真王様って一体… 後編
それで…真王様、
本日のご予定は、一体どうなって居られるのでしょうか。
この私めは、何をお手伝い致せば宜しいのでしょうか?
え?予定…?
いや、そんな急に言われても…
えーっと…予定か?俺の…予定?ね…
えーっと…そうだな、特に決めては無いんだけど…どーしよ…
えーっと…
おお!そうだ、
ま、まあまだ取り敢えず、緊急って程じゃ無い様子では有るが…
取り敢えず…1回、山賊の王に会って、
その後ついでに、エルどんの様子でも見に行こうかなあ〜とは、
一応、思ってたんだよね…
え?…エルドン騎士長の、ですか?
あ?ああ、まあ…そうだけど、
では私、急いで馬車の用意、手配を致しま「ああ、良いの良いの」…すね…
え?…では、どうやってそちらまで?
あれ?……
えーっとエッタさんや
?
アナタ…この娘に何も、説明して無いの?「はい!」…チッ、また即答かよ?
ああ、でももう準備は大丈夫ですよ神様、繭の製作は既に終わってますから、
ねえ、ミュー様?
おっと、急に何ですか親戚さんまで?
お?そして出たなミュー…
ちっ…みんなグルかよ?
しかももう、ちゃんと移動用の繭、出来てるじゃねえか?
一体いつの間に?
じゃ…取り敢えず、エトランさん、これ着てみて下さいな?
え?大臣様、
な、何ですかこれは?
まあまあ…取り敢えず、ね?
この人形の白い繭…恐らく、この蜘蛛の魔獣さんが造ったっぽいけど…
え?これ蓋…がついてるよ、
え?…ここに入るの?よし、
「大臣様、王様、入りましたが…」
ああ、もうちょっとだけそのままで…
よっこら…ショーヘイ、っと。
じゃ、ちょっくら行って来るねっ、
しーゆー…
…
はい、もう出てきて良いよ。
「あ、はい、じゃあ出ますよ…」
え?
…どこなのここ?
ほんの数秒だったのに…
次に私が見た光景は全く別の…
深い深い緑に包まれた、とんでもない山奥の…
上手く偽装された砦の、その目の前でした。
ああ、その繭は回収するよ。
王様がそう言った瞬間、繭は消えました…
??????
た…多分、魔法なんだろうけど…何???
まあまあ、ビックリするのはその位にして、とっとと行こうか?
王様はゆっくり歩き出したので、私も慌てて付いて行く。
壁沿いを移動すると、大きな扉の前に着いた。
大きな扉の前には、いかにも盗賊って感じの、武器を構えた大男が居た。
おう、ご苦労さん、居るか?
ああ旦那、お久しぶりですね?
おや、しかも…連れが居るとは、また珍しいですな?
おっとギスよ、この娘に手出したらひ…
アハハ、はいはい、旦那の関係者にちょっかい掛ける程、俺達ゃ゙そこまでバカじゃねえですよ。
うちの大将も、そろそろ旦那か、大きい梟が来るだろうって先日よりずっと待ってたんですよ。
じゃ、入ってくだせえ…おい、門を開けろっ、
男の掛け声で、音を立て、砦の大きな入り口が開いた。
え?待って…王様が旦那って言った?
いや、そもそも…知り合いなの?
この…山賊達と?
おい姉ちゃん、ボサッとしてっと置いて行くぞ?
「あ、はい、すぐに…」
しばらく入り組んだ通路を歩き、一番奥の大きな広間に入った。
そこには大勢の…
いかにも山賊って感じの怖い男達が、脚が竦む位、本当に大勢居た。
王様は、全く意にも介さず、そのど真ん中をずんずんと進んで行く、
遅れたら危ないっ…と、私も必死で王様の後に続く。
数段高い位置にある椅子から、男が立ち上がった。
間違い無いわ…
顔も怖いし、きっとあいつがここのボスなのね…
大きな男は階段を降り、その脇にずれた瞬間に突然、
膝を着き、頭を垂れた。
そして、この部屋に居た全員も一斉にそれに倣って膝を着いた。
…え?
