王の帰還 後編
この日、
お城のお仕事が決まってから初めて、
遂に、私は真王様にお会い出来ました。
この国の中枢の、とっても偉い大臣も将軍も…
それが例え誰で有ろうと、
すぐに膝をつき、頭を垂れるその御方こそ、
この国を創り、ここ迄大きく発展させ、
今日も尚、その最前線で闘って居られる英雄の中の英雄…
本物の王様なのだ…
なのだ…けど…、
……
けど、も…
あの日見た、あの、逃走を繰り返す青年のイメージが、
余りにも強過ぎて…素直には、その現実が頭に入って来ない…
ヘンリエッタ様が私の手を引き、
王様の前へと連れて行き、
「ほら、女性に名乗らせて於いて、御自分は挨拶無しですか?、皆に笑われますよ?」
は?…ちょっと待って下さいエッタ様…?
王に対して、なんて事を仰るのですか?
むしろ放っといて良いんですよ?こんな田舎者の小娘なんか…
「ん?おっとそれは確かにな…」
えーっと…確か、エトランさんだったね。
どうも、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ない。
俺が…
通りすがりの…「シバ様っ!」
あ、ごめん、違った違った。
趣味でヒーろ…いや、王様をやってる、柴ってもんだ。宜しくね。
ずっと…さっきからふざけてばかりいる、この御方の…
私が…お目付け役なのかな?
それに…
あの…ヘンリエッタ様、
私は一体どの様に、お仕事を行えば宜しいのでしょうか?
え?そ、それは…
か、神様…いえ、王が、王様がお決めに、なられ…るのですよ!?
「は?」
「…え?」
ちょっと、エッタさん?
だからさあ…
また、ちょっと困ったら、すぐに全部、俺に丸投げですか?
「はい!」
…クソ、メッチャ元気なええ返事しやがったよ?
しかも、即答かよ?
良いですか?
もう既に、彼女との契約は完了致してますよ、
それでも、神様は知らん顔ですか?
良いんですか?神様なのに、
そんな、極悪非道な事をなさって?
あ、知らないんだ…もう、泣くから…
泣きますよ?
もう私も…そこのエトランさんも、
二人のエッタが…
貴方のせいで、死ぬ程泣きますよ?
ホントに良いんですか?ホントに良いんですね?
ええ?…いや待ってよ?
それはちょっと待ってって、
って、いやいや…?
あれ?何で、俺が一方的に責められてんだよ?
そして…何で、
ここの会議の出席者全員、俺と目を合わせないんだ?
は、謀かったな…シャア…いや違った、エッタさんめ、
クソ、俺が…坊やだからか?知らんけど…
ま、まあ…ええ…
そこのエトランを、給料分、俺が顎で使えば良いんだな?
判った。
ならば、入社試験だ。無事に耐えられたら、お前を認めてやろう。
まずは(圧迫)面接だ。
さあ、出てこい野郎共…お前らの姿を、この小娘に見せつけてやるのだ!
そう言った真王様の背中から突如、
巨大な、黒い蜘蛛の魔蟲と、
同じく…頭だけ白くて、それ以外は全部真っ黒のグリフォンが、
そして…
足が3本有る、見た事無いほど大きなカラスが現れた…
左にグリフォン、右に大きなカラス…
王様の正面には、蜘蛛が陣取った。
王様を守る、強い三騎士みたいだ…
そして怖い…
こないだ見たグリフォンなんて、比ではない…
圧が、迫力が、もはや完全に桁違いだ。
それは圧倒的で…
恐らく…人間じゃあ到底敵いっこない存在…
素人の私でも、それはもうはっきりと判った。
魔獣なんかじゃあ無い、もっともっと、威厳の有る、遥か上の存在…
多分、神話に出てくる様な存在なのだと。
「オイ…オマエ、ナマエハ、ナントイウ?」
驚いて、つい固まってしまった…
そのカラスが喋ったの?いや、喋れるの?
…
…あ、
す、すいません…凄く驚いて、固まってしまいました…
私は、サント領マイトカの領主エドモン アルド スガストルネの娘で、
名を、エトラン アズ スガストルネと申します。どうぞ、宜しくお願いします。
「オ、オウ…」
ほお…コイツらを前に、ビビらず、物怖じせずに挨拶出来るとは…
まずは、一時試験は合格だ。
よし、第二次審査は水着だが…「柴様?」
あ、う、嘘、嘘です、すいません、ただ言って見たかっただけで…
まあ…どうせもう、俺は逃げられんのだろう…
良いだろう。
認めようその力を。
今日からお前は、レイブンだ…
知らんけど…。
良く理解出来なかったけれど、
どうやら私は、真王様に、お認め頂いた様だった。
そして、
その翌日から、想像を絶する毎日が始まると、
この時の私は知る由もなかった。




