表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奪う  作者: 夜桜冬希
4/6

4

【住所はこちらです。父と二人暮らしをしています。父はクソ野郎です。もし出会してしまった場合は、ついでに其奴を殺してしまってもいいので、何が何でも私を殺してください。必ず、殺してください。私は自分が死ぬことができれば、後のことはもうどうでもいいんです。だから、どうか、私を殺しに来てください。お願いします】

 覚悟が決まっていると感じるメッセージが届いたのは、彼が仕事中の時だった。

 新たな殺しに選んだ相手は女子高生で、家では父親からの虐待、学校ではいじめを受けていると、聞いてもいないのに身の上話をされていた。学校にも家にも居場所がない女子は、必ず殺してと強い気持ちで死を乞い願うほどに人生に絶望している。それは殺してやらなければならない。父親がいたら父親も殺していい。もしかしたら一度に二人も殺せてしまうかもしれない。カナデの金蔓を殺す前に、一回くらい自殺願望のない人間を殺す練習はしておいた方がいいだろう。棚からぼたもちのような展開だ。

 その複雑で重たい境遇に関心のない彼は、殺すことだけを考えていた。死ぬことができれば後はどうでもいいと女子が言っているように、彼も殺すことができれば後はどうでもいいのだった。相手が虐待を受けていようが、いじめを受けていようが、彼は微塵も同情せず、共感もしない。そのため、身の上話をしても彼には少しも響かず、届かず、無意味であった。

【本当に殺しに来てくれるんですね? ありがとうございます。到着したら勝手に家に入っていいです。玄関の鍵は開けています。もし父も殺す場合は、残酷に殺してください】

 日時を決め、彼はその当日の午後に出発した。玄関の鍵は開けているらしく、着き次第勝手に入っていいようだ。

 ナビに従ってハンドルを操作し続けること数時間。目的地に到着した。家の隣のスペースに車を停め、エンジンを切る。スイッチを切り替えるように手袋を嵌めた彼は、すっかり暗くなっている外へ降り立った。

 前回の自殺志願者は失敗作だった。今回の本命の方はすんなり殺させてほしいものである。そうではない人間がいた場合には少々手がかかってしまいそうだが、殺すことに変わりはない。女子の言葉を借りるのなら、必ず殺す。

 これまでと違って、現場には死にたがってはいない人間がいる可能性があるため、いつも以上に気を引き締めて、緊張感を持って、油断することなく挑む必要があった。分かってはいるが、それでも、一度に二人も殺害できるかもしれないという高揚感が胸を弾ませている。彼の外側は冷静に見えるが、内側は興奮して熱くなっていた。この時間は、彼の人生に潤いを齎してくれるのだ。

 女子の家の窓からは明かりが漏れている。一階も二階も電気が点いているため、女子のみならず父親もいるであろうことがほぼ確定する。

 彼は足元に気をつけながら玄関へと向かい、人気がないことを確認してから扉に手をかけた。そこに躊躇いはなかった。彼はまるで自分の家に帰って来たかのように扉を開ける。引っかかることなく簡単に動いた。

 不法侵入をするのは初めてだが、この家に住んでいる人から許可を得ているのだから、これは不法な侵入にはならないだろう。彼は誰にともなく屁理屈を思い浮かべ、インターフォンも押さず、声掛けもせず、他人の家に足を踏み入れた。

 入った瞬間、臭った。生ゴミのような臭いだった。思わず鼻を押さえてしまいながらも、彼は歩みを進めた。足が何かを蹴った。ガサ、とナイロン袋が擦れるような音がした。玄関は暗い。ここに灯りは届いていない。目を凝らしてみると、玄関付近にはいくつものゴミ袋が溜まっていた。定期的なゴミ出しをしていない家のようだ。臭いの元はこれで間違いない。長時間の運転の元を取りたいが、あまり長居はしたくない家であった。

 殺されるにしても、人を呼ぶのだからもう少し綺麗にしてくれてもいいのではないかと、彼はゴミ袋を避けたり跨いだりしながら思うが、虐待やいじめを受けて人生に絶望している人間がそこまで気を遣えるはずもないだろうか。玄関の鍵を開けてくれていただけありがたいと思うべきかもしれない。

 死にたがっている人間の家が雑然としていることは確かにあったが、ここまで臭いは酷くなかった。長居したくないと思うほどに汚いと感じることもなかった。低レベルの争いだが、失敗作のデブの男の家の方がまだましなくらいである。

 彼は上がり框に足を乗せた。靴を履いたままだったが、構わずに殺しに向かう。まずは一階の明るい場所を目指して廊下を進んだ。すると、二階の方から、何かが壁にぶつかるような鈍い音がした。耳を澄ませる。何を言っているのかはっきりとは聞こえないが、誰かが怒鳴っているような声がする。その隙間に紛れ込むようにして、女の叫んでいるような声もする。二階に親子が揃っているのか。怒鳴り声と叫び声。不穏な気配がぷんぷんだ。

