その頃、王城で
重大な決断を迫られた。血が繋がっては居ないとは言え…
自分の父親でもある、国王の首を差し出せと、そう言われてしまった…
いや、コチラがそう言わせたのだ。
今の母君が入城してから、父王は変わられてしまった。わざわざ他国にチョッカイを掛ける様な事を、本来なら酷く嫌っていたのに…
そして軍部だ。小さな国が、何度も戦争と合併を繰り返し、今のアーラントが出来上がった。
そもそも私と実の母は、国同士が合併した際に、王城に入った、他国の人間だ。母が病で無くなるまでは、ここ迄おかしな政など、一切行われては居なかった。
あの女が引き込んだ軍人達、あれらが全ての元凶だと、そう言わざるを得ない。
父王は、あの女の言いなりだ。決して逆らわない…かつては威厳も有ったのに、今ではいつも怯えている…
話し合いを委任された、王の代理とは言え、私は王では無い。
今でこそ、不甲斐ない父王だが…今でもれっきとした王だ。我が父なのだ。裏切れと言われて、はい…など、簡単には言える訳もない。
幾ら時間が無いとは言え、そもそも他国の畑を奪うよりも先に、コチラの農業を充実させるべきだったのだ。
しかも…相手が悪い、コチラから見れば最悪の相手だ。
今だ不敗の…屈強な軍隊を持ち、
強力な神獣をも多く従えていると聞く。
実際に使者らは、グリフォンを連れていた。
しかも…赤毛だった。グリフォンの中でも兎に角凶暴で、かつて幾つもの国を滅ぼしたと言う、
「赤き厄災」…アーラントの西側で、猛威を振るっていた、あの最悪のグリフォンの血族だ…
何より…
真に恐ろしきは、あの国の王シヴァだ…
その赤き厄災を、たった一人で、事も無げにあしらった挙句、
あの厄災が敗北を、死を受け入れて、戦いを止めて、自らその腹を見せたという…
国境警備の我が軍の数部隊が、その一部始終を目撃したそうだ。
我が軍が全てを掛けて挑んでも、歯牙にも掛けぬあの厄災が…
強き獣の本能で悟ったのだ、相手のその強さを。全力で逃げることさえも、決して叶わぬと、そう悟ったのだ。
そうだ。万が一、あの帝国軍を倒せたとして、
あの王が現れたら…それで終わりだ。数万の軍勢を蹴散らすグリフォンでさえ、
潔く死を受け入れた程の怪物…
神族でさえ、決して手を出さない、唯一の人間…
そもそも、我らでは話にもならない相手なのだ。
路頭に迷いし、我が国の臣民を助ける為に…王族が身を切るのは当然でしょう。でも…
それでもきっと、あの女は、その事実を受け入れないだろう。
だが…王を、国を裏切れと言われて、はい、そうですか等と、言えるわけが無い。
こんな話しを父王に伝えることでさえ、私には無理だ。
最悪の場合、あの女はぬけぬけと、私の首を差し出すだろうが…
帝国はそれを望んでいない、寧ろ、逆鱗に触れるだろう。
多くの草民が今、住む場所はおろか、食べる物さえ無いと云うのに…
どう考えたって、帝国の言う通りにしたほうが良い。誰であっても判っている。
草民を救うのなら、最早それしかないって事も…
王にしても、軍部の暴走で有っても、その責任が有る。
いや、全て王のサインで動いていたのは明白だ。つまりは自業自得なのだ。
私は、リースベラ様に試されてるのだと思う。
王の資質を今、問われているのだと思う。
しかし…裏切れ無い。あんな父でも、私には恩が有るのだ。
あの…かつての父王を、殺したくも、殺されたくも無いのだ。
一体、私はどうすれば良いの…




