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仕事始めは、空の上

 真王様とお会いした、その日の夜。


 会議が休憩に入ったタイミングで、ヘンリエッタ様が仰った。


 ねえエッタさん、


 重要な会議がまだまだ続くので、貴方には馬車を用意します。


 貴方は一度、お部屋に戻りなさい。


 なにせ…

 この後のお話は全て、数字のすり合わせなんかが殆どなのよ…


 ただ聞いているだけなんて、きっと、途轍もなく退屈だから…



 いえ、ヘンリエッタ様…

 真王様が居れるのであれば、おめおめと私だけ帰るなんて…


 お仕事です、私もご一緒致します…



 え?…ダメよ。だって、貴方は今日が初日なのよ?


 そんなに頑張ったら、すぐに潰れてしまうわよ?



 ねえねえ、

 ところでさあ、エッタさん…あ、歳のい…いや、ち、違う、危な…初代の方の…、


 その、2代目の家は、何処だ?



 え?何か、若干不快な言葉が混ざって聞こえましたが、気の所為ですよね?


 あの、以前の…軍の第二作戦本部跡で、


 今、使い道を色々考えてた例の建物に、


 あそこの一番良い部屋を、彼女のお部屋として用意しました。


 ええ、あの将軍専用の部屋だった場所ですよ。


 「え?」あの部屋、やっぱり…



 「ああ、あそこか…」


 よし、ジョン、お前この娘っこ、噴水の前まで送ってやれ。

 良いか、絶対落とすなよ?


 あ、ミュー、糸で固定頼む。



 くええええ!!


 おし、良いお返事だぞ、ジョン。



 「え?あ、あの…ち、ちょ、ちょっと、待って下さ…」


 私は、不思議な事に、何故かあっという間にグリフォンの背に乗せられ、


 しかも、


 落ちないようにと、蜘蛛の魔獣が、糸で私を固定してくれた…


 扉が開けられると、グリフォンがゆっくりと歩き出した。




 すいません、皆様…ごめんなさい、で、でわ…これで、あ、ちょ、お、おおおおお、し、失礼…しいやあ、ああああ… … …




 行ったな。


 最後…何か叫んでた気がしたが…まあ…良いか。



 じゃあ、アマジャさん、エルドンの話を頼む。


 はい、実はちょっと…面倒な事態になってる様子で…







 驚いた事に、グリフォンは速歩ながら、

 下手な馬よりもよっぽど、乗り心地も良かった。


 ただ…蹄では無く、鋭い爪なので、城の石畳に当たる度に、

 ガキン、ガキンと、結構大きな音がなってた。


 そして地下道を抜けて、広い中庭の様な場所に出ると、


 魔法を発動して風を起こし、一気に真上に…

 空へと飛び上がった。


 グリフォンは大きな翼を広げ、颯爽と夜の城の上を飛んでいる…


 「凄い…」


 とても現実とは思えない光景だった。


 暗くて、高さがが良く判らないのも有って、


 恐怖よりも、飛んでいるって感動が、完全に上回っていた私は、


 もうただただ、ひたすら感動していた。



 私は今、空を飛んでいるのよね…凄いわ…




 それこそ、一瞬に感じる程に、あっと言う間に噴水の前まで帰って来た。


 大きく広げた翼を畳むと、

 グリフォンは、私が降りやすいように身体を下げてくれた。

 そしてその次の瞬間、蜘蛛が出してくれた糸が、急に音もなく忽然と消えてしまった…



 魔法?

 なにから何まで、全部凄い…



 「送ってくれて、ありがとうね…ジョン」


 私は、いつになく気分が高揚してたのか、


 頭を下げたグリフォンに、

 空を飛んでくれたお礼を言って、

 そのくちばしに軽くキスをした…ほんの挨拶って、そんな軽い気持ちだった。


 グリフォンは、驚いた様な顔をした後に、嬉しそうな声で1回鳴いて…


 再び、大空へと消えていった。



 凄い…こんな事、生まれてこの方、一度だって無いよ…


 グリフォンなんて…おとぎ話の中の生き物じゃないのよ、それが、私を乗せて…


 だって…私、本当に空を飛んだのよね?