 親子がそこにいるであろうことが分かっても、彼はすぐに二階に行こうとはせずに、そのまま階段前を通り過ぎて電気の点いたリビングへと入った。案の定、もぬけの殻だ。

 部屋は掃除が行き届いておらず、非常に汚かった。玄関に放置されていたゴミ袋の中身をぶちまけたかの如く、様々なゴミが散乱している。息をするのが嫌になるほど臭くてたまらない。

 早く殺して帰ろうと、彼は臭いを我慢して凶器になるものを物色する。彼は殺人鬼ではあるが、殺しに使える道具類は持参したことがなかった。素手でも殺すことは可能で、いざとなったら対象の家にあるものを使えばいい。使い方によっては全てのものが凶器になり得るのだ。

 ただ、恐らく今回は、激しく抵抗するであろう相手がいる。殺傷能力の高い凶器を事前に準備しておくに越したことはない。

 どこの家庭にもあるもので、殺しによく使用されるものは、やはり包丁だ。彼は洗い物が残されている台所で包丁を探し出し引っ掴んだ。どこにでもある普通の包丁である。切れ味がいいかは分からなかったが、使い古されていても切れないことはないはずだ。

 その他、ゴミの中に埋もれてしまっていたカッターとハサミを発見した彼は、念には念を入れ、それらをまとめてズボンのポケットに押し込んだ。

 凶器探しも程々にして、彼は二階で殺されるのを待っている女子の元へ、ようやくその足を進める。

 できるだけ音を立てずに階段を上り、二階の廊下を踏んだ。荒々しい怒号や悲痛な叫び声、人が出す生活音のようなものが部屋の中から響いている。虐待を受けていると聞いていたが、今がその虐待の最中だと言わざるを得ないような声や音だった。

 彼はドアノブを握り、捻った。鍵はかけられていない。包丁を持ち直してから静かに開けると、二人の人間がベッドの上で絡んでいるのが真っ先に目に飛び込んできた。

 全裸で腰を振り咆哮を上げていた男が、何かの気配に気づいたかのように咄嗟に動きを止め、俊敏な動作で出入り口を振り返る。目が合った。彼は眉一つ動かさずに歩き出した。

「……誰だお前。何人ん家に許可もなく入ってきてんだよ」

 何も知らない男からすればごもっともな問いだが、女子の中におっ立てたものを突っ込んでいる状態で言われてしまうとあまりにも間抜けに見えてしまった。情けなくて汚い尻である。その尻を持つ人間は、実の娘を強姦している性犯罪者である。

 彼は父親から逃げられずにいる女子の傍らに立ってその姿を見下ろし、自分の正体を婉曲的に明かした。

「殺しに来ました」

「は? 今何つった?」

「あ、あなたが、そ、そう、なんですか……?」

「ああ? お前がなんかしたのかよ、この汚ねぇブスが」

 弱々しく掠れた声を上げ、彼の言葉に反応を示した女子の顔面を父親が殴る。もう既に数え切れないくらい殴られたのか、女子の顔は赤く腫れ上がっていた。服も全て剥ぎ取られてしまっている。彼を前にしても隠そうともしない。いや、隠したくても隠せないのか。女子の両手は後ろで拘束されているようだった。

 自分と女子の間に割って入ってくる父親は非常に邪魔だった。女子からは殺してもいいと言われている。彼もそのつもりである。先に始末しておかなければ、女子の殺しに集中することができない。

「どんな風に殺されたいか、今から考えておいてください。できるだけ希望を叶えますので」

「おいお前、さっきから何なんだよ。不法侵入で警察……」

 最後まで聞かずに、彼は手にしていた包丁で父親の顔面を切りつけた。父親が女子にしていたように、ぶん殴る要領で線を描いた。

 彼の躊躇のない動きに反応できなかった父親が、自身の顔を触った。手についた血液を見て、え、とそれまでの勢いを失くした情けない声を漏らす。

 彼は再度無言で包丁を振り上げ、間髪を容れずに振り下ろした。今度は咄嗟に防御してみせる父親だったが、包丁は顔面をガードした腕の肉を容赦なく切った。

「おい、待て、待て、お前、俺のこと、殺す気か……?」

 彼の口は動かない。代わりに包丁を振り下ろした。それが答えだった。

 彼の行動を制止しようとする父親の手のひらが切れた。赤い線が浮かび上がる。父親は彼から逃げようと腰を引いた。女子の中に入っていたものが外に出て震えて立ち上がる。最後まではできていなかったようで、父親の下半身は元気溌剌だった。

