第45話 宝箱
初めての敵とエンカウントして、大体2分くらい歩いただろうか。
グネグネと折れ曲がった道を道なりにしばらく進むと、分かれ道にぶつかった。
道は、今俺がいるところから真っ直ぐ進むものと、ここで右手に折れるものがある。
「なあ、どっちに進んだら良いと思う?」
視聴者達に聞くと、いくつか返答が返ってきた。
:漢なら前一択
:右にしろ
コメントの意見は綺麗に真っ二つで分かれており、多数決も取れそうに無い。
そんなわけでどうするべきか悩んでいると、一つのコメントが目についた。
:面倒だからコイントスかなんかで決めようぜ
「名案だな」
反射的にボソッと呟くと、その言葉に反応してコメントがきた。
:名案?何が?
:なんか良さげなコメあったか?
俺の言葉に釣られて話の流れが逸れてきたので、話を強引に進める。
「今からコイントスで行先を決める事にした。表が出たら方向を変えずに真っ直ぐ、裏が出たら右に折れるからな。文句はないな?あっても聞かないぞ」
:くっそ強引で草。文句はないけど
:コイントスか。確かに名案だな
:コイン持ってるの?
「コインは魔力で作る。じゃ、やるぞ」
盾を小さくしたイメージでコインを生成し、投げた。
コインをキャッチしたので、手を開けて中を覗くと、裏だった。
:裏か
:右だな
視聴者にも見やすいようコインをカメラに向けて、早速道を右に折れた。
進んでいくと敵に遭遇したが、もうコイツとは戦い慣れているので、危なげなく倒せた。
敵を倒したので先に進もうとすると、そこは行き止まりだった。
「ああ、行き止まりか。見た感じこのダンジョンのコンセプトは迷路だし、仕方ないかな」
そう言って引き返そうとすると、なぜかコメントたちが俺を引き止めようとしてきた。
:気付いて!なにかある!何かありますよ、気付いて!
:宝箱っぽいのがある!
宝箱だと?そんなものがこのダンジョンにあるのだろうか。
怪しがりながら振り返ると、そこには確かに宝箱のような物が鎮座していた。
しかし、見た目が宝箱だと言っても中身が宝箱とは限らない。
ミミックを警戒しながら、ゆっくりと宝箱を開く。
宝箱を開き切ったが、ミミックなどの罠は無かった。
「なんだよ、期待外れじゃん。こっちはこっちで嬉しいけど、空気読んでそこはミミックか罠であってくれよ」
:なんやこいつ
:こんなこと言ってるけど罠出たら悪態ついてるんだろうな
なんか俺の行動を完全に理解してそうなコメントがあったが、無視無視。
ワクワクしながら宝箱の中を覗くと、そこには指輪がポツンと置かれていた。
「指輪?なんだこれ」
:なんか能力あると思うけど見れないの?
:どんな能力なんだろ
コメントに急かされて、指輪を右手の中指に付けてみた。一瞬何か違和感がしたような気がしたが、何も変わったところもないし、ウィンドウも何も出てこない。
ブレスレットと同じような感じかと思ってさわさわしてみたが、何か変わった感じは何も無い。
「なんだこれ、何も無いぞ?ただの飾りなのかな。まあ良いや、つけていて損もないし、そのままにしておくか」
宝箱も、もう何も入っていないので今度こそ引き返そう。




