城の概要
大柄な騎士が、部屋へ招き入れられた。
騎士は直ちに上級大臣に対し膝を付き挨拶をした。
「特務1課より、お呼びと聞き、直ちに参上至しました、騎士長エルドンに御座います」
「はいはい、堅苦しいのは、もう良いですよ、エルドンさん?」
…いやいや、ちょっと大臣?
幾ら何でも…流石に私だって、これくらいの挨拶は、至って普通ですよ?
それを…一体、堅苦しいって何ですか?
はいはい、では、紹介しますね。こちら…
「はい、サント領マイトカの領主 エドモンの娘、エトラン アズ スガストルネで御座います…」
「…あ、それはどうもご丁寧に、エルドンです…」
へえ、あの…サントからねえ…
え?騎士さんはサントをご存知なのですか?
ああ…私はサントの近所の、リデリアの出だよ。
しかし…良かったな、あのサントから、遂に大物が誕生だな。
あの…サント?大物って、一体どういう…?
いや、すまん、
言っちゃ悪いが…あそこはもうすっかり寂れた、世間にも忘れられたって街って、評判で…
あ、いや、この界隈じゃあ、もっぱらそう言われててさ、
あ…すまん、気に触ったなら、謝るよ…
そうだな…流石にそこの領主さんの娘だもんな…そ…?
「いや、全くその通りなので、何の…否定も出来ませんし、しませんよ…」
え?怒って無いの?…
いや、でもだ、大出世だぜ?凄い事なんだよ?
なんたってあんた、あの上級大臣二人から抜擢された、期待の逸材なんだからさ。
この人達は特に、普段人事に口出しなんか、絶対しないのに…
それだけでもあんた、一部じゃ、もうそこそこの有名人なんだぜ?
「え?…そうなんですか?」
そうそう。それは領主さんにも胸を張って、なんなら、ちょっとくらい威張っても良いと思うぜ。
なにせ、いきなりここの上級職だもんな…
「は…はあ…」
で?この嬢ちゃ…いや、エトランさんを…
あちこち色々案内しろって…
そういう事と、理解して宜しいかな、エッタさん?
え?エッタ…さん??
え?ああ、ひょっとしてまさかあんたも、ああ、エトラン…で、エッタさんか?ははーん、なる程ね…
こりゃ、参ったね、
いや…あんたの目の前の大臣さんも、実はエッタさんなんだぜ?
「え?そう…なんですか?」
ええ、でも最近は、肩書ばっかり増えてね、エッタさんって呼ぶのはもう、
神さ…いや王以外は、馴染みの人とエルドンさんくらいだけどね。
そうそう、この国の隅から隅まで…って訳にはいかないでしょうが、
まあ…凡その、有名な場所や特徴、注意すべき場所や、あと各種お店の位置なんかも…
え…何か今、神様って?…え?言い間違いかな…
「謹んで任務を受領、了解致しました、大臣閣下。この騎士長エルドンに、どうぞ全てお任せ下さい…」
では…
もう一人のエッタさん、行きましょうか。
「…はい」
さーってと、こりゃホント、運が良いね。
当分嫌なお仕事から放免だって、
いやいや、実についてるよ、最近の私は…
あ…今のは独り言ね、聞いてないね?忘れて、忘れて。
この国…いや、城は初めてなんだよな?
知ってるかい?
実は…ここって、そもそも国じゃあ無いんだぜ?
こっちに言わせれば、街でさえ無いのだよ、
実は、ここはただの一個の城、なのさ。
でもま、今じゃご覧の通りのデカさだから…、
連合国同盟や、周囲の国々から、勝手に国って扱いを受けてるだけなんだぜ?
