準決勝から決勝…
とうとう、準決勝まで来ました。
ですが、間もなく日が沈むと言うことで、
夕暮れサスペンデッド…勝負は明日の朝まで延期して、本日は一旦解散って事になりました。
それでも皆、興奮が抜けないのか、会場にのこって誰彼なしに勝負を始めました。
まあ…喧嘩するくらいならやらせて置けばいいって事になり、
自己責任で好きなだけどうぞ?って流れになりました。
多くの軍人が残っている様だったので、治安も問題無いでしょうが、
適当に帰って寝てくださいね。
良いですね?あくまでもお遊びですからね。
いい大人が理解できないなんて、ちょとお笑いですよ?
…みたいな事を言ってはみましたが、
相当悔しい思いの方や、何やら閃いてしまった方達の、
その熱い勢いは、一切揺るぎませんでした。
夜間の警備担当者として、九郎様が召喚されました。
何やら九郎様も混ざって勝負をされてます…
ますが…強い!?
まずは出来るんだって…そこだけでも凄いですけど、
あっさりと勝ってますね…
結構勝ってた軍人さんや、教団の方を次々と破ってますけど?
「まあ…いつも主の姿を見ていたからな…」そう仰ってますが、
見てるのとやるのとは、もう全然違いますよね?
なんだか、会場の片付けや整理してたら、すっかり、帰り損ねたのですが、
結果として九郎様の活躍が見れたのは、良かったですけど…
流石にある程度の時刻で騎士団がやって来て、強制的に解散って事になりました。
うえーん、助かった…ありがとう御座います、騎士長さん…
さあ皆様、さっさと帰りますよ?
ほらシャイナ様、いい加減諦めて下さいよ、
もう、マゼラン様も、そこから勝つなんて絶対に無理ですから、
ほぼ詰んでいますよ?
え?じゃなくて、
ほら、もう帰りますよ。それでは騎士長さんまた明日、よろしくお願いします。
あ、お部屋に帰ったってもう今日はショーギ禁止ですよ?
明日…明日は決勝なんですからね?
さあ、さっさと寝ましょう。
続きはどうぞ、夢の中で勝手にお願いします。
そして次の日。
本日も良いお天気で、
朝早くから、王様の試合を見るための場所取りが激しく行われていましたが、
騎士長さんの活躍で解散させられた様です。
その決勝に備えて、昨日から急遽制作された大きな盤とコマが、
会場に設置されてます。昨日のうちに王様が手配したそうです。
凄いな、私なんてそこまで気が回らなかった…
間に合わせとは言え、かなりちゃんと作られています。
『ああ、イサクに無理言って作らせたんだ。悪くない出来だろ?』
え…あ、はい、そうですね。コマがパチンって、枠のフチににハマるように作られているのですね?
朝食の炊き出しも開始され、
いよいよ準決勝が始まります。
準決勝に勝ち進み、対戦するのが、
深淵教団チーム代表のマイケル司祭様、
そして、
ミッドロックが誇る、歩く戦術教本の異名を持つ、ワンドル大尉、両名の一戦となりました。
本日は解説に帝国騎士団より、ゴルド騎士長様にお越し頂いております、騎士長、よろしくお願いします。
「あ、どうもはじめまして、ゴルドです、お願いします」
さて、この一戦ですが、騎士長はどう、ご覧になられますか?
「そうですね、聞くところによると、ミッドのワンドル大尉は護りの達人、
対する司祭様は、攻めるも護るもどちらでも…まさに、変幻自在が売りの様ですね…」
そうですか、なる程。
ではズバリ、騎士長の予想は?
「うーん…難しいですね。ただ、個人的にはミッドロックの大尉には是非とも勝って貰って、軍人の意地ってヤツを見せて欲しいと思いますね…」
…
……
フッ…ゴルドの奴、言ってくれるね…まさか幼馴染よりも、他国の軍人を応援するなんてね…
まあ…昔っからそうだったけど…まだ私に勝てなかった事を根に持ってるのかな?
