その頃、砦では
王城よりも遥か北、比較的蝗害の被害が多かった場所とは、山を挟んだ反対側で、
その山で、蝗害被害が少なかったその場所に、その砦は有った。
被害が大きいエリアの住民を避難させる為の、復興区を作ると言う名目で、
多くの王族がここに移った。当然だが、初めから住民を避難させるつもりなど、一切無かったのだ。
蝗害が一度きりとは限らない。王城付近の被害を考えれば、そこを再び耕し、何らかの食材を植えたとしても…
収穫までのその時間と、それまでの住民の食糧を賄う等とは、
この度状況では、誰も到底考えられない話だ。
この砦に移動した時、既に王族は草民よりも自身の命、生活を取り、
一部を除き自国の草民は、慈悲もなく全て切り捨てたのだ。
全ての責任を、その王の娘、ただ一人に全て押し付けて…
そこに、王城より早馬が到着した。
帝国の使者との会談の結果を記したものである。
結果は、今だ出ず…そう報告された。
そもそも、アーラント王は逃げていたのだ。国民から、責任から、娘から、
そして、嘘を見破る能力を持つ、帝国の王から…
唆されたのは事実であった。まんまと后の口車に乗ってしまった。
そもそも…蝗害以前に、この国の農業は既に破綻していた。
数年前から農業を軽んじ、大きな国益のみを考え、国内は工業主体に切り替えた。工業が比較的利益を出していたうちこそ、食糧の輸入もスムーズだった。
だがやがて、鉄工の要であった、鉱山資源が大きく減少した。
アチコチの山を掘り返し、必死で資源の確保を試みたが、結果は散々だった。
挙句、無理な切削によって、地すべりや、山の崩落、それによって僅かな農作地にも、甚大な被害が出た。
やる事なす事、全てが裏目、裏目に出た。
一部で起きた農民の暴動も秘密裏に、武力で一方的に押さえつけた。
これも遺恨が残った。
全てが、王の意思では無い。
裏で糸を引く者が居たのだ。
大半は新たな后と、軍の高官だった男の仕組んだ事だった。
そう、この二人は出来ていたのだ。
王に取り入って、やがて権力を握った后。
更には、国の全てを手に入れるべく、大きな欲望に突き動かされていた。
手始めに、姫を王城で孤立させた。
王位継承権第一位の座から、必ず引きずり降ろす為に。
更にその手駒を、時間を掛けて全て、徹底的に削っていった。
実子である息子に、いや…自分に、
やがては全ての権力を集める為に。
着々と、利権を全て握る為の、その準備を進めて来た矢先、
想定外の事態が起こった。この蝗害である。
壮大な乗っ取り計画が頓挫した。
稀代の悪女は考えた…
今全てを奪ったとしても、国は滅ぶ直前の、完全な死に体だ。
欲しいのは富と権力だけであって、
こんな死にかけの国では無い。
復興の道程も、全く見当が付かない…
このまま国に残るのか…或いは、ここで見切りを付けるのか…
どう考えても、サッサと逃げるのが得策に思えたが…
どうしても、権力を諦めきれなかった。
一度甘い汁を吸ったあの記憶が、どうしても忘れられなかった。
例え逃げ出したところで、もう一度同じ、あの甘い汁を吸える保証など何処にも無いのだ…
一時的な軍部の掌握も、今後の復興の都合で、大きく揺らぐだろう…
どうにも決めきれずに、ただ時間だけが過ぎていった。
毎日のように、国内の悲惨な状況が知らされるが、こちらとて何かを出来る余裕が無い。
王が、住民の受け入れや、食糧支援を健闘する度にそれを阻止した。
先ずは、王族が生き残らなければ、国の復興は出来ないと、
思いもしてない言い訳で、王の勝手な動きを牽制した。
当然、たかが農民の為に…コチラの食糧が減るのが、どうしても許せなかったからだが…
そんな時…突如、男が現れた。
誰も招いてなどいない…
ここを訪ねて、入り口からやって来たのでは無い、
招かざる客は本当に、
我等が集う広間に、忽然と姿を現したのだ…
背後に巨大な魔獣を引き連れ、
不敵な笑みを浮かべながら…