 彼は距離を取ろうとする父親を繰り返し何度も包丁でぶん殴り、それから、徐にベッドに上がった。股を開かされていた女子はその足を閉じて身を引いている。

 顎を上げ、裸で尻を引き、顔や腕から血を流している父親の弁慶を、彼は無表情のまま蹴った。靴を履いたままであったことが功を奏し、爪先で蹴りを入れられた。父親が悶絶する。反射で脛を押さえようとして身体が丸まったところで、彼は次に鼻柱を狙って爪先を叩き込んだ。父親の顔が天井を仰ぎ、上半身が後ろへ倒れそうになる。両足が緩く開いた。彼はすかさずそこを掻き分け、股間を思い切り踏み潰した。靴を履いていなければやろうとは思わない所業であった。

 父親が声にならない声を上げる。彼に蹴り上げられ傾いだ上半身がベッドの外へ投げ出され、落ちる身体を支え切れずに無様に頭をぶつけた。ベッドにまだ残っていた腰が滑り落ち、床と彼の足に挟まれる。彼はベッドから下り、ぐりぐりと執拗に股間を嬲った。

 父親の顔が歪んだ。局部を踏まれている痛みと快楽が同時に襲いかかっているようだが、元々いきり立っていたそこは快楽を優先してしまったらしい。腰が震え、先端から体液が噴出した。女子の中で果てるつもりだったのだろうが、その欲望はもう叶わない。

 思いがけない絶頂に混乱し、余韻に浸ることさえできなくなっている父親は、鼻血を流しながら身を捩って彼から逃れようとする。彼は股間を踏んでいた足で今度は顔面を潰し、その行動を制した。暴れる父親の両手が彼のズボンを掴む。冷静に身を屈めた彼は、握ったままだった包丁で肉を切る。切る。切る。父親の握力が弱くなる。

 彼はまとわりつく両手を振り払うように足を上げた。父親の顔面が血塗れになっている。靴裏についた血液や精液を裸体に擦り付けるようにして拭うと、その足で腹部を踏んで蹲み込み、汚いその顔を見下ろした。自分が上だとばかりに舐めた態度を取っていたくせに、今は恐怖に震え上がっている醜い顔がそこにあった。歪んでいる顔がそこにあった。

 包丁の刃を立て、頬を平手打ちをするように切り裂く。途中引っかかりを覚えたが、勢いをつけて強引に刃を進めた。口が裂けた。大量の血液が喉に流れ込んでいるのか、父親は呼吸が上手くできていない様子だった。気にしなかった。気にせず、逆手に持ち直した包丁を口内へ突き刺した。上から体重を乗せた。

 手を抜かずに殺しながら、無事に死の間際まで追い込むことができていると彼は能面のような顔つきのまま思う。表情がなかったが、内心では熱く滾るものを抱えており、それは、何かにのめり込んで没入している時のような気持ちいい高揚感に似ていた。

 力んでいた父親の身体から次第に力が抜けていく。踏んでいる腹は凹み、仰向けで何度も吐血し、黒目はぐるぐると回っているように見える。それも数秒後には落ち着き、光を消失した。空いた片手で瞼を開いてみる。瞳孔が散大している。口内に突き立てていた包丁を引き抜いた。先端から鮮血が滴った。

 息絶えた父親を暫し観察していると、ふと背後から視線を感じ、振り返った。一糸纏わぬ姿のままである女子の虚ろな瞳と目が合い、覇気のない声で問われる。

「其奴は……」

「死にました」

「死んだ……。死んだ……。死んだんだ……。ああ、よかった、よかった……。死んでくれて、よかった……」

 女子は頬を濡らした。自分をひたすらに苦しめていた人間から解放された歓喜からか、自分が間違いなく死ねることへの安心からか。その理由は、彼には判別できなかった。

「私がお願いした通りに、酷い方法で殺してくれて、ありがとうございました……。本当に、本当に、ありがとうございました……」

 涙ながらに告げられる。自ら要望を出したとはいえ、実の父親が目の前で殺されたにも拘らず、女子は深い感謝を述べてみせた。彼には想像もつかないほどに壮絶な人生を送ってきたのであろうことが、その言動から窺える。それこそ、死を決意するほどに。

 彼は女子の礼には返事をせずに、ピクリとも動かなくなった父親に再び焦点を合わせた。死にたがりではないということもあり、いつも以上に手荒な真似をしてしまったが、徹底的に殺して殺すことに例外はない。寧ろ、死を尊いものとして認識していない人間こそ、抜かりなく殺しておかなければならない。

 もう少し殺してから、本来の標的である女子を殺す。この家はゴミ屋敷でずっと臭いため、早めに帰宅したい気持ちは依然としてあるが、先を急いでもいいことはない。急がば回れである。

 腹に片足を乗せたまま腰を上げた彼は、何の感慨もなく、まるで無機質な段差を下りるかのように床を踏んだ。広がっている血液は避け、父親の全体図を眺める。ベッドに両足を引っ掛けたような格好悪い姿で、おまけに全裸で死んでいる。実の娘を強姦するような父親には、綺麗な死など必要ない。性犯罪者に対して世間が望んでいることは、死刑または去勢である。

