第四十話~満月のバルコニー~
白川は、他の三人が眠りに落ちてからも、寝ることができなかった。
誰かのいびきがうるさいとか、自分の枕でなければ寝れないなどという理由ではない。
ただ単に、眠りに着けなかっただけなのだ。
白川
「トイレでもいくか……」
白川はのそのそと起き上がり、扉を開き、廊下に出た。
そして廊下の突き当たりのトイレで用を足し、部屋に戻ろうとした。
扉に手をかけたとき、ふとバルコニーに目がいった。
ベンチに人影が腰かけているのが視界に入ったからだ。
白川
「どうした?」
東条
「あ、白川くん」
東条は振りかえり、目を丸くした。
白川は、その隣に座った。
白川
「なんだよ、そんな遠い目して」
東条
「へへ。あんまり、寝付けなくて」
白川
「俺もだ」
鈴虫が鳴いている。
夏の夜の涼しさを助長するように鳴いている。
東条
「涼しいね」
白川
「……そうだな」
東条
「あ、あれ」
東条が指さした先には、雲間から朧気に覗いている満月が浮かんでいた。
白川
「綺麗だな……」
東条
「うん」
白川は横目で、月を見上げる東条を見た。
東条の目は、キラキラと輝いていて、潤いがあった。
東条
「ん? 何?」
白川
「い、いや。な、なんでもねーよ」
白川は急に立ち上がった。
白川
「か、体冷えるし、さっさと寝ろよな」
東条
「うん。ありがと」
東条の笑顔は、うっすらと月明かりに照らされていた。唇から覗く八重歯に、白川は自分の心臓が短く鼓動するのが聞こえた。