いいさ、まあ見てるが良いよ。
今日こそ僕が…みんなよりも先に神様に勝つんだ。サラちゃんだって出来なかった偉業なんだからね…って、
おっといけない、つい昔に戻ってしまったね…
そうだ、今度こそ勝つんだ。
島で暮らした仲間たちの中で、
一番最初に勝つ栄誉は、絶対に譲れないんだ、ゴルドには悪いんだけど…ね。
僕が一番、誰よりも一番神様を信じ、一番神様に祈ったんだ。
だから…だから絶対に勝って、神様にいっぱい褒めて貰うんだ。
…
……
そして、静かに勝負は始まった。
お互いがゆっくりと、深く探り合う様に、慎重に動いて行く。
一手打つごとに大きく息を吐く司祭の呼吸に合わせ、見ている観衆も息を吐く…
腕を組み、眉間に深いシワを刻みながら熟考するワンドル大尉。
他とは一線を画す、非常に緻密な神経戦が行われている。
それは一見、かなり地味にも映るのだが、
見るものが見れば、その意味は充分理解できた。
それらは数手先どころか、数十手先の布石であるのだと。
特に直接盤の周りを取り囲んだ各軍の軍師や司令官級の者達は皆、
それらの勝負の行方を、自分の手帳や大きな紙に、それぞれ詳細に記録している。
記録しながら、唸ったり、ため息をついたり、
仮に、そこにいるのが自分だったならば、今どう動くのか…受けるのか、流すのか…
それぞれが、そんな事を考えながら、ゆっくりと静かに、淡々と勝負は進んでいく。
「ふむ…頃合いか…」小さく呟いた、ワンドル大尉がヒゲをさすりながら、ついに動いた。
手持ちのコマ、上級騎士(金)を、司祭側陣地に撃ち込んだ。
一見…無意味にさえ思えたそれは、後に司祭を大きく苦しめる一手だった。
小さな舌打ちをし、更に大きく息を吐きながら、司祭も動いた。
金の騎士が仕事をするのは、まだ数手先だ、寧ろ…攻撃ばかりに気を取られていた大尉殿には、
それ相応の、きついお仕置きが必要だと…
司祭もコマを大尉側陣地に撃ち込んだ。
撃ち込んだコマは槍騎馬(桂馬)だった。ニヤリと笑う司祭と…
まさかそんな手が…
そんな言葉が、ワンドル大尉の表情からも、ありありと伺えるほどの大きな焦りが有った。
大きく攻めにいったつもりが、まさか自陣の喉元に、大きな楔が打たれたのだ…
おおお…
取り巻く観衆が大きく声を出して唸った…
見ていた者達の中に、これを予想できた者も数名居たようだったが、
大半の軍人達は息を呑んだ。
起死回生…大きく傾いた戦況が、まさか一手、
一瞬でひっくり返えったのだ。
ここに集まった者達は、いわばマニアである、
皆目をキラキラさせて、ウンウンと頷き…
そしてこの空気が、ワンドル大尉の心を、更に大きくかき乱す。
この騎馬を早めに移動させねば、すぐ様大きな危険となる、
大尉はそう考え、対処する為に動く。
それこそが、司祭の描く勝利までの道筋の上だとも知らずに…
この、敢えて誘うというやり方こそ、子供の頃散々と神様から受けたやり方だった。
対処する為の一手に乗った瞬間、ワンドル大尉は、勝てる見込みを失っているのだった。
更に慎重に、司祭は真の狙いを大尉に悟らせないように、時折敢えて、のらりくらりと意味無く動き…
自分の描く道筋へと、静かに、確実に追い込んで行く。
そして、勝負の最終段階と判断して、司祭は全ての意識を攻撃へと向かわせる。
決して勝機を取り溢す事の無い様に…
ワンドル大尉の顔にはもはや余裕など無く、
数手先の未来…
まるで自分は、断頭台にでも登らされているかの様な…
焦りと絶望を、強く感じていた。
頭をフル回転させ、なんとかこの最悪の事態を打開できないものかと、ワンドル大尉は目を閉じ、
深く深く考え…
考えて考えて、そして理解した。
ここまでか…そう悟った。
「参りました…」
たった一言、そう言って大尉は司祭に向け、頭を下げた。
大歓声が上がった。
特に攻めにいった大尉の動きも、それをまんまとひっくり返した司祭にも、称賛の嵐が巻き起こった。
各軍の作戦立案担当者は皆、ブツブツと何かうわ言を発しながら、今行われた勝負における分岐点を脳内でトレースしていたのだった。
ただ一方的に攻めるのでは無く、誘い込み、逃げ道も塞ぐ…
その為に、事前に入念な仕込みも行う。
まさに軍事におけるいお手本だと…
勝っている、押しているなどと浮かれた結果、
ほんの小さな綻びを見透かされ、刺された。
つまり、油断や慢心は当然だが、
攻めにいった際に出来てしまう隙が敗因に繋がるのだと、深く胸に刻み込む。
いつか来たるべき戦争に於いては、それらは必ず、自軍にとって大いに役に立つ教訓であると。
そんな一種独特な雰囲気の輪の外から聴こえる小さな拍手…
たった一人立ち上がり、司祭に向けられる拍手…
その音の主こそが、帝国皇帝にして将棋の祖…
決勝に控えし、世界最大の(将棋の)脅威、神とさえ呼ばれし英雄…
柴 龍太郎、その人であった。




