秘密の組織
本日は王様に連れられて、外周区の商店が並ぶ一角、
そこに有る、狭い路地をどんどんと進みます。
沢山の店が並ぶ通りの裏側にも、それより多くの小さな小さなお店が、実に沢山有りました。
そこに並ぶ大半のお店には看板も無く、
開いてるのか閉まっているのかさえも分からない、そんな店ばかりですね。
少し歩いただけなのに…もう、一人だと帰れるかどうか判らない程の…
まるで迷路のように入り組んだ路地のずっと奥に、
とあるお店の前で、漸く王様の脚が止まりました。
そこは他の店とは明らかに違い、活気があって、横に長い、屋台の様なお店でした。
『おうババア、いつものや…おっと、今日は二つな!』
「誰がババアだ?うるせえなクソガキ、二つだな?」
『おうっ、ネギ大盛りな!』
ポカーン…
いやいや、いきなりババアって?
いやいや、その返しがクソガキって?
いやいや!?…この方、こう見えてこの国の王様ですよ?
呆気に取られる私とは違い、本人達はケラケラと笑っていました。もう呆然ですよ?
「あいよ、上がったよっ、サッサと食いな!」
出されたのは、うどん という、麺料理でした。
何かの…お肉の切れ端?のようなものがいっぱいと、ネギの大盛りだけが具のようです。
決してキレイなお店では無かったですが、食べる前に分りました、
これは絶対に美味しいのだと。王様の行く店にハズレなんか無いものね…
うどん…
優しいけど濃厚な出汁の味も、小さな肉片が絡んだ麺も、どちらも絶品です。
『で?…今日は、バカ息子はどうした?』
「ああ…買い物行ったきりで、どうせまたどっかで、のんびりサボってやがるんだよ、あのボケナスはっ…」
『ハハハ、相変わらずだな…』
…
……
ん?…食べ終わった王様が、懐から小さな包を取り出し、
そこから…見たことのない銅貨で支払いをされてますね?
『ごっつあんなっ』
「毎度、おうきにな!」
そう言葉を交わして、王様と私はお店を出ました。
入って来た路地とは違う方向だと気がつくまで、少し時間が掛かりました。
どこも似たような景色だし、同じ様な曲がり角が多いので…これは迷うわ…
もし王様とはぐれたら、もう完全に迷子になるわね。
…そう考えて居たらば、
急に王様が私の手を引っ張って、
とても狭い路地…とう言うよりも、隙間って表現が正しい、細い路地に引き込まれ、
更に、その暗い路地の、暗闇に隠された扉に押し込まれた…
ええ?…なになになに??!!
そして、恐らくさっきのお店の裏側?辺りの、異質な大きな空間にたどり着きました。
壁の向こう側から、あの雑踏と、さっきのオバサンの元気な声が、うっすら聞こえて来ます…
路地の暗さと違い、そこは充分に明るく、
四人の人が既に、膝をついて王様を待っていました。
「我等の主よ…白組、ここに…」
『おう…ご苦労さん』
ポカーン…
え?展開が急過ぎます、急過ぎて、まだドキドキしてるんですけど?…え?
だって?だってよ?
きゅ、急によ?
と、殿方に手を引っ張られて、暗い路地に連れ込まれれば、そりゃ驚きますよね?…
悲鳴あげる前に、口も押さえられたし…
こう見えて、私だって嫁入り前の…貴族の娘ですもの?
生娘なんですからね?
…いや、そもそも王様相手に、勘違いも甚だしいって…
きっと、そんな感じでしょうが…
だけど、ねえ?
『スマン悪かったな、俺だけなら、サッサと消えてしまえばそれだけで良いんだが…』
『それぞれ紹介するぞ?コチラはエトラン…俺の、エッタさんが着けた首輪だな…で、
こっちが白組の…俺の直属の諜報員達だよ』
ん?…首輪?
ああ…王様の行動を大きく制限してるんだから、確かにそうかもね…でも?
ですけど?…首輪って、ちょっと酷く無いですか?
まあ…言い返す必要もない程に、かなり的確な表現ですけど…
確かに、私を連れてたら、あんまり危険な場所へも行きづらいでしょうから…
実際、私が引っ付いてても、アレだもの…
きっと私が居ないと、もっともっと、
恐らく、とんでも無い事を、しょっちゅうされてるに違いないわ…
しかも、どうやら王様って、
クマの件だってそうだけど…
その一部始終をきちんと報告してる様子も、無いものね…
そりゃ、大臣様達も気になって仕方が無いよね…自分達の王様が、どれだけ危険な場所をウロウロしているのか…
そっか…
報告機能付きの首輪なんだ、私って…
おっといけない、先ずはきちんとご挨拶をしなきゃ…
ど、どうも、私はエトランです。
頼りない首輪ですけど…
王様のお手伝いをしております。どうぞ宜しくお願い致します。
「どうも始めまして、エトラン様のお噂は、兼ね兼ねお伺い致しておりましたよ。私はウスイです…」
え?!
驚きました。私の横から急に、誰かに声を掛けられたから…
いや、ここに最初から居た?
驚いたけどそう…四人では無かったんだ、
ここには最初から、五人いたんだ…




