表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/41

あの日のおとぎ話

 私がまだ幼かった頃に、うちの屋敷で働いていた獣人の女中が居て、


 私がイタズラをして叱られた後に、よく慰めてくれた。


 何故急に、彼女の事なんか思い出したんだろう…

 そうか、そうだ【深淵】だ…


 その言葉で、私の記憶が呼び起こされたんだ…

 彼女…メイルーデの膝の上で、よく聞いたっけ。


 とっても大きくて強い、真っ黒な神様…【漆黒の大巨神】のお話を。



 ぼんやりとだけど…色々覚えている。

 子供が分かるような言葉で、ゆっくりと、やさしい語り口調で話してくれてたっけ。


 人間も動物も…なんなら神様だって、

 生きとし生きる者は全て、等しくその身に魂が有って、

 それは良い事をすれば輝き、悪い事をすれば、たちまち曇ってしまうのだと…


 「じゃあ…いたずらした、わたしのたましーは、くもったの?」そう聞いた私に、彼女は優しく答えた。


 「フフフ、そうですねえ~、ちょっと曇ったかも、しれないですね。でも大丈夫だから」


 そして、いつもそこから漆黒の大巨神のお話が始まるのよね。


 大巨神様は、決して誰にも負けない程、とてもとても強いのだと。


 どんなに大きなお山でも、あっと言う間に平らになって、

 どんなに大きな岩だって、あっと言う間に小さな石ころに変えちゃうんだよって…


 怖い怖い、大きな大きな魔獣でさえ、その神様から見たらちっぽけな小物だって…


 悪い事をすれば、人間も動物も魔獣も…

 神様だって、みんなみんな、漆黒の神様がやっつけちゃうのよ。


 でも、神様は普段はずっとずっと暗〜い、暗闇の、更にずっと奥の方ででお休みになっているのよ、

 だから、その神様が起きる前に、今のうちに良いことを、いっぱいいっぱいすれば良いのよって、そう言ってたな…


 その【深淵】ってとこは、何よりも深くて、暗くて何も見えない場所でね、

 人が死んだあとね…


 そこに…神様のところに行くには、人間は身体を捨てて、魂だけにならないと行けないの。


 でもね…そこに行ってもね、その魂が曇っていると、結局暗くて何も見えないの。

 でも、魂が輝く人はね、どんなに暗くても、全然迷わずに神様のところへ行けるのよ。


 だから、一生懸命頑張って、自分の魂がいっぱい輝くようにしないといけないのよって…


 「ねえ、神様はそんなくらいばしょで、ひとりぼっちなの?さみしくないの?」



 そうね…きっとお寂しいでしょうね。

 だけど…【深淵】はね、入り口は大きいけれど、神様のいる出口は狭くて、


 だから神様は、そこにお一柱…お一人でいらっしゃるのよ。

 「ふーん…」




 あの時聞いた、あのお話の…


 その神様が…【深淵の破壊神】様が、私のすぐ目の前にいらっしゃるのよ…

 メイルーデが聞いたら、見たら、一体どう思うんだろうか?


 冗談だと言って笑うかしら…それとも、一緒に凄いですねって、驚いてくれるかしら?



 大巨神って言っても…


 実際にはそんなに背も大きくないし、見た目はどう見ても普通の人間だし…


 いつも大体ふざけてて…


 でも今だって、有無を言わさず、あっと言う間に悪党を懲らしめ…いや、始末されちゃった。



 昔聞いたあのお話の神様は…


 悪い者には罰を与え、正しき者や、魂の穢れ無き者、弱き者には最大の慈愛をお与えになられるのだと…

 

 その…神様が目の前に居て、



 【深淵】から取り出したテーブルと椅子に座って、まさかこんな山奥で、突如お食事をされている。




 私にも、出されたその椅子に座れと、そうお命じになられ…


 突如、「取ってくるわ」とだけ言い残し、お姿が消えた…


 そして数分後、再びお姿を現されて、テーブルの上に食事を並べはじめ…慌ててお止めした。

「ちょっとお待ち下さい王よ。それは、その様な雑事は全て私の仕事で御座います…」


 「お?おう…」

 

 お出しになられたのは、カレーだった。

 一体どういう方法で…とか、そんな話はもう良い。

 私は皿を受け取り、テーブルの上に並べていく。

 サラダやスープまで出てきて…かなり驚いてはいるが、なるべく顔に出さぬ様に気をつけた。


 最後に九郎様の…


 何かの…多分内臓の様なものが入った器をテーブルに置いて、どうやらこれで最後の様だった。


 私はグラスに水を注ぎ神様にお渡しし、


 別の器にも注ぎ、九郎様の前にも置いた。


 うむ…では頂こう。その神様の合図に合わせ、頂きます…っと大きな声で唱えた。


 カレーって…やっぱり美味しい、ひたすらに美味しい。



 一瞬で意識を持っていかれちゃう…危険だけど、美味しいから仕方ない。



 空になった器を神様から受け取って、直ぐ様おかわりをご用意した。


 勿論、お水の追加だって忘れない。


 そして…九郎様はまだお食べなので…

 私もすかさずおかわりをよそった。



 本当はもっともっと食べたかったんだけど…


 一応…貴族の誇りを言い訳に…


 いや、仕事で認められるまでは油断しない…


 この後で動け無くなったら困るから、ぐっと我慢して、ご飯少ない目で盛った…


 でも…美味しい。


 食事が終わるとまた…

 ごちそうさまでしたって、そう唱えるの。


 そして…食器やテーブルを片付けて…



 こんなの、普通有り得ない…完全に、御伽噺の世界だ。


 でも…



 そのおとぎ話の主人公がやってる事なのよ、これって全部…



 だから私も今、きっとおとぎ話の中にいるんだわ。



 だから…もう、実は何だって良いのよ、きっと。


 

 とにかく、一生懸命やれば、きっと何とかなるんじゃないかな…



 そもそも…私に出来る事なんて、たかが知れてるものね。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