王様はそのまま数段高い位置まで上がって、そこの椅子にどかっと、腰を下ろした。
「おつかれさんっ!」
「よし、全員楽にしていいぞ、あと、椅子をもう一つ、彼女にも頼むわ」
「「御意」」
えーっと…
皆に紹介しておく、彼女はエトラン嬢だ、
エッタさんが俺に着けた…
いや…待て…着けられた?
……鈴?だよな、やっぱ…
ま、まあ、アレだ。
とにかくどっかで見かけたら、色々と宜しくな。
「「御意」」
ところで神様、お食事は?
え?今来たばっかなんだけど…あれ?もうそんな時間だっけか?
ええ、もうすぐ昼です。
ちなみに…今日は焼きそばですぜ?
ほお…
なら、当然頂くとしようかね、フフフ…
おい…お前ぇら、お頭が飯だ、急げ。
「「「了解だ、大将」」」
ポカーン…何がどうなってんの?
お頭?…え?待って、お、王様じゃ無いの?実は盗賊の親玉だったの?
え?え?え?なによ?
全くついていけない…
よし、皆に渡ったか?
おっと、お嬢、貴方も食うよな?
ほら、コイツはうちの名物の、焼きそばだぜ、食って味にビビるなよ?
「いただくぜぃっ!」
「「「頂きますっ」」」
何?
盗賊って、皆で一斉にご飯食べる感じなの?
ダメだ…全く理解が追いつないのに…
この、焼きそばって料理のせいで、何かうやむやになってる。
でも…
でも…
これ、凄くいい匂いだし…
取り敢えず…一旦、取り敢えず食べてから考えよう…かな?
うわ…美味し…
なにこれ?意識が持っていかれそうだ…
どうだい姉さん、ここの、お頭特製ソースの味はよ?
コイツはここで作ってるんだよ、つまり、出来たてのソースって訳だ。
「え?…ソースって、こんな山の中で造ってるんですか?」
アハハ、そうだぜ、なんせ中身が完全な企業秘密だからな、
世間に絶対にバレない場所で、ひっそりと造ってるんだよ。
えーっと…?多少お聞きし難いのですが…
あの…大将さんは…盗賊の親玉なんじゃ無いのですか?
ああ…なる程ね、そうかお嬢さんは、エッタ大臣さんに、何も聞かされてないんだね?
あ、はい。あと…私の事も…エトランか、エッタと…そう呼んで下さって結構ですので…
ああ、そう言えば君も、エッタさんだったね、そうそう、聞いてはいたが…
ああ…すまない、
そう言えばまだ自己紹介もして無かったね…
私は、「梟の団」二番隊のマリアスという。
まあ…つまりここも、
盗賊稼業も、実はうちの国の関係者って事だな。
盗賊の中身も、実は半分がうちの軍人さんなんだよ。
凄く簡単に言うとね…
例えば…うちの軍が直接攻撃すると色々政治的に不味い様な場合とかにね、
それをうち、盗賊が…代行する感じかな?
あと…ここの物資はね、
うちの本国の軍隊から、それを奪い取った…フリをして、
きちんと定期的に備蓄してるんだ。
それらは全て、実戦を見据えた、ほぼ実戦の訓練、を兼ねていてね。
いやほら、ウチの城の防衛力ってさ、他所と比べるとちょっと…いや、もう異常に強過ぎてさ…
どこも簡単には喧嘩も売って来ないのよ。
まあ、それって大変有り難い話では有るんだけどね、
そんな平和の真ん中で、緊張感も無く、普通に訓練しててもね、
兵の戦闘能力とか、士気がね、知らず知らずにどんどん下がってく一方なのよ…
なのでね、こうして王様のお考えでね、我らは盗賊のフリをしながら、
敵国の軍隊やら、本物の盗賊と闘って、貴重な実戦経験を積んでるのさ。
百の訓練と一の実戦。
それが王のお考えになった、我が国の最強の軍隊の秘密なのさ。
…は、はあ、
ちょっと待って、他国さえ利用するの?
そんな事までもお考えなの?
凄いわ…王様って、一体どこまで見通されていらっしゃるのよ?
だって…
だって、
この人…いや王様って…
肩パンの人…なのよ?




