第五十七話~四季と犬と人生と~
秋も深まる十月中旬、銀杏の葉は青々とした緑から鮮やかな黄色へとグラデーションのように変化が始まっていた。
北山、白川、西園寺の三人は、校門を出ると銀杏並木のある大きな通りを歩いていた。
北山
「秋だな」
白川
「紅葉だな」
西園寺
「もうそんな時期ですか……なんか、木の変化って人間の一生を表しているようですよね」
白川
「一生?」
西園寺
「はい。春には芽を生やして、夏には青い葉を茂らせる。秋には色の変化を見せ、冬になると葉を落とす」
北山
「産まれて、青春して、渋さを身につけて、死ぬ。まさにその通りだな」
白川
「そんなら俺らは今、夏だな」
西園寺
「そうですね。夏ですね」
北山
「でもよ、あっという間に秋になって、冬になって……」
豪徳寺
「死ぬ」
三人
「先生?!」
豪徳寺
「でもな、ただ死ぬんじゃない。新しい種を宿して、身を引くんだ。そうやってまた春が来る。冬の寒さなんか忘れたように暖かくなるんだよ。嫌味なくらいにな」
白川
「やけに真面目だな」
豪徳寺
「生意気言うな、この阿呆が」
西園寺
「何か、あったんですか?」
豪徳寺
「飼っていた犬が……死んだ」
白川
「そうだったのか」
豪徳寺
「大したことじゃない。生まれたものはいつか死ぬんだ。あいつは子供を残したわけじゃねぇ。けど、俺の中にはしっかりあいつの種が宿ってる」
白川
「獣姦でもしたのか」
豪徳寺
「……馬鹿野郎。冗談言うなら、ちゃんと言え。そんな涙目で言われたんじゃ、こっちもちゃんと笑えやしねぇ」
北山
「ホントだよ」
白川
「な、泣いてなんかねぇよ。ばかじゃねーの」
豪徳寺
「いいか、お前ら。もしお前らの子供が生まれたら、犬を与えろ。 子供が話し始めた時、最高の理解者になる。 子供が歩き始めた時、最大の友人になる。 子供が外に出た時、最優の保護者になる。そして、子供が学び始めた時、自らの死を以て命を教える最初で最後の教師になるはずだ」
西園寺
「今の先生、全然説得力がないです。言ってることは正しいのに、全然響いてきません。だって、先生、泣いてるんですもん」
四人は鼻をすすりながら、笑った。
黄色く染まった銀杏の葉が一片、舞い落ちた。