正義って一体何んでしょうか?
あの日から数日は、王様はずっと城内をうろうろ…いえ、違いました、事細かく観察なさって居られてます。
幾つか小さいトラブルが有りましたが、あの…蝗害を思えば、ここは一体、どれだけ平和なんだろうと、ふと考えてしまいます。
ちょっとした喧嘩なんて、些事…いや、何も無いに等しいですね…
とにかく改めて思ったのは…
平和の大事さと、王の、その国の運営の重要さ…
しかも、この平和は全て、王様を始め騎士長さんや将軍様達が、命を懸けて築いたものなのに…
街の住人達は、誰もそれを知らない…
とても、複雑な気持ちになりますね。
そう言えば今日、王様が何処にも行かなかったのは、まもなく騎士長さん達が帰還するからだろうって、ヘンリエッタ様が仰っておられました。
そしてお昼を少し回った頃に、食事中の私達のところに、お城からの連絡が来ました。
なんと小さな魔蟲…クモさんが風に乗ってやって来たんです。驚くなって方が無理です…
あ、今日のお昼は、おうどんを頂いてます。当然ですが、流石は王様のチョイスですね、美味しいです。
でも…クモさんって、糸を使って飛べるのね…知らなかったわ…
王様が上げた手のひらの上で、クモさんがピョコピョコ動いてて、可愛いですね。
『…お?戻ったんだな。じゃ、後で行くからと伝えてくれ』
王様がそう言うと、クモさんはまた、風に乗って飛んでいきました。
ちなみに、この国では蜘蛛通信と呼ばれていて、国の機関内では、一般的な連絡手段ですね。
あんなに小さいのに、実はかなり強い軍人さんでも、そう簡単には勝てないそうです。
そもそも闘う以前に、逃げられたら最後、絶対に捕まえられないって話です。なので、連絡は絶対に伝わるって事ですね。
なにせ全てはミュー様の分体なのだそうです。つまり…魔蟲なんかじゃ無く、より格上の、神獣様なんですね。
食後に、王様と一緒に、歩いて港へと向かいました。
…
……
港を見下ろす緩い下り坂から、慌ただしく作業を行なっている港の様子が良く見えました。
坂を降りきった辺りで、辺りに居た全ての作業を行なっていた方々が、一斉に膝を着きました。
『おう、皆ご苦労さんだったな。もう、楽にしてくれて構わんよ…』
皆様がまた一斉に立ち上がり、傭兵団の方々が、次々に王様にお礼を言ってます。
『団の連中は今日、明日はゆっくりしてて構わん。疲れを癒してくれ。残念だが、団長だけは悪いが明日の朝、議事堂に来てもらって、今後のお話をしようか…』
「分りました。色々ありがとう御座います、おっと、お嬢さんもご一緒でしたか?」
なんと、何もしてない私にまで、皆様が次々にお礼を言って下さいました。ちょっと申し訳無い気持ちでは有りますが、そこは空気を読んで、笑顔でお答えします。
「只今帰還しました、我が王よ…そしてエッタさんも、世話を掛けたね…」違う場所から駆けて来られた騎士長さんだった。
『おう、お疲れ。一先ず夜までゆっくり休憩したら、悪いがすぐに円卓集合な…』
「御意!」
色々と募る話も有りましたが、騎士長さんはお疲れの上、かなりお忙しそうなので、ここは遠慮しておきます…
その後、皆様の盛大なお身送りを受けつつ、王様と私は港を後にしました。港を出てすぐに、そこから繭に入って、一瞬で移動した先は、
何処かの大きな施設で…初めて来た場所でした。情報分析室と言うそうです。
そこではウーゴ様とロッテン様がお出迎え下さいました。
『どうだ、蝗害の被害状況は?…』
「はい、まだ多くは予測の範囲では有りますが…」
そのお話によると、どうやら蝗害は一カ所だけでは無かったようで、
時を前後して、他に小規模の蝗害が数カ所で起こっていたそうです。
そしてアーラントって国は、元々有った国が二つに別れて出来た国で、農業よりも産業、産業よりも軍事に重きを置いた国だそうで、そもそも食糧事情は良くなかった上に、
唯一の友好国も蝗害の被害を既に受けていた為、急遽アチコチぁら食糧を得る為の…戦争や小細工をしてたそうです。
「恐らく、持って半月程度…既に死に体ですから、そこらで国は確実に滅ぶでしょう」
「別れたもう一方、ガルマントの方も、それなりに被害は大きそうですので、近隣の動きは随分騒がしくなって来てますね…」
困った弱者が居ても、周りの国々は助けるどころか、奪うチャンスだと…そう考えているんですね…
弱肉強食とは言え、私の様な人間とは、そもそも考え方が違うのね…
でも…国が、大きな生命体だと言うのなら、例え誰かを犠牲にしても、自分が助かる為に、生き残る為にジタバタ足掻くのも、その縄張りを奪うのも、ある意味当然なのよね…
では、正義って…一体何だろう?
私は今…たまたまここに居るけれど、
もしアーラントに生まれて居たら、他所の食糧を奪う事も…そちら側からすれば、国民達の命を守る為の立派な正義だったのかしら…
結局、立場が違えば正義は悪になり、悪は正義になるの?…
じゃあ、正義って言葉の意味なんて、有って無い様なもの?
私の頭が長時間、混乱に陥っていたその横では、王様とウーゴ様、ロッテン様とのお話が続いていた様ですね…
王様に肩を叩かれるまで、私はついつい考え込んでしまい、
完全に、自分の世界に没頭してしまってた様で…
ちょっと恥ずかしかったです。
もうっ、正義って何なのよ?正義のバカっ!っと、
恥ずかしさの余り、なぜか正義に悪態をつく私でした…




