一体どうして、私なのですか?
早朝に、大きな雷と雨の音で目が覚めた。
雨はかなり激しく降り出していて、
早朝で静かな分、屋根や窓を叩く音が良く聞こえた。
それでも…
こんな日であっても、この酷い雨の中を、わざわざ歩いて職場に向かう必要が無いって、
なんて素敵、本当に素晴らしい…
まさに、究極、理想の、夢の職場だわ。
ああ…神様、大臣様、感謝致します。
早く目が覚めてしまったものの、雨音が気になって眠れない。
仕方が無いので、
ほんの暇つぶしに…久しぶりに父様に手紙でも書く事にした。
そうこうしていると、朝一番の鐘が鳴っていた。
おっといけない、色々と手紙に書く言葉…
まあ、お見合いのお断りが大半だが…
体の良い理由を選んでいたら、あっという間に時間が経ってる…
急いで支度をしないと、
まずは…お風呂に、そして急いで髪を乾かして、きれいな服を用意して…急げ、私、
なんて、言ってる間にも、朝二の鐘も鳴った。
間に合った、準備完了、
早足で徒歩17歩の職場に向かう…
で、直ぐに到着、ああ、なんて素敵。
掃除とお茶の用意、それが済んだら、入り口でお出迎え…
既に、私の、職場での1日のルーティンが出来てる。何だかちょっと嬉しい。
しばらくして、
馬車が到着するなり、中からヘンリエッタ様が仰った…
「貴方もこれに乗って頂戴な…」
「はい、かしこまりました。」
ところで…、ヘンリエッタ様、騎士長を待たなくても宜しいのですか?
「ええ、実は…エルドンさんね、急用が出来ちゃったそうで、今お隣の国との境界辺りまで、急ぎ向かってるようね…」
ああ…そういえば、昨日の…
将軍様のところで、何か、大変そうなお話をされている様でした。
…なんでも、国家機密だそうですね。
うーん…、特号案件をほっぽりだして迄、そっちに行くのも、
ちょっと…どうかと思うんだけどねえ…
妙に、心配性だからねえ…エルドンさんって。
ところで…ヘンリエッタ様、お聞きしたいのですが、
その、特号案件って言うのは…?
ああ…そうね、簡単に言うと、この国の命令の重さ、順番ね。
国全体で…
特に急ぎでは無いけど、それなりに重要な案件が3号、
近い内に大きな問題が有る事象に対しての、やや急ぎの命令が2号、
緊急の、直ちに対応が必要なのが1号、
で…
その全てよりも重要な、神様…
いえ、真王様の直接のご指示やご命令…
あと、国の運営にとって、非常に重要で緊急の対応が必要な物、
そして、真王様に対して、国…こちらから行う要件の全て、
それらが、最優先事項、特号案件って呼ばれてるのよ。
まあ…今回は特号案件と、恐らく特号に相当する案件が重なったんで…
エルドンさんは、より緊急の対応が必要な方を選択したのね。
…あら、
気になるの?エッタさん。
え?あ、いや…その様な重要な問題を、こんな私如きが…
決してお聞きして良いはずが有りません。
どうぞ、お気になさらずに。
でもまあ…多分、
いずれ近い内に、貴方も、こういった事に関わらざるを得ない話なんだけど、ね…
そうね…
うちに関係の有る、とある傭兵団と、
この辺りでも特に大きくて、とっても危険な盗賊団が、大きく揉めてるのよね。
「え?…それ、私が聞いても宜しいのですか?」
うーん…、まあ、いいのよ貴方は。
「は、はあ…」
その傭兵団は、うちの軍隊とも良く連携している、我が国のご贔屓の傭兵団なのね。
なので、ここが大きなダメージを貰うと、こっちも大迷惑で…
そして…盗賊団。
じゃあ、ここを攻撃して潰してしまえば良い…って、
そんな簡単な訳でも無いのよ。
まあ、どうあっても、こちらに都合よくは、行かないのよね。
ここが弱るとね、周りの悪党たちの勢力図が大きく変わって、
恐らく、縄張りの奪い合い…つまり、必ず凄惨な戦争が起きちゃうのよ。
当然、あちこちで巻き込まれたりする商人や国民も居るだろうし。
「え?それで騎士長は、どうされるおつもりなのですか?」
そうね、まずは…
事態そのものの、詳細を確認するでしょうね。
恐らく、傭兵団を一時的に、安全なこっちに引っ張ってくるくらいしか、打つ手も無さそうなんだけだけど…さてさて…
なので…こっちも出来る事をしておかないとね。
私達を乗せた馬車は、この国の中枢…普通絶対に立ち入りを許されない王城の地下、
地底要塞と呼ばれる、超極秘施設へと到着した。
あの…ヘンリエッタ様、
本当に、私の様な者が、こんな重要な場所に来て宜しいのですか?
ああ…気にしないで。貴方は私の秘書官達よりも、もっと…
立場はずっと上だから。準将軍扱い…だから大丈夫、問題無い、問題無い。
「はい…?い…今、なんと…?」
まあまあ、
そんな事より、皆さんお待ちかねでしょうからね、行きますよ、
ついて来てね。
長い廊下は、魔道具の明かりで照らされており、殊の外明るかった。
多くの衛兵と、それ以上の数の、蜘蛛の魔獣がいた。
一番奥にある入り口から、室内に入った。
とても大きな会議室に、
とてもとても、大きな、丸いテーブルが置かれていて、
あ!…
とてもきちんとした正装だったので、直ぐには気付かなかったが…
あの、リースベラ大臣に、バルタ将軍と、アインゴル将軍も、そこに着席されていた。
そこには多くの…恐らく、いや…間違い無く、
この国の重要な役職の方達?が、勢揃いしていた…
ひ、膝が震えるんですけど?
な、ななな…なぜ????…わわわわ私が?