 同じ犯罪者で、とりわけシリアルキラーだと言う他ない彼であっても、強姦は理解できなかった。強姦をするくらいなら殺人をした方が絶対にいい。殺人の方が興奮する。その快楽を知らないのはもったいないと感じる。

 強姦よりも殺人。殺人をすることで快感を覚える。だからこそ、年頃の女子の裸を見ても、彼は少しも熱くならず、興奮もしないのだった。

 生前に娘を襲い、一心不乱に腰を振っていた父親の下半身に目を向けた。すっかり縮こまっている。熱湯をかけられ小さくなったムカデみたいだ。

 彼は膝を折り、血に染まっている包丁の刃を剥き出しの生殖器の根元に押し当てた。スライドさせる。繰り返す。

「あの……、私のこと、殺して、くれるんですよね……?」

「殺しますので、もう少しだけ待っていただけますか」

 殺し終わったはずなのに、別の作業に取りかかる彼を見て不安げな声を漏らす女子に、彼は顔も見ずに平坦な調子で告げた。いつもはその時を待つ側だが、今は待たせている側である。父親が絡むような真似をしていなければ、女子は無駄でしかない長話をせずに秒で殺させてくれたかもしれない。殺しに来ました。今すぐ殺してください。はい殺しました。終了。

 彼は無言で手を動かし続け、女子は無言で待ち続けた。異様な時間が流れている。普通であればパニックになっていてもおかしくない状況だが、自分の死と父親の死を切望したのは女子本人である。混乱して騒いだり逃げたりせずじっとしていることからも、揺るぎない覚悟が垣間見えた。

 絶望は、人を死へと導く。あと一歩踏み出せずにいる死にたがりの背中を、彼は迷いなく押している。本人のために、というよりも、彼自身が快楽を得るために。

 死体を甚振る彼は、父親の陰部を半ば引きちぎるようにして切断した。手袋越しであっても他人のものを触るのは不愉快だったが、致し方ない。しっかり殺しておかなければ気が済まないのだ。

 切り離したものを、彼は父親の血塗れの口内に無理やり押し込んで片付けた。口が裂けていることもあり、収まり切らない分はそこから少し飛び出しているが、自分のものを頬張って食べているように見えなくもない。滑稽である。自業自得である。

「お待たせしました。どんな風に殺されたいか、考えましたか」

 足元の死体に瞬く間に興味を失くした彼は、女子を振り返りようやく本題に入った。女子は暫し黙り込み、それから、決意を固めた様子で彼を見上げた。

「ずっと苦しんできました。学校でも、家でも。だから、死ぬ時くらい、苦しまずに死にたいです」

「分かりました。後悔はないですか」

「あるわけないです。あったら裸であることを全力で恥じています。サディスティックに人を殺すあなたを前にして怯えています」

 望んでいた死が近くなったことで高揚しているのか、変なところで自信を持って発言してみせる女子は、珍しいタイプの自殺志願者なのではないかと彼は思った。

 即座に断言するほどに強い意思を感じる返事を聞いた彼は、即答するためにベッドに上がり、死を待ち望む女子に歩み寄る。苦しませずに殺す。難しそうだが、急所を狙えば問題ないだろうか。

 女子の前に片膝をつく。頭か首か心臓か。どこでもいいだろうが、全部を順に傷つければ確実に殺せるはずだ。彼は包丁を握り直した。

「あ、ちょ、ちょっと、待ってください」

 さっさと手にかけてしまおうとしたところで、何かを思い出したかのように止められる。まだ何かあるのかと彼は無言で女子の顔を見つめた。女子は不快な汚物を見た時のような表情を浮かべて唇を開いた。

「その包丁、彼奴の体液とか、付いてますよね……? 違うのにできませんか……?」

 殺す寸前で新たな要望を追加され、彼は殺戮の証となっている包丁に目を向けた。確かに、既に死んだ父親の血液だったり精液だったり唾液だったりが付着している。最後には股間まで切り落としている。目の前の女子が嫌悪するのも無理はない。

「構いませんが、他に拾ってきた凶器では頼りないと思います」

 文句を言わずに包丁を投げ捨てた彼は、ズボンのポケットを弄る。ゴミ屋敷から発見し、念のためにと拾っていたカッターとハサミを取り出して見せた。女子はそれらを見るや否や、それでいいです、あの包丁じゃなければ何でもいいです、と凶器に使用するには少々頼りないように思える文房具で殺されることを即決する。

 これは彼の力量が試されていた。包丁よりも攻撃力は低いだろう文房具で、苦しませることなく死に至らしめなければならない。それが今回の標的の希望である。

 カッターもハサミも、上手く使えばどちらも刺すことはできるだろうが、同時にどちらも何かを切る用途の道具である。本来の使い方を利用して殺す方が、一番殺傷能力が高いだろうか。

