今日は外周区周辺と大きな農業区画でした
そして次の日。今日も良い天気だ。
私の職場…そこにはまだ名前は無く、仮に、エッタ様の仕事部屋と、私の中では呼んでいる。
そして、今日もお掃除とお茶の用意をして、入口でエッタ様をお待ちする。
はて?噴水の方で何やら騒ぎの様だ。
まだ大臣様到着まで時間は有るよね…こっそり、見に行こうっと。
噴水の前には、人だかりが出来ていて…
驚いた、黒くて大きな魔物が、なんと噴水の水を飲んでいた。
あれ?何でみんな笑ってるんだ?…
あんなに大きくて、危険な魔物が出たのに?
あ?!
…良く見たらあれ…グリフォンだ…
何で、獰猛な魔獣が、こんな街のど真ん中に?
これはいけない、大変だ、
急いですぐに、軍隊を呼ばないと…
え?…ヤダ、騎士長様が脚を噛まれる…て…?って?…
あれ????変だ?
嘘?
…あの魔獣…騎士長にじゃれてるの?なに、何なのよ、猫じゃ有るまいし、一体全体、何なのよ?
あ、騎士長がこっち見てる…
え?来いって?
は?…何言ってんのよ、気は確かなのかしら、いや、馬鹿なの?私に魔獣の相手なんて、出来る訳が無いでしょ?
え?…人垣の全員、こっち見てるけど…
何でこの人達、この大事に、全然慌ててないのよ?
ああ、エッタさん、これは…いや、コイツはね、セン…と、おおっ、
あ?おい判った、判ったから、もう噛むなよ、もう良いだろ?いい加減許せよ、な?
そこに大臣のエッタ様も到着して、この事件の詳細が明かされた。
あのグリフォン、この都市を護ってる大きな門の守護獣で、
名前はセントジョンと言うそうだ。
時々、噴水の水を飲みに来るのだそうで、
だから…皆、全然慌てて無かったんだ。
騎士長には、やっぱり甘えてたそうで、甘噛みだって言ってた。
言ってたけど?…
鎧の脚のとこ…かなり酷い事になってたけど?
グリフォンは、エッタ様には、ご機嫌で頭を擦りつけていた。
その姿はまるで大きな猫の様だった。
満足したのか、グリフォンは勢いよく壁を蹴って上の方に登ったあと、
さっさと飛んでいってしまった…
私はとにかく怖くて、そこから一歩も動けなかった。
後でエッタ様には、いっぱい笑われてしまった…
でもでもだって…
あれは、怖いですよ、魔獣…
しかも、グリフォンなんて生まれて初めて見たんですよ?
しかも、頼りの騎士長が、
押さえつけれてガシガシ噛まれてて…
きっと、食べられちゃうんだって思って…
もう、怖くて怖くて…
まあ…最初は、誰だってそう…なるわよね。フフフフ…
あの子はね、他の子よりも、特に甘えん坊でね。
でも、王様が噛んでいいと言った相手以外は絶対に噛まないから、安心して良いわよ。
ちなみに…兵士や軍人、騎士とかは、王様が悪い事をしてたら噛んで良いって…
騎士長が噛まれてたのはね、
きっと、騎士長のスネに、王様の気を感じたんじゃ無いかな?
多分ね…
お前、主を怒らせたな?って、
まあ…ちょっとお仕置きも兼ねてたんだと思うわ、
ああ見えてね、とってもとってもお利口さんなのよ。
でも…エルドンさんったらもお…
貴方ったら、次から次に、ホント、おかしな…人よね、もう、ウフフフフフフ…
ねえちょっと、酷いですよエッタさん?…
本気で、笑い過ぎですよ…
コホン…まあ、とにかくだ、
アイツらグリフォンが、
この国の、東西南北それぞれの門を護っててな、
北門のセントジョン、
西門のジョンスミスに…
東門のジョンウィックと、
南門の…エルトンジョンだな。
アイツらが居るだけで、門の付近にはどんな魔獣も、ビビって近づけないし、
あれ見たら、敵の人間も含め、そりゃ簡単には、寄っては来れないんだよな。
ただ居るだけでも良いって、
国の防衛に関してはまさに、グリフォン様々、だ…
たまに、噛むけどな…
おいおい、エッタさんったら、また笑ってるのかよ?…
その後、軽くお茶を頂いて、
騎士長と私は、外周区へと向かった。
国の整備が入ったとは言え、その街並みは城内と比べると雑多で、少々煩い印象だ。
多くの国の人種は勿論、獣人に人獣…多くの種族が居て、更には驚いた事に、
先の大戦国だった、アーマやズク族の姿も、チラホラと見かける。
ああ、アイツらか?
アーマもズク族も、ここで揉め事を起こしたら即追放だからな、
ここじゃ大人しいもんだよ。
いや…そもそもだ、
ここの王のお慈悲で、居ても良いって、言われてるご身分だからな、アイツら。
ここは、消火栓は有るが、耳の良い…いや良すぎる獣人らが大勢居るからな、防犯鐘は無いんだよな。
よし、疲れたろ、あの店で、休憩と食事にしようか。
いい匂いだろ?
これはな、牛丼って言って、コイツも真王様のお気に入りでな。
幾つか店舗は有るが、真王様が選ぶ牛丼なら、大体ここだな。
騎士長によると、メニューは1種類だけで、
ここでは自分が食べたい量を頼むのだと。
騎士長は大盛り、私は普通を注文した。
運ばれてきた木の器には、白っぽい穀物が敷かれて、
その上に、肉や野菜…タマネギかな?が、のっかっていた。立ちのぼる湯気とともに、とても良い香りがする。
突如、騎士長が両手のひらを合わせ…
「頂きます」っと、そう言った。
どうされたんですか?私が聞くと、
いや、ホントに近くに真王様がいる気がしてな…
ああ、今の、頂きます…は…
私達が生きて、そして食うって時にはな、
必ず食われる存在ってのが有るって事でな、
その尊い犠牲の上に、私達が生きていけると…
たったひと言で短いんだが、
まあ…飯の前にダラダラは違うしな…
その奪われた命に対しての、奪う側の、
せめてもの感謝の祈りなんだよ。
勿論、これも王様の受け売りで、王の側近は全員、必ず言ってる。
私は食い気に負けて時々忘れちまうが…
そうだ、良いか、
王の前では、これは絶対に絶対に、死んでも忘れんなよ、
即、その場で罰を受けるぞ?良いな…
「はい、必ず…」
では、食おうか。
甘辛なお肉と、柔かくなったタマネギと一緒に、
汁を含んだ、謎の白い穀物を口に運んだ。
「…お美味しい」
ふと正面を見れば、騎士長は凄い勢いで、既に一杯目を完食していて、
早くも、二杯目を注文していた。
この柔らかい白い穀物は、米と言うそうで、
生産量の問題から、
この城の付近でしか流通してないそうだ。
たこ焼きも、相当衝撃的だったが、こちらも相当凄い美味しさだった。
またしても…私がふと気が付いた時には、すっかりと完食していた。
たこ焼きと言い、この牛丼と言い…
本当に恐ろしいわ…私の全ての思考を、こうも簡単に奪われてしまうとは…
そして、一緒に出されたスープは、多少味と具が違ったが、
前に居住区で食べた、あのスープと同じ物だった。これも美味しいわ…
ああ大満足だな。じゃ…そろそろ行くか。
次は…大外の軍の基地だな…
よし、そこらで馬車を拾うぞ…
私達は、側を通りかかった軍の荷馬車に乗って、
その、軍の施設に向かいました。