帝国だの、帝都なんてよ、こっちはただの一度も名乗った事さえ無いのにな。
だが、世間的にはマーオ帝国…
だが、私達的には、いや、ここは正式には、白亜のマーオ城 なんだよ。
…で、だよ。
あんたが宿を取ってた城の外側の街な…あれ…
実は…そもそもの最初、ここに入れなかった奴らが、こっちの許可なく勝手に造り始めっちゃったんだよ…
まあ、出来ちゃったもんは仕方が無いって、
最終的にうちの王が、
もうあれも、城の一部って扱いで良いよって、お認めになったんだよ、面白いだろ。
もう知ってるとは思うが、
城の一番正面外側の壁が、「第一防護壁砦」って言って、
この国の要職達が住んでる防衛壁兼住居だな。
これは王のお考えで、
偉いやつが、偉いくせに後ろでコソコソ隠れるのは、全くもってけしからんっ、
お前らこそ、前に出て草民を守らんかいっ!って事でな…
ここじゃ偉いやつ程、危険な場所、
ま正面に近い場所に住んでるな。
その内側が、第二中央区画。通称、商区だ。
主に商人の倉庫や、各種店舗が並んでる。宿屋なんかも、ここだな。
あと…私達守備隊の本部や支部が有るね。
それ以外にも色々、集会所や競技場、舞踏場とか、劇場に、剣の道場に、体術の道場…とかな。
多分、まだ他にも色々有った筈だわ。
次に、その内側の壁が、この国の主な住民が暮らす居住区。
まあ…ここの殆どの住民のねぐらだな。
基本的には全部住居しか無くって、
店は無いが、配給所って施設、まあ…食堂が幾つか有って、
国に税金を納めて、ここに住居が有ったら、全て無料で食えるんだよ。凄えだろ、しかも無料だぜ?
その分、仕事を頑張れよって、王の粋な計らいなんだぜ。
しかも…、あんまり種類は選べないんだけどさ、
結構、美味いんだよ、料理が全部。
実は…私もしょっちゅう世話になってる。
ものは試しで、後で一緒に行ってみようぜ。
で、
最奥の一番内側の、小さな壁の中は…
そこは、この国の始まりの場所で…
小さな小屋が2軒と、小さな泉だけが有るんだがな…
特に神聖な場所として、基本的には誰も入れないんだ。
そこに入って良いのは、王と王に選ばれた数人のみで、
例外は、ここの管理を任された一部の獣人のみだな。
なんでも、かつて昔…
神様を祀った祭壇が、戦や争い事に巻き込まれて、挙句失われた様な事があったそうでな…
ここは、二度とそんな事にはさせてはならない、って事で、
一番厳重な場所に有るんだよ。
ちなみに…上級大臣三名は、ここも自由に入れるのだけれど、
私は許可なく勝手には入れないんだよな。
え?ああ、実は仕事で…護衛や式典なんかでは、何度か入った事は有るぞ。
こう見えて、結構偉いんだよ、私?
まあ…それでも、あそこに入ったなんて、実は結構自慢して良い話なんだよな。
飲み屋じゃ、ちょっとした主人公を気取れるんだぜ?ハハハ…
おっと、私ばかり喋ってたな、何か聞きたい事は有るかい?
「はい、なら…王について…」
おっと、そうだな、当然そうなるよな。
じゃあ、まずは…一応の…国王様を、表敬訪問だな。
「え?…嘘でしょ?…」
ん?平気さ、全然大丈夫だよ、さっきも言ったけど、私、結構偉いからなハハハ
なんか、いきなりだったが、
庶民に毛が生えた程度の弱小貴族の子娘が…
アポも取らずに?
いきなり?国王陛下の玉座の間に連れて行かれた。
ダメだ…受け止めきれない、心の準備だってまだなのに…
この人が…適任って何?
一体、どうなってんだよ、この国の中枢?
ああ神様、何処かに居るなら、
どうか、このか弱い、迷える子羊をお助け下さい…
…そんな悩める私の遥か向こうに、
荷馬車の屋根の上に立ち、今まさに城から脱出せんとする、
あの…青年が見えた。




