初登城
約束の時間よりも、随分早くに、城の正門に着いてしまった。
昨日会った、あの同じ門番さんと直ぐに目が合った。
ちょっと気まずいし、かなり恥ずかしい。
だがしかし、
本日は一切、何の憂いも問題も無いわ。
だってもう、私は余裕しゃくしゃくの許可持ちですよ…で、ある。
ずっと立ってると疲れるので、はしたないとは思いながらも、
城のアプローチの手すりの近くに荷物を降ろし、そこに私は腰を下ろした。
しばらくして、ようやく最初の朝一番の鐘が鳴った。
正面のとっても大きな門が開いて、多くの関係者や商人の列が、門の中に吸い込まれていき、
また、ここから沢山の人達が出ていく。
だが、私の約束の時間はまだまだ先だ。特にする事も無いので、
ただぼーっと、その流れを見つめていた。
多くの人が入っていったのに、今も人は沢山入り続けている。
改めて、このお城の大きさに驚く。
更に時間が経って、入城する列がいよいよなくなりつつある頃、
門番の一人が、入り口付近に数台いた屋台へとやって来た。飲み物を買うようだ。
丁度いい、少し話が聞きたいとそう思い、
私も飲み物を買おうと立ち上がったその時、
先程の…あの青年が、早足で城の中から現れた。
そして、門番が買ったばかりの飲み物を、まさか…横からひったくって、
それを、あっという間に一気に飲み干して…
笑顔のまま、門番の肩をポンっと叩いて、空の容器を渡すと、
さっさと、城を出て行った。
でも、門番は別段驚く事も無く、
「もう…また正門かよ…全く勘弁して欲しいわ…」そう言って上を見あげてた。
あの、すいません…今の人って、どなたですか?
私が急に話しかけたので、門番さんはちょっと驚いてたが、
「ああ…良いかい、お嬢さん。世の中には、知らない方が身の為だって話と、知ったら最後…、って話が有るんだよ。
…今のお方の話は、勿論、両方だな」
良いかい、今見た事は直ぐ様忘れなさい。それがあんたの為だよ。良いね。
門番はそう言って、再び飲み物を注文し、手に取ったらさっさと詰所に帰ってい行った。
きっと…誰か凄い偉い人の息子さんとか、なのかな?
あの様子じゃあ、きっと遊んでばかりの、ダメな道楽息子なんだわ…
幾らお金を持った貴族で有っても、絶対ああなってはいけないと思う。
いつか私が子をもうけても、絶対甘やかして、あんな人間に育てたりはしないわ…
あの青年を見て、そう心に強く誓った。
朝一番で入っていった多くの荷馬車が、城から一斉に出始めた。
積荷を満載にして、荷馬車は出て行く…ん?
え?…
一瞬見間違いかと思ったが…違う。
さっきの青年がまた、一台の荷馬車の荷台で腕を組み、
柵に片足を乗せ、颯爽と城から出て行った。
恐らく…直ぐに見つかり連れ戻され、
そしてまた、すぐ逃げたんだわ…
最低ね…
あれは間違いない、
きっとアイツ、とんでもない、ダメダメの穀潰しなんだわ…
あーヤダヤダ…どこで教育を間違ったのかしら…
きっと親御さんは泣いてるわね…
そうこうすると、ようやく、朝2番の鐘が鳴った。
随分と待ちわびた。
いや、勝手に早く来ただけなんだけど…
私は速やかに、次の入城者の列に並ぶ。2番目だった。
そして、いよいよ私の番だ。
決して顔見知りって訳では無いが、
門番は書類さえ見ずに、笑いながら私を中に入れてくれた。
「良いか、お嬢さん、ここをひたすら真っ直ぐ進め。とにかく真っ直ぐだ。そして、突き当たったら右だ。そして右を向いたら、またひたすら真っ直ぐ進め。何処にも曲がらず、ただ真っ直ぐな。
そしたら大きな噴水の前に出る。その噴水で、しばらく待ってなさい。迎えが来る。そう聞いている。」
…はい、真っ直ぐ行って右、また真っ直ぐ行って噴水。そこで待つ。
了解しました。
私はそう言って歩き出した。 城の中の街は、外以上に賑やかで、華々しい。見ているだけでも、気分が良い。
しかし…突き当たりが遠いな。大きいのは知ってたが、自分の想像以上に、とんでもない広さだ。
そして、この国は他の国と大きく違い、
外周の危険な場所に、国の偉い人が住み、安全な、中央へ行くほど普通の住人の街になっている。
国王の住居でさえ、正門の直ぐ後ろに有るのだ。
外周の周囲には多くの畑や牧場があり…
毎朝一番の鐘と同時に、中央部から、市民が畑や牧場に仕事に出掛けて、
それと入れ替えで、多くの商人達が入城する。
畑の外には軍の基地が複数有って、そこで常に侵入者や魔獣、外敵に対応する。
有事の際は、外周の貴族達も、直ちにその基地へと、急ぎ参戦するそうだ。
そこが他所の国と一番の違いだと、国民皆が知っている。
故に、この国の貴族は、他所と違ってかなり国民の信頼が厚い。
仮に…
うちの父が兵を率いて、そこに駆けつけたとしても、
多分、門前払いかもね…しょぼ過ぎて…
そうそう、そう言えば、
それを思うと…あの青年…
あれで本当に大丈夫なのかな?
まあ、私には関係の無い話だけどね。
それからも相当歩いて、本当に…相当歩いて、
ようやく噴水が見えた。
それはもう、とても大きく立派な噴水で、見事な細かい彫刻が、至る所にあしらわれていた。
余りにも見事な彫刻に、
「うわあ、綺麗ね〜…」
田舎者丸出しで、しばらくそれらに見惚れていると、
やがて私の後ろから、不意に声を掛けられた。




