表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

砂漠と同じ②

「これは、油……?」

 二三十分、クジラさんを追いかけたか。

 水張りをした田んぼのような場所に油が浮いている。周りの風景が砂漠っぽくもあるし、オアシス(油)との巡り合わせと言ったところか。 

 変な匂いがする気もするが、特段臭くもない。

 しゃがんでみる。

「オアシスじゃないのかよぉ。油田ってやつ?」

 いや、違うな。油田は別に田んぼみたいなやつじゃなかったはず。地層奥底に眠った石油をでっかい機械で取り出すやつだ。

 じゃあ、これは何?

「これは油だまりよ。結構いろんなところに点在しているわ」

 柔らかい声。

「あぁ、そうなんですね。初めて見たなぁ」

 ……?誰ぞ?

 ヒュン。振り返る。

「いない……」

「ごめんなさいね。わたくし、背が低いのよ」

 下を見る。そこにはロリ。小麦肌で黒髪の少女。麗らかな目。この世の崩壊前は野山を駆け回る活発な子だったんだろうか。そんな印象。

 おい、またロリか。

「こんにちは。右腕のないお姉さん」

 吸い込まれそうなくらい美しい黒眼。私を見据え、えぐい呼びかけをしてくる。でも、彼女もまた被害者だ。

「そういう黒髪ちゃんだって右目を失ってるじゃない」

「ふふ。こんな世紀末よ。片目のひとつでもあれば儲けもの。そうでしょ?」

「言い得て妙」

 彼女の左目には、彼女の眼より黒い眼帯。この世界で眼帯なんてよく見つけたものだ。

「黒髪ちゃんはさ、人間? もしそうなら初めて人間に会うんだけど」

「それはさほど重要なこととは言えないわね。人間であった方が都合が良いなら人間と思うべきだわ。化け物が良いならそう思うべき」

「人間と思って人間じゃなかったときが最悪になるじゃん」

「ふふ。そのときはそのときよ。優しい化け物であることを信じるしかない。私だってそうよ。あなたはあたかも自分を人間だと信じているようだけど。こんな世界で生き残っておいて、自分が人間である保証なんてないでしょう」

 言い得て妙。

「なんか高度な屁理屈な気がするけど、頭悪くて矛盾を指摘できないから負けます」

「そうね。懸命だわ」

 ……沈黙。

 この子はなんなんだ。

「あの、なんで私に声をかけて……」

「愚問ね。そこにあなたがいたからよ」

 ぐ、愚問……かなぁ。一刀両断されましたわ。

 ここは質問で場を濁すのが吉か。

「そ、そういえば油だまりって何?」

「その名の通り。わたくしも成り立ちを知ってる訳ではないのだけれど。推測するに、海も一括りにしちゃえば水でしょう? 海水に混ざることなく残った油、はたまた、混ざったあと分離して落ちてきた油、そういうのがあたかもオアシスのように点在しているのだと思うわ」

「その実は心を枯らすオイルですけどね……」

「お上手ね」

「顔面微動だにせず言われましても」

 あらあらふふふと笑ってくれる。顔は笑ってないけど。

「綺麗な油もあるのでしょうけど、工業用の重油とか灯油にガソリン、軽油の類。どれがどんな風に混ざっているか分からないから下手に利用しないことね」

「火の類なんて持ってないから大丈夫」

「あら、ライターもないの? 火は人類の生命線。よく生きのびたことね」

「えへへ。生魚を食べる文化を持ってたもので」

 タコは天使様ライターで炙ったしね。

「ところで。あなたはどうやってここまでたどり着いたのかしら?」

「実は鯨を追いかけてまして」

 そういえばと海を見あげるが、鯨はもういない。

 いつの間にか見失ったか。

「ふーん。鯨を」

 黒髪ちゃんは少し眉を動かす。怪訝そう。

「だからびしょ濡れなのね」

「あっ、そうなんですぅ」

 ジロジロ見られる。いたじゃない鯨。あれだけ大きな影を砂漠に落としてたんだから。

 うう、調子狂う。

「ふふ。嘘をついているようには見えない。あなたもまた、違っているということね。こっち来て」

「……?」

 こっちこっちと手招きされた先には砂漠には似つかわしくない丸太小屋。こんなところあったっけ。

「彼もきっと喜ぶわね」

 彼女がみせた笑みは、透き通るほど無邪気だった。

 キィ……

 小屋の中には大きな暖炉と背もたれの長い腰掛け。誰か座っているようだ。

 ヨーロッパ風というのだろうか。ちょっとだけ小物が多い雑多な部屋。少なくとも、砂漠には似つかわしくない。

「帰ったわよ」

 黒髪ちゃんが声をかける。

「あぁ、早かったね」

 腰掛けからゆっくり立ち上がり、振り向いてくれたのは初老くらいの男性。白人さんかな。碧眼で身長が高い。

「おや、来客とはえらく珍しいね。どうもこんにちは」

「こ、こんにちは。黒髪ちゃんに連れられてきました」

「ん、黒髪ちゃん……? あぁ、はいはい。そーゆことか。ご足労かけたね」

「いえ、別に、こんな世の中ですし。することがあるという方が嘘になるというか」

 優しそうで助かった。黒髪ちゃんの知り合いだから屁理屈こねられるかと思ったけど、いらない心配だったみたいだ。

「あなた、失礼なこと考えたでしょ」

 ここは沈黙にかぎる。

「まぁいいわ。この小屋に来てもらったのは手伝って欲しいことがあるからなの。あなた、手を貸してくれないかしら」

「内容によって考えたいなぁ」

「あら、よかったわ。簡単なことだもの」

 彼をね、殺して欲しいの

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