った結果は、先の都津風の言葉通り。結局、もともと流したデマのニュースの通り、「超能力」を一種の魔術ということで押し通す───という、わりかし強引な結論に至った。

 が、これ以外にうまい手も思い浮かばない以上は、このまま押し通すしかないだろう。

 ただ問題があるとするなら、都津風がヘマをしてこの「超能力」が「魔術」でないことがバレるようなことくらいだろうか。

……少し緊張してきて、都津風は背筋を伸ばした。

 新しい学校生活。そして寮生活。間違いなく、今までとはまるで違う世界が待ち受けているのだろう。

 ―――この先に待ち受ける新しい学校生活は、一体どんなものになるんだろうか。出来れば、何事もなく平和に日々を過ごせればいいのだけど──魔術の学校だから、それも難しいか……?

 せめて、いい友達に恵まれればいいと思った。いや、しかし面倒くさい奴に絡まれるのは避けたいので、もういっそのことボッチでもいい気もする。というか今まで通りゲーセンに通って平凡に暮らせれば、やはりそれでいい気がしてきた。都津風という少年は、こんな状況でもゲーセンとそのための金と三度の飯で生きていける男だった。

 再びゲーセンを探す。車の行く先は──さっきの高級住宅街から、両脇に植木が植えられた道に入っている。両脇が緑豊かな道を見たが、やはりゲーセンらしき姿はない。

 ……というか、随分と遠いな。

 かれこれ車で三十分は走っているが、未だに学校の校舎らしきものが見えない。

 ……ひょっとして迷ったのだろうか?

「アネキ、まだ着かないのか?」

「何?バカいえ、もう学校の敷地内だぞ」

「……………………………………………は?」

 いや、そんな馬鹿なはずはない、と首を振る。何かの冗談にしか聞こえない。道の両脇には高級そうな住宅が並んでいるし、まだ町の中に決まっている。

「い、いやいや。冗談はよしてくれアネキ。そもそも、こんなにシティ感ただよう学校があるわけないだろう!?」

「冗談を言ったつもりはない。……それに、ほら、お望み通り校舎についたぞ。とっとと降りろ」

 言うや否や、車は停まり、ドアが開いた――――――と同時に、蹴り飛ばすようにして、都津風は車から押し出された。どう考えても理不尽な暴力である。

「っ痛ぇ……アネキ、何すんだよ……」

「男がそんなことで一々うろたえるな、痛がるな」

 都津風が車から押し出されて突っ伏している後ろで、その都津風を蹴飛ばした本人である姉川は、優雅にゆっくりと降りてきていた。

 ―――怒ってもいいよな、これ?

 確かに迷惑はかけたが、都津風からすればここまでされるいわれはない気がする。…ないと思う。ないんじゃないかな、うん。

 が、半眼で見つめる都津風を軽くスルーすると、姉川魅雪は目の前にたたずむ立派な建物と、その入口に書かれた校章を見つめて説明を始めた。

「ここがお前がこれから通う魔術専門科高校――――

璃里浜女子高等魔術学校、通称『リリジョ』だ。私の母校でもある」

「……ずいぶんと長い名前だな。なるほど、アネキの母校で、名前は璃里浜女子高等魔術学校───ん?んん?」

「何をボサっと突っ立っている。早く入るぞ」

「い………いやいやいやいやいやいやちょっと待てプリーズウェイトォ!! 俺の聞き間違いですよね!? 今、何とおっしゃいました!?」

「ん?『ここがお前がこれから通う魔術専門科高校――――璃里浜女子高等魔術学校だ』と言ったのだが」

「今、『女子高等魔術学校』って言いませんでした?」

「ああ、言ったな」

 ……………………。

「ほんッの数十秒前、『男がそんなことでうろたえるな』ッつったの、覚えてます?」

「ああ、覚えてるぞ」

 ……………………おい。

「その男に女子高に通えっつーのかよ!?」

「ああ、そうだ!」

「鬼か、アンタは!?」

「ああ、そうだ!」

「この公務員!税金泥棒!」

「後でしばき倒すぞ」

「ごめんなさい」



 〇〇



「まあ落ち着け、女子高とは言ってもここは男女共学でな」

「……はあ…………?」

 さんざんにわめきあった後、姉川魅雪はこの学校についての説明を始めた。

 璃里浜女子高等魔術学校。いわく、ここは世界的に見ても屈指の規模を持つ私学高校にして、魔術を専門に扱う学校──つまるところ、世界中の魔術が使える名家、旧家のご令嬢が通う完全なお嬢様学校であった。

 ───しかしそれは過去の話で、最近の共学化の風潮に乗って現在は男女共学となっている……のだが、校名はそのまま残してほしいという多くのOGの意見によって名前だけ「女子高」という名前が残ってしまったのだという。

 また姉川の話によれば、この学校は数々の女子の羨望のまなざしの的であり、この学校に入学できること自体が名誉なことだとか何とか。……少なくとも男で、しかも趣味がゲーセン通いという果てしなく低い意識しか持っていない都津風にはどうでもいい話である。

