面接
私は、久しぶりに沢山歩いた後、
疲れてぼーっともしてて?
ただ、ぼんやりだけど夢中で彫刻を見ていた私は、
突然声を掛けられ、かなりびっくりして、思わず、尻もちを付いてしまった。
あの老紳士…いや上級大臣様ともう一人、
やや年配の女性が一緒だった。
顔から火が出るくらい恥ずかしかったが、
向こうが、かなり何度も、深く謝罪してくれたせいで、
何だかちょっと、恥ずかしさがうやむやになって、
なぜかちょと安心もした。
それでは、立ち話も何ですから、ひとまず移動しましょう。
上級大臣様がそう仰った。
更にそこから、軽くおしゃべりをしつつしばらく歩き、
ようやく一軒の大きなの建物に入った。
入口にいた守衛は、上級大臣様の姿を見つけると、遠くからずっと敬礼をしていた。
そしてなんと、
私にまで、丁寧に挨拶をしてくれた。
実家でもこんな綺麗な敬礼は見たことが無い。ちょっと感動した。
流石は中央の王都の守備隊だ。とっても洗練されてて、あんなド田舎の実家と比べた自分が、とても恥ずかしい。
長い長い廊下の突き当たりが、どうやらお目当ての部屋だった。
なんか、今日はずっと突き当たりって、感じの一日だなとか思ってたら、
その椅子にお掛けなさいと、女性に指示された。
上級大臣様が、向いの長椅子に腰を下ろすのを待って、私も椅子に掛けた。
女性は一人奥へと消えていったが、しばらくしてお茶の乗ったワゴンを押して、部屋に戻ってきた。
ごめんなさいね、ここって、まだ正式には出来て無い部署だから、まだ誰も人が居なくってね…
そう言って、女性がお茶を入れてくれた。
「お口に合うと良いけど…」
茶器を受け取り、礼を言って、香りを嗅いだ。私の知らない、凄くいい香りがする。
口をつけて驚愕した。
甘い…そして濃厚で奥深い…何より美味しい、一体何だ、これは?
あらあら、驚いたのね?私も、それを始めて飲んだ時ね、ひっくり返るくらいびっくりしたのよ…
フフフフ…今でもあの日を思い出すわね。
女性はにこやかに微笑み、
横の大臣様もそれを見て同じように微笑んでいた。
じゃあ、飲みながら本題に入りましょうか。大臣様がそう仰った。
そういえば、この方の紹介がまだでしたね。私の横のこの女性は、上級大臣の一人、ヘンリエッタさんです。
お茶を吹き出しそうになったが、慌てて立ち上がって、直ぐに、膝を付き、謝罪した。
たかが田舎の小娘に、まさか?こ、この国の、上級…大臣様がお茶を?
これはもう、本気でビビった。恐らく人生でも一番じゃあ無いのかって位に。
ヘンリエッタ様は、ケラケラと笑いながら言った。
「良いのよ、気にしなくても平気よ、本当に…」…そう言いながら、ずっと笑っておられた…ので、
多分…本気で怒ってはいないのだろう。
良かった…まだ首の皮一枚、かろうじて繋がっている様だわ…
だけど…もう油断はしないぞ。
でね…フフフ、ごめんなさい、とってもおかしくって…
ここはね、実は…王様に直接お仕えする為の…部署なのよ。
「え?…まさか…今迄…王様の召使いとか、誰も居なかったのですか?」
ああ、いや、これは失礼、失礼。
そうだね、ちゃんと説明しないとね。
リースベラ大臣様が慌てて会話に割って入った。
この国にはね、実は王様はね、二人居るんだけど、あ、これは絶対内緒ね。
今、貴方の知っている国王は、
まあ勿論、国王で、ここの王様なのですが…
もう御一方、真なる王、言って見れば真王様が居られるのですよ。
この先、我等が王と呼ぶ場合は、それは全て真王様の事だと、そう考えて頂きたい。良いですか?
真王様こそ…
この国の礎を築き、大きく発展させ、多くの国からの暴力や圧力を、
まさに御身、たったお一人で、全て正面から捻じ伏せて来られた、
正真正銘の稀代の英雄、真の王なのですよ…
我等にとっては、代え難い奇跡のような存在…
それが、真王様なのです。
「は?…はい」
そんな国の王たる者が、一体何故、こんな城の最奥に、コソコソ隠れて居るんだって、思いますか?
それは、我等がそうして下さいと、お願いしたのですよ。
ここを守る軍も、それを、統率する貴族も揃った今、
もうゆっくりとして頂きたいと…
何も…
今だに戦争の度に、常に最前線の、しかも…
わざわざ危険を顧みず、自ら先頭で戦うなどと、
最早、我等は到底顔向け出来ませんよと…
そこで、本当に…何度も何度も何度も、とにかく頭を下げて、
ようやく、ゆっくりとして頂く筈だったのだが…
そう…ただゆっくりと、書類仕事でもしてくだされば良いと、そう言ってるそばから…
王は忽然と姿を消して逃げてしまわれるのだよ。
王が望むことは勿論叶えて差し上げるのが我等の務めでは有るのだが…
仮にも王様は、この大国の主で有り、
決して水汲みや放牧した牛の回収など…して良い筈が無いのだよ…。
「…はい?」
あのー、今…王が水汲み?って言いました?
…あれ?聞き違いですか?
あのー…大臣様?
…お気は確かですか?
一体…何を、仰っておられるのですか?
ちょっと、私、理解が追いつきませんが…
フッ…いやいや、そうです。それが普通の、当然の反応ですね。
ですので、そう、貴方の出番なのです。
まずは…(逃げないように)先に報酬の件ですが、ここの部署で年に金貨2400枚を予定してます。
当然ですが、業務の都合上ここに住んで頂きますが、家賃は一切要りません。
当然、食事も込みです。
今後の人材の登用によって変動しますが…現状、休日の予定が立ちません。
それは随時、適時に用意されると、今はお考えください。
勿論、それに見合う報酬の上乗せも、当然有ります。
ちなみに、給金は軍の将軍あたりと、ほぼ同じかそれ以上、
我等大臣職のちょっと下くらいです。それが条件で…「やります、もう今から早速でも大丈夫です」…相変わらず、お返事が早くて助かります。
では、まずは…お部屋を用意しましょう。荷物もそちらへ。
一番奥の直ぐ手前、それが私に与えられた部屋だった。
これは…デカいわ、実家の倍は有るんだが…
しかも…全ての家具も設置済み。しかも…全て上等の調度の品々だった。
これに比べりゃ、
うちの父…領主の部屋でさえ、若干みみっちく思えてくるとは…
ちょっと哀しいぞ?
しかも…家賃無料で食事付き?で、年俸…金貨2400枚ってなに?
あれ?これは夢ですか?なんなら、うちの領のほぼ年間収入以上ですよ?それって。
あれ?待って…余りにも好待遇が過ぎない?
しまった…まんまと、金に目が眩んだ、これは罠なのでは?
いや…最悪、一年位頑張って辞めりゃ良いや…
いや待て私…
うちのレベルの相手貴族なんて、何の期待も持てやしない。
何処かの馬の骨に無理矢理嫁がされ、挙句しょーもない地獄を見る位ならば、
圧倒的絶対に、こっちのほうが良くないか?
そうだ、ここが、こここそが私の戦場なのだ。
闘って、闘って、そして、いつか必ず、ヘンリエッタ大臣様みたいに這い上がって見せるぞ。
窓から見える美しい夕日に、私はそう誓った。