 手始めに彼はカッターの刃を出した。女子が尖った先端を見てごくりと唾を飲む。自信を持っていても多少の緊張はしているのか、はたまた期待に胸が高鳴っているのか。どちらであっても関係はない。彼がすることは何が何でも殺すことだけである。

 出した刃を、大人しくしている女子の首の横且つ顎の下辺りに押し当てた。皮膚を破り、血液が顔を出す。女子は若干顔を歪ませながらも、決して揺らがないその意思は固かった。

「最期に見る人の顔が、クソみたいな男でもなければクソみたいな連中でもない、あなたみたいなかっこいい人でよかったです」

「そうですか」

 淡々と答えながら、彼は勢いよく首を切った。鮮血が噴き出し、女子の身体を赤く染めていく。

 頸動脈を狙ったが、一発で上手く仕留められるとは思えなかったため、彼は二発三発と同じ箇所を殺傷した。血液がとめどなく溢れ、力を失くした女子が頭から倒れ込んでくる。彼は支えようともせず咄嗟に避けた。後ろで両手を拘束されたまま、土下座をするように頭を垂れている女子を無感情に見下ろした。次いで無傷な反対側の首に刃を入れた。分厚い紙をカッターで根気強く切断するように、何度も何度も何度も。繰り返し、何度も何度も何度も。

 彼の瞳孔は開いていた。首を切って殺すことに夢中になっていた。女子はもう既に絶命している。それでも徹底的に殺すことに拘る彼は、未だ手を止めない。

 カッターの刃が入りにくくなった。切るというよりも削るような感覚に近くなっている。これはもう使い物にならないだろう。何回か刃も折れていた。欠片は切った首の内側に埋もれている。

 彼はカッターを手放し、ハサミに持ち替えた。まだ繋がっている首の外側、喉の辺りの皮膚を少しずつ切っていくが、カッターと比べるとなかなか上手くいかず、やりにくい。暫し悪戦苦闘していたが、早々に諦め、代わりに女子の髪の毛を切って気分を入れ替えた。パラパラと毛を落としてから、何とはなしにハサミを首に突き刺してみる。何度目かの晴れやかな気持ちが彼の胸を満たした。

 気持ちがいい。人を殺すのは、気持ちがいい。死体を甚振ることすら、気持ちがいい。

 二人の人間を好きなだけ殺しまくった後は、一階にある洗面所で返り血の確認をした。顔面が血で汚れているが、服は黒で統一しているおかげか、そこに飛び散っているであろう血液はそれほど目立ってはいない。ひとまず顔に付着している血を洗い落とそうと、水を出してから手袋を外した。裸の手で物を触らないように細心の注意を払いながら顔を拭い、濡れていても構わずに手袋を嵌め直してから水を止める。鏡を見て返り血がしっかり落とせていることを確かめた彼は、いつもはしている腹拵えをする気にもなれないほどに汚れ切っているゴミ屋敷を後にしたのだった。


 ◇


「聞いてくださいよ先輩。俺ついに、彼女ができちゃったんすよ」

 客がいない店内で、二人して番人のようにレジにいる中、後輩がグッと距離を縮めて興奮気味に話しかけてきた。既に日付は変わっている。

 彼は深夜テンションに入りつつあるような後輩を一瞥し、そうですか、と素っ気ない返事をして秒で口を閉じた。彼のリアクションが冷たいことにはすっかり慣れてしまったのか、後輩は気分を害すこともなく嬉々として続けた。

「そうなんすよ。やばくないっすか?」

 何がどうやばいのか分からないが、後輩の中では彼女ができたことはやばいことらしいため、彼は顔も見ずに適当にやばいと共感し、雑に遇った。

「やばいですね」

「やばいんすよ本当に。毎日幸せすぎっす」

「それはやばいですね」

 やばいやばい、それはやばい。彼女できたのやばい。やばすぎる。めちゃくちゃやばい。後輩の語彙に合わせてしまうと、途端に馬鹿っぽく思えてしまった。

「ちょっと先輩、流石に返事が適当すぎじゃないっすか? でもなんすかね、それでこそ先輩っすよね。氷のようにクールな先輩にオーバーリアクションされる方が調子狂っちゃいますし、何より気持ち悪いっす」

 気持ち悪い。後輩もなかなか言うようになってきたが、確かに反応が大袈裟な自分を想像すると気持ち悪すぎた。しかし逆に考えれば、その気持ち悪いと思われる行動を取れば、後輩は自ら自分を避けるようになってくれるのだろうか。

