アーデ将軍の帰還
会議も終わってその日の深夜、幽霊船から軍の船に乗り換えたアーデ将軍達の部隊が港にご帰還されたと聞き、王様と一緒にお出迎えに伺いました。
到着予想は深夜で、王様はその頃に行くと仰っておられたので、私も職場で待機してお待ちしてました。
全然、帰れる距離に自宅が有りますが、職場待機です。気持ちの問題ですね。
港まで、王様は九郎様の脚に捕まって、私はジョン様の背に乗って、
走りながら飛んでるのか、飛びながら走っているのか?
以前と違い、兎に角、凄い速度で向かいました…多分、これが本来のお姿なのよね…
王様のお姿を確認されるや否や、一斉に皆様が集まり膝をつき、
王様の到着を待っていました。
『押忍っ!』
「「「押忍っ!!」」」
…え?
オス?…え?何か押すの?
『良くぞ任務を達成し、無事帰還した、お前達の働きを誇りに思うぞ!』
「「「押忍っ!」」」
…
……
お聞きしたところによると、あの、おす?と言う挨拶は、
この部隊と王様だけの挨拶で有り、
他の部隊には一切許されていない、選ばれた者だけが使える、誇りある特別な挨拶なのだそうです。
雄でも雌でも、何かを押す訳でも無いですよ?って、軽く笑われてしまいました。
そしてその、お話を聞いた隊員さんが言ってました。
作戦から戻って、あの挨拶をする時こそが、
自分達にとって、史上最大の喜びで有り、至福の時で、あのお言葉を貰う為に頑張っていると言っても良いのです、
嘘じゃ無いですよ?本当なんですよって…
他にも色々教えて下さいましたが…
アーデ様の部隊が現地に行くよりも先に、実は内緒で、王様は下見に行かれるそうです。
その時…例えば大きな魔獣なんかが居れば、王様がこっそりと処理されてから帰るそうで…
一応…そう言う事はしないで下さいと、毎回皆様がお願いするそうですが、
王様は、『うん、判った…』ッと軽くお答えになられるのだそうです…
そして今回も実は…
複数の大型のクマの魔獣の痕跡が、かなりハッキリと有ったそうですが、
その姿形は、なぜか一切、周辺では見なかったそうです。
…我等の主は心配性で、ちょっと過保護ですからね…
きっとクマを見て、居ても立ってもいられ無かったのでしょうね…と、
隊員さんが笑っておられたのが、とても印象的でした。
宿舎に戻って行く皆様を見送って、この日は解散となりました。
勿論、繭に入って一瞬で、自宅前まで送って頂きました。
冷静になって考えると、これってとんでもなく凄い事だよね…
遥かに離れた場所に…馬車や船だと、それこそ何週間も掛かるのに…
ほんの一瞬なんだもの…でも、
例え一瞬で移動できるとしても、
例え、どれだけお強いとしても…
普通、王様はそんな事をしないよね?
もしも、現地に魔獣が…クマがいたら、
きっと作戦の障害、大きな問題になってだろうって、
あの隊員さんも言ってたな。
王様で有り、神様である…
ちょっと偉そうにされる事も有るけど、そもそも王様なのだから、それは至って当然なのだ。
でも…椅子に座ってふんぞり返ってる事も無く、
皆を顎で使う訳でもなく…
誰よりも先に動き回って、誰よりも働いてるんだ…
なのに…大半の人達は、誰もそれを知らない…寧ろ、御本人がその方が良いって、本気で思ってるなんて…
本当に不思議な方だ…
その日以降も数日、お城の中をウロウロする日々が続きました。
ヘンリエッタ様から、急用以外は当分、遠方のお出かけは自粛して下さいと、
そう、強くお願いされたからだそうです。
街を歩きながら、人々の様子をご覧になられてるご様子ですね。
時々、街の方とお話されています。
え?…
その、お話をされてた方ってうちの、国の関係者さんでしたか…
なんでも、一般の人に紛れて軍の方や、騎士の方、情報部の方など…多くの方々が街の治安維持をされているそうですが…
実は王様直属の、極秘の情報機関があるそうで…
いずれ、そのうち紹介するわ…と、王様から言われました。
その時まで、お待ちしましょう。
数日後、街の素材屋に、かなり大型の魔獣の毛皮や牙などが、なぜか急に?大量に売りに出てたんだよと、
職場でリースベラ様からお聞きしました。
なんでも、魔獣は相当大きいそうで、しかも番で、子も一緒だったそうです。
その魔獣は、元々かなり凶暴なのに…そこに子供なんかが居れば、
かなり厄介な相手なんですよって、
大臣様が仰った。それは、戦闘経験なんか一切無い私にだって判ります。
大臣様は数点、その素材をお買いになったそうです。
冬までに、毛皮のコートを作るんだそうです。
そのクマさん、実は王様が…ってお話は、
きっと御本人的には内緒だから、
私も、内緒にしておきますね。