 凄いわ…フフフ、


 お願いしたら、また乗せてくれるかしら?



 今日、私は生まれて初めて空を飛んだ。一生、忘れる事が出来ない、素敵な思い出が出来た。



 

 そういや…お腹空いたな…


 お茶は沢山飲んだけど、カレー以外は食べてないのよね…


 そういえば、ここ?食事が出来るって聞いたけど…食堂とか、有るのかな?


 その答えは、入り口の門番の方に教えて頂いた。


 ここの皆さんは、守護獣を使って、屋台の料理を頼んで、それを配達して貰うそうだ。


 うーん…居ないのよね、私。


 仕方が無いので、自分で買いに行く事にした。



 行く店は、私の心の中ではもう決まっていた。



 たこ焼きだ、あれにしよう、いや、是非ともあれが食べたい。



 

 店に着いた。

 前にいたおじさんとは違う、若い男性が店番だった。


 「へい、いらっしゃいませいっ!!」


 すいません、一つ、いや二つ下さいませ。


 「あいよ、おおきに!」


 ところで…アンタ、ここらじゃ見ない顔だね?


 はい、実はまだ、ここに来たばっかりなんですよ。

 でも、前にここに来て食べたたこ焼きが、凄く凄く美味しかったから、また来ちゃいました、フフ。


 おっと!そいつはいけねえな…新顔さんにそこ迄言われて、素直に返したとあっちゃ、

 俺は親方にドやされちまうわ、


 よっしゃ、もう一つおまけだ!持ってけ、ドロボーってなもんだ!今後もご贔屓に頼んまっせ?


 「あ、ありがとう御座います…」


 ところで、アンタ、お名前は?


 「あ、はい、エトランっと申します」



 …!!


 おいおい…エッタさんって?

 アンタが、あのエッタさんなのか?


 そりゃ、凄え偶然だね…そうかそうか、もう顔は覚えたぞ。



 え?あの…?



 ああ、勿論、お代は結構だぜ。

 それは全て、城から支払われるってよ。


 え?…


 大丈夫だよ、ついさっき、ちゃんと城から通達が有ったんだ。


 それに、そもそもここの店は特別な、王の直轄店だからな。

 あっと、これは絶対に内緒だぜ?

 もしバレたら、客が殺到しちまうからな…


 当然、王様付きのアンタは、永久に無料だよ。



 …王の?



 そうだぜ?怪我や病気で働き難い軍人の為にな、王が造った仕事の一つさ。


 中でもここのは特別、

 この味も材料も、王が、ご自身でお決めになられた、


 まさに正真正銘、王様の秘伝の味ってのが、

 ここの一番の売りだからな。


 いや、実際、この国の中のたこ焼きじゃ、

 一番美味いのは断然、ぶっちぎりでここなんだよな。


 言っちゃ悪いが、後の店はみんな、ここの見様見真似だからな。


 おっと、おしゃべりが過ぎたな、冷めないうちに気を付けて帰るだぜ、エッタさん?


 「はい、ありがとう御座いま…した…」

  

 じゃあな、なんなら毎日来いよ〜…




 3つも貰った。



 勢いと圧に押されて、結局貰ってしまった。

 良いのだろうか?



 お部屋に戻った時、教えてくれた門番の守衛さんに、おまけのたこ焼きを一つ差し入れした。



 おお、これはタコ屋のたこ焼きでは有りませんか、

 ありがとう御座います、後で頂かせて頂きます。



 有名なんだ…凄く喜んで貰えた。



 そして…



 あとの二つも、気が付いたら…




 何故か一瞬で無くなってました。




 美味しかったって事だけは、何となく覚えてるんだけど…



 おかしいな?


 いつの間に無くなったんだろ…?



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