 強盗事件に巻き込まれてしまった日から、後輩には変に懐かれてしまっていた。どれほど雑に扱っても全く手応えがない。寧ろ雑なその対応をいじられているような気さえする。何を言われても何も言わないことが逆効果になっているのか。喜怒哀楽を見せないことで、無表情で無感情の怖い人というよりも、好き放題発言しても怒らない人だと思われているのかもしれない。とどのつまり、舐められているのだ。自分は年下に舐められてしまうタイプのようだが、言い換えれば、それだけ人畜無害であり、隠したいことを隠せているということだ。怪しい人間に積極的に近づこうとする物好きな人などそうそういるものではない。後輩の対応をするのは面倒ではあるが、変に思われていないのならこのままにしておく方が得策か。

 彼は頭を働かせる。真顔のまま、この後輩への今後の対応を思案したが、下手に態度を一変させるよりも現状をキープした方がいいという結論に至った。他人にマークされない、誰の記憶にも残らない、影の薄い人間であり続けることが重要だ。今はコンビニ店員の皮を被っているのだから、コンビニ店員でなければならない。それに後輩に舐められている先輩という設定が追加される。彼は非常にしがないコンビニ店員なのだ。

「それで先輩、どうっすか? 俺の彼女見たくないっすか?」

 うずうず、うずうず。顔面からも態度からも、見せたくて見せたくてたまらないといった感情が迸っていた。いつ何時も面倒臭い男である。

「別に見なくていいです」

「そうっすよね。先輩だったら絶対そう言うと思ったんで、もうこっちから見せるっすね」

 何が何でも彼女を見せるつもりだったようで、後輩はポケットからスマホを取り出してさらさらと操作し始めた。

 勤務中にスマホを触るのは好ましくないが、注意できる立場にはいないため、彼は黙って目を瞑ることにした。彼女を見るまできっとこの話は終わらない。しつこい男は嫌われると思うが、それについてはどういう考えでいるのだろう。

「この子っす。俺の彼女」

 目と鼻の先に画面を突きつけられた。近すぎて視界がぼやけ、彼女とやらがどういった風貌なのか全くもって分からない。

 これだけ近くで見せられると、いくら見てもほとんど何も認識できず、いつまで経っても輪郭すらはっきりしなかった。此奴は多分想像力が足りないのだろうと、彼は視界の半分以上を占めているスマホを見るともなく見ながら冷静に思う。

 言動から何から、見てほしい気持ちが溢れすぎている。その熱量に後輩の彼女は覆い隠されている。こちらがわざわざその霧を掻き分けなければならないのか。面倒だ。そんなことをするつもりはない。後輩の彼女に興味はない。

「この人が彼女なんですね」

 よく見えてもいない中、彼は当たり障りのないリアクションをして流した。興奮して熱くなっているからか距離感が馬鹿になっている後輩は、そうなんすよ、やばいっすよね、と素直に彼の返事を受け止め、スマホの画面を改めて確認する。彼女を見つめて愛おしそうに顔を綻ばせた。

 満足してくれたようだ。後輩は彼女の姿を見せた気になっているようだが、彼の方は、確かに見せられたは見せられたものの、言うまでもなくちゃんと見られてはいないのだった。見ようともしていなかったのだった。よって、後輩の彼女がどんな容姿をしているのか、情報はほぼ皆無である。そのような内容の話題になってしまうと何かと問題があるが、適当に返事をしても、そもそも返事をしなくても、それでこそ先輩っすよね、という後輩自らが編み出してくれた魔法のような言葉がある。それでこそ後輩の先輩なのである。

「そうだ、今度先輩に、さっき見せた彼女のことを紹介してもいいっすか?」

「しなくていいです」

 食い気味に即答する。スマホをポケットにしまった後輩が、妙案を思いついたとばかりに手を打ったが、彼は一秒たりとも考えずにその案を清々しいほど即座に切り捨てたのだった。

「そんなこと言わないでくださいよ。俺たちの仲じゃないっすか」

「そんな仲になった覚えはありませんが」

「そりゃないっすよ先輩」

 そりゃないのは後輩である。後輩の彼女を紹介されるような親密な関係になった覚えはない。

 後輩からは未だ懲りずに連絡先を聞かれることがあるが、ずっと断り続けていた。彼は自分に繋がる手段となり得るものを死守し続けているのだ。心を開かれていないと思うのが普通ではないのか。

 どんなに冷たく遇っても人懐っこい犬のように尻尾を振って駆け寄ってくる後輩は、いくらなんでもポジティブがすぎる。疲れてしまう。

「俺はどうしても先輩に彼女を紹介したいんで、そのうち連れて来るっす。先輩の都合とかも知りたいんで、連絡先を教えてくれないっすか?」

「教えません」

「マジっすか? まだ教えてくれないんすか? いつになったら教えてくれるんすか?」

「教える気はありません」

「そんなぁ、マジ辛いっすよ先輩」

 不覚にも、それは二人の中で定番のやりとりになっていた。連絡先を聞かれても断るのが当たり前で、連絡先を聞いても断られるのが当たり前。

 後輩は百発百中でぶった斬られているのに、しぶとく足を掴んでくる。いつになったら諦めてくれるのか。最早こちらが、諦めてくれることを諦めかけているところまで来ていた。それでも折れるつもりはない。連絡先は絶対に教えない。一瞬の気の迷いが命取りとなるのだ。押しに負けて教えたら後悔する。一度でも使用したら人生が狂う薬物と同じである。