 驚くことに中等部も含めた全生徒は占めて2000人という。これは魔術高校としても大規模なもので、小中高と公立に通っていた都津風からすれば、想像もつかない生徒数だった。


「いや、あのさ……アネキ。一ついいか?」

「む。なんだ?」

「あのさあ……」

 一呼吸置く。今から言うのは大事なことだ。この思いのたけは全霊でぶつける必要がある。


「ややっこしいわ!! なんで女子高って名前残したんだこの学校!?」

「うむ、私もそう思う」


 一通り叫ぶと、二人は静かに校舎の方へと向かった。



     ◇◇



「……本当に結構広いんだな、この学校」


 都津風が校舎に入って最初に呟いた言葉は、それだった。

 天井は高く、廊下には綺麗な絨毯が敷かれていて──学校というよりも、むしろ宮殿とか由緒ある教会といった方がしっくり来るくらいである。

「言っただろう。この学校の生徒は占めて2000人。そんな人数を収容するためには、それ相応の大きさが必要になるからな」

「で、この高そうな花瓶が廊下のそこかしこに並んでるのは?」

「通っている生徒がお嬢様なら、それ相応の物が必要になるということだ」

「……無駄な経費だな」

「それには同意する、が……ここにはそういった価値観とは別の価値観が働いている、ということだ」

 自尊心に金をかけるほどの裕福な家庭で育っていない都津風には、とうてい理解しがたい光景だった。仮にそんなお金があったら、都津風ならすぐにゲーセンにつぎ込んでしまう。

「そもそも、学校の校舎って鉄筋コンクリート製で、窓は曇りガラスか普通のガラスだろ? なんで普通の窓枠にステンドグラスが嵌め込んであるんだ……」

「あきらめろ。いちいちツッコんでるとキリがないぞ」

「ううむ」

 無意味な豪華さに首をかしげつつ、挙動不審にあたりを見回しながら二人は進む。しばらくして魅雪が一つの大きな扉の前で立ち止まった。

「着いたぞ」

「……アネキ」

「なんだ?」

「……ここ、本当に理事長室なのか?」

「私もそうであって欲しいと願っている」

 魅雪が指差した扉には、可愛い丸文字で「りじちょーしつ」と書かれたプレートがぶら下がっており、扉には絵が……なにやら、アニメとかに出てきそうなキラッキラな目をしたキャラクターの絵がでかでかと描かれていた。

 その絵の下には、おそらく手書きなのだろう──やはり丸文字で、

『本当の魔法少女は20歳からだ!』

と何処から突っ込めばいいのか全く不明な文章が書かれている。

 都津風は眼鏡を拭きなおして、もう一度この光景を確かめたくなる衝動にかられた。しかし、この光景は眼鏡の汚れだとか見間違いだとか、そういう問題ではない。まごうことのない現実だ。まごうことなく、そこは理事長室だった。

 ……理事長という肩書、威厳からは最も遠い部屋ではあったが。

「……なあユーキ……理事長室ってなんだ?」

「奇遇だなアネキ。ちょうど俺も同じことを考えてた」

 もうこの段階で、まともな人が部屋の中にいることはまるで期待できない。会話が成立するのかさえ怪しい気がして、都津風は立ちくらみを覚えた。

 仮に会話ができる人間だったとしても、とんでもなくぶっ飛んだ性格したオタクかオタクかオタクぐらいしか想像できない。

 ようするに……オタクなのだろう。

「……入るぞ」

 都津風が半ば覚悟を決めるように唾を飲み込んだのを見届けると、魅雪はそのドアノブに嫌々ながらも手を伸ばし、その表に描かれたポップな絵とは遥かにかけ離れた重厚な音をならして──その部屋の内部を開け放した。

 部屋の中の様子が、二人の目の前に展開される。

 ……部屋の様子を単刀直入に言えば。

「……これは酷い」

 理事長室は、どうやらその部屋そのものは(・・・・・・・・・)ちゃんと先程の廊下同様の格式をもって作られているらしく、そこかしこに立派な装飾が見てとれる。木材を削って意匠を凝らした机や、本来なら建物の強度を保つために設置されているはずの金属製の柱さえも、作った時代の粋を結集させて作ったに違いない、美しい形状をしている。

 ───にもかかわらず。

「……なぁ、どうすればこんなに綺麗な部屋をこんな工房に変えられるんだ?」

「私に聞くな。本人に聞け」

 工房は工房でも、魔術工房ではなくヲタ工房。綺麗な装飾がよどんで見えるほどに混沌とした部屋は、もはや理事長室というよりも独身男性のオタク部屋としか言い様のない雰囲気を醸しだしている。

 そんな広々とした狭苦しい、名状しがたい部屋の真ん中にある机に、その主はいた。

 ボサボサな髪を短く切った、その女性(・・)は──机に両肘を置き、小さな顎を手の甲に乗せている。どこかのアニメに出てくる、無口そうなおっさんっぽいポーズだなあ、と都津風は思った。

「待っていたよ都津風ユーキ君。遅かったじゃないか……」


 全く似合わないサングラスをかけて、理事長と思われるその女性は口元をニッと笑わせた。 

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