第29話 夕飯を食べながら
「これ、美味しいねー」
優香さんがそう言うと、沙織がそれに反応した。
「これ、実はお兄ちゃんが作ったんですよー。今日は用事があるって言っていたのに、家を出る前に昼ごはんと夕飯の分を作ってくれたんですよ。」
「褒めるのはやめてくれ。恥ずかしい」
「あ、裕司くん照れてる。かわいー。」
やっぱり苦手だなこの人は。いい人なのは分かっているんだが、こうやっていじってくるところが慣れない。
それに対して、由香さんは、黙々とご飯を食べており、すでにおかわりまでしている。食いしん坊なんだな。
「由香さん達がこっちでご飯を食べるなんて想像もしてませんでしたけど、念を押して多めにご飯を準備しててよかったです。」
「私はあんまり自炊とかしないからさ。こういう料理を食べるのなんて、いつぶりだろう、懐かしいな。」
「優里さん、自炊しないんですね。由香さんはどうですか?」
「へ?」
ずっと黙って食べているのもあれかなと思って由香さんに声をかけてみると、ちょうどご飯を口に運ぼうとしているところで反応した。
「私?自炊は、たまにかな。最近は実家に住んでいるから、もっぱらお母さんが作っているけどね。」
「そうなんですね。うちは、お兄ちゃんの誕生日以外は毎日お兄ちゃんが料理しているから、料理スキルだけは高いんですよ。顔もそれなりにいいと思うし、彼女に立候補したらどうですか?」
「こらっ!由香さん達に変なこと吹き込むんじゃない!お前におせっかい焼かれるほど落ちぶれてなんかいねえよ!」
こいつは、1日に何度兄を揶揄えば気が済むんだ?そろそろ締めても許されるんじゃないだろうか。
しばらくして、夕飯を食べ終わった由香さん達を見送った後、沙織が話しかけてきた。
「いい人達だったね。あの人たちになら、お兄ちゃんを任せてもいいかなって思うんだけど。」
「おまっ」
「でも、どうやって知り合ったのかだけ、教えてくれない?よくわからないけど、あの人たちがただの一般人には思えないの。それに、お兄ちゃんも最近庭で変なことしてるでしょ?それと関係してると思うの。」
やっぱり鋭いな。昔から、こいつの勘はよく当たっていた。そして今回も、的を射ている。
「どうしても、知りたいのか?」
「いいや、少し気になっただけ。強要とかはしないよ。」
「そうか」
ダンジョンのことは、あまり知らせたくない。沙織に話しても、両親に言ったりしないと言う信頼はあるが、別に、配信をしているので、知られるということが嫌なわけではない。
しかし、ダンジョンは怪我をする可能性のある、危険な場所だ。そこに入っているのは俺の自己責任だが、それで家族に心配をかけさせたくない。
「ごめん、言えない。」
「そっか。いいよ。でも、怪我とかはしないでね。一応、私の大切なお兄ちゃんなんだから。」
俺は別にシスコンというわけではないが、つい、ドキッとしてしまった。
「あ、ああ。気をつけるよ。」
そう言って、俺は自分の部屋へ逃げるように行った。