「とにかく何が何でも紹介しますんで、楽しみにしていてほしいっす。画像で見るより実物の方がそれはもう超可愛いんで。先輩のことだから大丈夫だって信じてますけど、絶対に惚れたらダメっすよ。マジで」

 惚気る後輩の話に耳を傾けることもなく聞き流していると、久々に客が来店した。切り替えの早い後輩が、いらっしゃいませ、と我先に発するが、その言葉尻が不自然に萎む。彼はそもそも口を開けなかった。そうなるのも無理はない。来店してきた若い女性客はなぜか顔面蒼白で、息は酷く切れており、恐怖に怯えた様子でしきりに背後を気にしていたのだ。明らかに様子がおかしかった。

 女性客はレジにいる男二人を認めると、あの、あの、と必死に何かを伝えようと声を上げた。しかし、パニックに陥っているのか全く要領を得ない。女性を見るにただならぬ雰囲気であることは確かだが、それくらいしかまだこちらには情報がなく、何を訴えているのか彼にも後輩にも分からなかった。

「ど、どうしたんすか? え、え、な、何事? 何事っすかこれ」

「あの、あの、あれ、あれが、あの、あれ、あの、お、おとこが、あの」

「あれ? おとこ? お、おとこって、男? ど、どういうことっすか?」

「ど、どういうこと、どういうこと、え、えと、あの、お、おとこが、おとこが」

「ちょっと落ち着いてくれませんか。そっちは一緒にパニックになってどうするんですか」

 混乱している女性に引っ張られ後輩まで動揺していた。これでは何も分からない。話も進まない。パニックになっている人間にパニックで返したところで逆効果である。

 強盗事件然り、また何かよくない事象に巻き込まれてしまいそうな気配を彼は密かに感じていた。どう見ても客として来たわけではなさそうな女性の相手をするのは気が進まないが、この場合、コンビニ店員か否かは関係なく、普通の人間だったら無視はしないだろう。一般社会に溶け込むために、彼は冷静な口調で女性の上がった心拍数をゆっくり下げさせた。

「説明は後でいいです。まず何をしてほしいのか、結論を先に言ってください」

 目が泳いでいる女性を見つめ、簡単な質問を投げかける。錯乱している人間に何があったのかを聞いたところで、しっかりした返答が為されるとは思えない。説明をさせるのは、諸々が落ち着いた後でも遅くはないだろう。

 女性は出入り口をちらちらと気にしながらも、彼の質問に答えようと、意識して息を吸って、吐いた。

「あ、あの、えと、その、た、たすけて、あ、そ、そう、そうです。あの、たすけてください。ぜ、ぜんらのおとこに、あ、あの、お、おいかけられて」

 女性が言ってすぐ新たな客が来店し、三人は出入り口に顔を向けた。その瞬間、女性が悲鳴を上げ半狂乱に陥り、あろうことかレジカウンターを乗り越えようと身を乗り出してきた。入って来た全裸の人間を見た後では無闇に追い返すこともできない。女性はそのままレジ内に転がり込み、近くにいた彼を盾にしてガタガタと震えた。

「おい女、何逃げてんだよ。俺の身体をもっと見ろって言ってんだろ。ほら、ちゃんと見ろ」

「ちょ、先輩、超やばい奴来たんすけどどうすんすかこれ、やばいっすよ超やばい」

「あ、あの男に、し、しつこく、あの、追いかけられて、た、たすけて、たすけてください」

「お前が逃げるからだろうが。お前のせいで俺の足裏は傷だらけだ。ほら、見てみろ」

「やばい、やばい、めちゃくちゃやばい奴じゃないっすか。こんなやばい奴俺初めて見たっすよ」

 突っ込みどころが多すぎる。何から処理していけばいいのか分からなくなってしまいそうなほどにカオスな状況だった。

 しかしながら、どこからどう見ても不審者でしかない、布切れ一つ身につけていない男を追い出して捉えつつ警察に通報することが何よりも先であることは間違いない。強盗の時と同様、この件についても店長に報告する必要もあるだろう。

 店長に伝えるのはともかく、また警察沙汰になってしまうのかと溜息が漏れそうになる。裏で人を殺している以上、自分が加害者ではなくとも警察と接触することは避けたいのに、公共の場を全裸でうろつき回り、おまけに女性を追いかけ回すようなとち狂った変態男のせいで避けたくても避けられなかった。

