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なんにもない《プロローグ》

「あまり長い時間、くもを見続けてはいけないよ」

 あの日の少女はそう言っていた。

 あれからずっと晴れているのに、私には見上げていい空がない。

「今日は、疲れるまで歩こう」

 瓦礫を越える。船を越える。ざっくばらんなゴミのやまやま。いくつかの小峰を制覇し、腰を降ろす。

 さらさらした音が聞こえる。水の音。近いのだろうか。

 まぁ、海や川なんてものは、近づけば遠くなるものだ。あまり興味はない。

 世界が滅んでからどれくらい経ったのか。私は長く感じたが、暦では数ヶ月。

「水曜日か。まいったな、思い出しちゃう」

 日記帳は、消えゆく記憶を残すのに、これ以上ないほど有効で。アナログの良さが最近は身に染みる。

 しかしながら、黒い記憶も残せるというのは良いことばかりではない。

 今は趣味もないし、することもない。生きるのがつまらない毎日。私の存在する価値はなんなのだろうか。

 そんななかで、私はあなたにこの世界について伝えられないか、考えた。

 いつか見たあの本みたいに、遠い未来で私の残した軌跡が誰かに見つかって、フィクションの物語としてでも語り継がれてくれたなら。

 私の、終末旅行記。

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