円卓にて
国に帰還した騎士長さんを交え、急遽大臣らが集まる円卓会議が行われた。
王様に連れられて、私もご一緒しました。
…しましたが、やはり私だけ、場違い感が尋常じゃ無いです。
リジャディード様が立ち上がり、会議の開始が告げられた。
騎士長が指名され、今回の事が最初から詳しく、細かく説明された。
「それでは、ご説明致します…」
先ず、事の発端と思われた盗賊と傭兵の小競り合い…それは偽装だった事。
食糧事情が良くなかったアーラント国が、我が国と深い関係が有った傭兵団を助けると言う名目で、
我が国の小麦畑を勝手に戦場とみなし、
実は大半が盗賊に紛れた自国の兵隊で、この盗賊の皮を被った兵隊が、違う場所で本当の、残りの盗賊を処分し…
小麦畑で勝手に収穫を行なった後、そこを荒らして、盗賊の死体もばら撒いて偽装工作し、そのウソを誤魔化そうとした…
しかも、こっちに恩まで売ろうとしてたそうで…盗人猛々しいとは、まさにこの事だと。
イレギュラー要素としては、こちらの仮想訓練が見られた事で…
傭兵団がかなり酷く追い回されてしまった事と、
結果として、一旦コウモリには壊滅して貰う事になった事。
ただ、本物の悪党の集まりだったが、コウモリは、そこら付近の悪党どもの蓋、って役目が有ったんで、
急遽、新しい盗賊の新興勢力をでっち上げなきゃならなくなった事。
但し、既にその当ては有って、もうその為の準備は進行中だと。
大まかな事件の流れの後、そこから付近一帯の情勢の変化、亡国の難民の動きや、その影響の予想などが、
それぞれ細かく説明された。
コチラの出来る事、出来ない事の、明確な線引きも行われた。
我が国と協定を結んだ連合各国との連携についても、先の件を交えた話し合いが後日行われると決まった。
そして、以前王様がお話になられた、死んだ事になった傭兵団のメンバーが一部、うちの仮想山賊チームに加入し、
その山賊チームから、新たなる傭兵団に、数名が出向する運びとなりました。
そしてコウモリは、新生コウモリの翼として、付近一帯の荒くれを引き込み、
その監視役として、騎士長の部下、梟の団から数名が出向する。しかし、そもそも情報収集の為、付近で活動していた者たちなので、特に大きな問題も起きないだろうし、起きても…との事だった。
そして、更に王様の意見で、ここに難民となったアーラントの訳ありの一部の兵隊を混ぜて…
新生コウモリは、完全にうちの支配下に置く事が決定していた。
蝗害の発生のその前には、我が国の潜入していた工作員の手によって、既にその手配も準備も完了していたのだと…
例え国が滅びても、向こうの兵隊も確実な未来が…
コチラ側の、最も豊かなあの帝国の、準国民の地位が約束されたうえ、
更にその家族の面倒迄もが約束されたのだ。
最早、彼等に断る理由など何も無かった。
当然、事前に慎重に選別された、将来有望な若い兵隊が多かった訳だが。
聞いていて驚く事ばかりだった。
この国中は勿論、その外でも…
一切の関与もない国や、盗賊の果てにまで…
実はこの国の工作員や諜報員が紛れていた事に…
争いは決して消えない。
王様がそう仰った。人間が複数いれば、大なり小なり、必ずそこには軋轢が生まれる。それは必然だと。
この国は…いや王様は、それさえも自国に都合良く、緻密にコントロールされていたんだ…
実は…王様が、大臣様達が、この付近一帯の平和のバランスをとっていたんだ…深謀遠慮、途轍もなく凄い事だと思った…
だが、同時にとても怖くも有った…
作られた平和って…それは果たして本当の自由なのかな?
でも…この国が生きて足掻く為にそれらが行われて居るのだから、
つまり、これは私達の正義なんだと、思う…
そうだ…これが王様の言った、自分自身への言い訳なんだろう…
王様って一体、どこまで先を見ているんだろう…
私とイナゴを見ていたあの時には既に、あの国の兵隊を勧誘してたんだ…
シャダ商会にも、難民を引き込めって言ってたしね…
私がウジウジしてる間にも…
皆は王様の号令で、既に答えに向かって一斉に走り出してたんだ…
王様とご一緒して、多くの事に気付いた。きっと一生知らなかっただろう事も、
遥か遠方の他国の内輪の話も…
皆、この同じ空の下での出来事なのだ。
生きるって事は戦いであって、
平和は与えられるものじゃ無くて、自ら勝ち取るものだったのだ。
正義は見る角度では悪になり、つまりどれだけ悩んでも、時間の無駄…
だったら足掻くのだ。
この生存競争を勝ち抜くために…
その為に、ここに居る全ての上級職の方達は、その知恵を絞っていらっしゃるのだ。
ここ数日で、私の心の中の何かが、大きな音を立てて崩れ去った。
今日、この瞬間に今迄の私は死んだ。そして今、生まれ変わったのだ。
私がどれだけどう足掻いても、
きっと何処かで誰かの迷惑には、なってしまうのだ。
この世界では、それが当然なのだから…
なので私も、この国の王様を…王様の行動を信じ、それが唯一の正義だと、そう思う事にした。
大臣様は勿論、軍人さんや街の店主も…皆がそう在るのは、必然だったんだ。
簡単な話だった。
全ては王の為に、王は国民の為に…
その信頼関係こそが正義なんだと、今…なんとなくだけど理解出来た。
もう悩まないし、余計な事は一旦忘れよう。全てはこの国の為に…
自分の為出来る事をしよう。
私もその国と云う生き物の、
その身体の一部なのだから。
え?…
どうやらまたしても…
王様の後ろで、誰も観てないだろうって場所だったので油断してた…
また私は独り言をブツブツ言いながら椅子に座って居る所を…
皆様に静かに囲まれるまで、ずっと続けていた様です…




