愚かなる悪女の末路
自国の臣民を捨て、王族だけで籠もった砦で…
稀代の悪女は考えた。
この先に待ち受ける自身の未来を。
どれ程考えたとて、未来は暗かった。
女が出した結論は…王とその親族は始末し、自分と息子、それだけ助かればそれでいい。
軍部の高官で愛人だった将軍を使って、始末しよう。
その後で王城に戻り、王女も始末して、そこを根城に、帝国以外に近隣を襲って、元の国の勢力を、何とか取り戻すのだ。待っていても、助けを乞うても、結果は同じ、ジリ貧だ。
帝国は、コチラから手を出さない限り、決して攻めては来ない。ならば後回しで良い。
その為に…近隣の盗賊に金を撒いたのだ。今こそ役に立って貰わねば…
その日の夕方…王族が一堂に集まったその時、
遂に悪女の毒牙が王族に向いた…
だが…
そこに…男が現れた。
部屋の中央…テーブルの上に…まるで降って湧いた様に…
その後ろには、まさか、グリフォンまでもが居たのだ…
男が言った…
「草民を切り捨て、お前ら、随分と良いご身分なんだな?…」
即座に衛兵が斬り掛かったが…
凄まじい速度で、グリフォンがそこにた全ての兵を…その爪で切り裂いた…それもほぼ一瞬で…
グルルル…更に喉を鳴らし、辺りを威嚇するグリフォン…
最早動ける者など、ここには誰も居なかった。
「き、貴様、我等が王の御前だぞ?無礼だろうがっ!」
そう叫んだ将軍が…
その次の瞬間、グリフォンの爪で、その首をはねられてしまった…
「おい、良くもうちに喧嘩売ってくれたな?このクソ女がよお…」
そこで…ようやく気が付いた…
魔獣を従えし、最強の帝国の…最強の王…
そうだ…アレが帝国の王なんだ。
男は次々と私の企みをバラし、ここに居る王と王族に告げた。
「理由はともかく…うちに喧嘩売った以上、お前らは今、ここで終わりだ、俺が直々に処す…お前らの首で、お前らの草民は俺が救ってやるが…どうする、アーラント王よ?…」
は?嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…絶対に嫌だ…死んでたまるもんか、絶対に死んでたまるもんか…
床にへたり込んでいた女は、ゆっくりと立ち上がる。
貴方様は…、あの…帝国のお、王で…あらせられるか?
我は、王后である。…どうか話を聞いて欲しい…どうか、妾の話を…
「…言い訳か?まあ…良いだろう、取り敢えず言ってみろ…」
妾は思いつく限りの言い訳を並べた。こんな場面こそ想像もしなかったが、
筋の通った言い訳だけは、幾つも用意していた。勿論、我が身を守る為に…
だが、男は言う…
「そりゃ嘘だな」
「それも嘘だ…」
「おいおい…また嘘か?」
「残念だがな…俺は嘘が見えるんだよ。俺に嘘は一切通じんのだ…」
その後で、男はゆっくりと語りだした。
私の生い立ちを…本名を…
完全に隠蔽して、捨て去った過去を…
それこそ、洗いざらいに…
そうだ…私は貴族の生まれでは無い。
庶民どころか、奴隷の娘だった。
偶然にも…私が勤めていた屋敷が戦火に塗れ、そこに死にかけの当主と私だけが生き残った。
当主は身動きは勿論、喋る事さえ出来ない状態だった。
それこそが、私には千載一遇のチャンスだったのだ。
そのまま当主の娘として、家督を奪った。
そこから、必死で貴族の真似をしながら、当主のコネや財産を使って、王族に近づいた。
いつしか前の王妃に近づき、お茶の度に弱い毒を盛った。盛り続けた。
看病と見舞いを装い、遂には王にも取り入った。
それは決して誰も知り得ない筈の情報だった。
それらは私だけが…唯一、私だけが知る、絶対の秘密だった。
「奴隷の娘マリアーナ…それがお前の、本当の名だろ?もう黙れよ…」
「茶葉はもう良いだろう、さあ決断せよ、アーラント王よ」
「…相分かった、この首で…我等の首で、どうか、草民を…我が娘を救って下され…」
いゃあああああ、嫌だ…嫌だ…いや…
女は喚き散らし、暴れ出した…次の瞬間、
テーブルの上の男が腕を振った後で、后の両足が突如へし折れた。
「お前らに出来るのは、最早祈るだけだ。最後に何を祈るのか…貴族として死ぬか、そこの詐欺師女みてえに、無様に死ぬか選べ…じゃあな…」
男は王に近づき、一言、二言話して…
そこで男の姿が消えた。
女のわめき声以外は皆、押し黙ったままだった。
次の瞬間…
轟音と共に、砦が圧潰した。
後に、目撃した国民の証言で…
巨大な岩が、空から砦に落下したのだと云う…
その凄まじい音と振動はとにかく大きく…
当時、城で会談中だった、姫と他国の使者らも、それを聞き、感じたと云う…
大きな地響きと爆風が、近隣一帯に広がった。
砦はおろか、辺りはただの更地に変わった。
ただそこには…巨大な穴が開いていたと言う。
この後暫くのちに、アーラント王位はその娘が継いだ。
そしてすぐ様、帝国の同盟連合に加わったと言う。




