傭兵団と騎士長 後編
どうも、おかえりなさい騎士長さん。そう声を掛けると、凄く驚いた様子の騎士長さんだった。
「なんと…エッタさんかよ?まさかこんな遠いとこまでわざわざ来たの?」
え?ああ、私は…それこそ一瞬でしたけど…
「ああ、そうかなる程ね、そりゃそうだわ確かに…」
お食事の用意が出来てます、皆さんも騎士長さんもどうぞ中へ…
「ありがてえ…ずっと食えずだったんだよ…ホントありがてえわ…」
『おう…エトランご苦労さん、順調か?』
はい、問題御座いません。
『ほお…お主、中々やるな?』
ありがとう御座います。ところで王様、お茶でもご用意致しましょうか?
『お、おう、頼む…すまねえな』
では只今…
「へえ、エッタさん、上手くやってるっぽいですね、神様?」
『うん、そうだな…思ってるよりもガッツも有るし、流石、エッタさんと親戚さんが拾ってきただけ有りそうだわ…』
「ほう、それはそれは良かったですな」
『まあ…それでも俺にとっては、かなりの行動制限…首輪なんだがな…』
「まあ…それがエッタさんの狙いでしょうから、そこはまあ…諦めて下さいよね?」
『ちっ…判ってるよ、さっさと飯食えや、お前も…』
「了解です、我が主よ…ありがたく…」
…
……
『で?…なんか…随分やつれてんな、お前?』
「ハハハ、もう、最初から色々トラブルが連発しましてね…いや、ちょっと久々にヤバいな死ぬかもって、思いましたからね?」
え?大丈夫なんですか、騎士長…お身体は?
「ああ、ありがとうエッタさん、もう、全然大丈夫だよ…」
『で?…どこのドイツだよ、うちに喧嘩売ったクソ野郎は?』
「多分…いや、ほぼ間違い無くアーラントの軍部の…その中の一派が黒幕…強く噛んでますな…」
『は?…マジかよ?…あの弱小共が…とうとう気でも触れたか?』
『で、勿論、確証は有るんだな?』
「これを…」
『ん?…何?』
「密書ですね…どうやら、うちの国境付近一帯の小麦畑…あれが欲しいようで、その為の小細工ってとこですかね…
全部盗賊に罪をなすりつけて、討伐を理由にどうにか一部でも、畑を接収してやろうって…多分そんな感じですかね…」
『ほお…久々に粛清が必要な案件だな…』
「まあ…コウモリとは何とか話をつけたいとこですが、この際別に…コウモリじゃ無い別の組織が台頭するって筋書きでも、別に良いのかと、愚考致しますが…」
『ん?どっか…別に当ては有るんかい?』
「勿論、早急に用意致します…」
『まあ…明日にはアーデがお前等のお迎えに来るから…クソ共のお仕置きは、お前等がお家に帰ってからにしようかな…』
なにやら、とっても重要で難しいお話がされていますが、正直良く判りません。
なので…私は私の出来ることを、
お水を配ったり、器を回収したりしました。
王様達のお話がおわり、明日の朝、アーデ将軍の部隊の到着をもって、王様と私は一足先に帰るって事になりました。
村の中の空き家が王様と私に割り当てられました。
…が、王様は一旦お城にお帰りになられました。明日の食事の補充だそうです。
通常、どこの国でも王様はそんな事なんか、絶対にしないのに…
嫌がる素振りも一切なさらない…もうただただ頭が下がります…
なのに私は何も出来ない…それが悔しくも有る…
そんな私の横には、九郎さん…いや、様がいらっしゃって…
「エトランとやらよ。我等の主の事を気に病んでも、お主が疲れるだけだぞ?…あの方はちょっと…いや、かなり特別なのだ…」
「しかも主は自分が動いてる方が、断然機嫌が良いのだから…放っておけば良いのだよ」
え?あ、はい…
まさか…九郎様に慰められました。そんな九郎様は、ここに居る皆様の護衛だそうです。
確認するまでも無く、九郎様もきっと凄くお強いんでしょうね。
王様がお戻りになるまでは起きておかなきゃって思ってましたが、
いつの間にか、見事に落ちてました…
日が昇って、朝日が差し込むと、私も目が覚めました…!?
椅子に座って居たはずなのに…いつの間にかベッドの上でした…
九郎様が運んで下さったそうです、申し訳御座いません…
「構わんよ…最初は皆、そんなものだ…」
取り敢えず…本当にご迷惑をおかけしました…
はっ?か、神様は…?
「主は夜更けにまた、お出かけになられた…行く先は、我にも判らん…」
急いで顔を洗って、昨日の大きなお家に向かいました。騎士長なら、多分王様の行く先をご存知かと思って…
おはようございます、騎士長さん。
「お、おはようエッタさん、早いね?」
はい…ところで…王様は一体、どちらへ行かれたのでしょうか?
「ああ、多分アーデのトコか、或いは…」
或いは?
「ああ…或いは、本件の黒幕の様子をご自身の目でご確認に行かれた…って、そんなとこだと思うが…」
「あの方は、結構思いつきで動かれるからな…付き合いは古いが、正直私でも判らんのよ…」
そ、そうですか…
え?待って…敵の国に、わざわざ、たったお一人で???
「まあ…その気持ちは分かるよ。ただね…心配せずとも、世界であのお方に害するものなどただの一人もおるまいよ?
さてさて、では出発の準備でもしてお待ちしようかね、我等の主のお帰りを…」
王様の…王様の概念が崩れた…
部下や傭兵さんも…皆が、この状況が当たり前の様に考えているけど、
良いのかな?いや、絶対にダメだよね?
王様だよ?王様だもん、なのに誰よりも動き回って…夜も寝ないで敵国に、わざわざお一人でって…おかしいよね?
なのに…グースカ寝てた自分に、もう死ぬほど腹が立って腹が立って…
私はこんなにも無力だなんて…
気が付くと、何故だか私は泣いていました。