 直近で殺したあの性犯罪者の父親のものを片したように、恥ずかしげもなく披露してくれている大事なものを踏み潰してぶった斬って食わせてやりたくなったが、普通のコンビニ店員はそんな暴力的なことはしない。

 彼は全裸の男にも、自分を盾にする女性にも動じることなく口を開いた。

「やばいやばい言ってないで警察に通報してくれるとありがたいんですが」

「え、俺っすか?」

「やばいやばい言ってるのは一人しかいませんよ」

「警察だと? 俺は何も悪いことしてねぇだろ」

「自分が全裸なこと忘れてるんですか。そんな姿で反論されても説得力なんて皆無ですよ」

 異常事態であるはずなのに、どことなく緊張感の感じられない異常事態だった。全裸の男が攻撃的ではないからだろうか。

 彼もなぜ自分が、男たちのボケとも言えないようなボケに突っ込んでいるのか分からなくなりかけていた。見るに堪えないコントでも始まっているのか。

「男の店員と話しても仕方がねぇ。俺はそこの女に、俺のこの身体を見てほしいだけなんだよ」

 どこも隠そうともせず胸を張る男はレスポンスの早い彼と口論をしても勝ち目がないと踏んだのか、彼の後ろを隠れ場所にしている女性に目をつけた。

 再度目をつけられた女性は短い悲鳴を上げる。目の前の全裸の人間と同性である彼と後輩はともかく、性別の異なる女性、それも狙われている女性からすればこの状況は正真正銘の異常事態に他ならない。底知れない恐怖を感じているからだろうが、見ず知らずのコンビニ店員に縋りついてしまうほどに。

「あ、すみません。あの、コンビニに、全裸の男が来店してきて、すぐ来てほしいんですけど」

「あ、おい、何通報してんだ」

「はい、はい、暴れ回ってる、とかではなく、あ、でも、コンビニに逃げ込んできた女性をずっと追いかけ回してたみたいで。はい、今も、ちょっと、女性が狙われてるんです」

「狙ってねぇ。俺はただ見てほしいだけだって言ってんだろ」

「女性と全裸の男の間には先輩、いや、先輩じゃ分からないですよね。あの、もう一人の店員が入ってくれていて。はい、はい、あ、来てくれるんですか? ありがとうございます。はい、はい、俺の名前ですね。俺の名前は」

 強盗の件で彼が通報した時と同じように、後輩も名前や連絡先などの個人情報を聞かれていた。たじろぐことなく答えてみせる後輩には何も後ろめたいことなどないのだろう。

 男の訴えには全く耳を傾けなかった後輩が子機を置く。その態度から、後輩は全裸の男を、嫌な気分にさせない程度に揶揄してもよさそうなタイプの人間だと判断したことが窺えた。確かにこの全裸の人間は、犯罪者の中でも多くの人に愚弄され軽蔑されそうな雑魚のように思えなくもない。全裸を晒して興奮するような露出狂の変態雑魚男。

「クソが。通報しやがって。おい女、お前が俺の身体を見ずに逃げ回ったせいだからな。覚えておけよ」

「あ、なんすか、逃げる気っすか。絶対逃さないっすよ」

 捨て台詞を吐き、今更逃走を図る全裸の男を、咄嗟にレジを飛び出した後輩が追いかける。扉が激しく開閉され、異常な男と正常な男二人が外を疾走した。後輩の印象が強盗に殴られた時と偉く違うのは、自分にとってとても大事な人で、守るべき人ができたからだろうか。

 後ろで震えながら息を詰める女性を見遣る。この女性を自分の彼女と重ね合わせたのだとしたら、後輩の中に突如として芽生えた闘志にもそれとなく納得がいった。恋は人を変える。絶対に逃すわけがない。

 全裸男は後輩に任せ、彼はひとまず女性を椅子に座らせた。問題の人間がいなくなり、多少は落ち着きを取り戻したようだが、それでもまだ震えているように見えなくもない。

「もうすぐ警察が来ます」

 抑揚なく告げた後、彼は外に目を向けた。薄らとだが、後輩が男をとっ捕まえて羽交い締めにしている様子が見えた。相手は全裸で裸足である。コンクリートの上を走ると痛みが伴うはずだ。思うようにスピードを出せるとは思えない上に、おっさんと呼べそうな見た目でもあった。決して若くはない。そんな人間が、まだ二十代の若い男、当然ながら全裸でも裸足でもない男から逃げ切れるはずがなかった。

「あ、あの」

 怯えていた女性に声をかけられた彼は、外で一悶着している男二人から目を逸らして首を動かした。女性は何か言いたそうに唇を開いたり閉じたりしている。

 なぜ自分がこんな目に遭ったのか、といった心底どうでもいい身の上話でも始めるつもりだろうか。長話は嫌いである。女性に関するなぜも、あの全裸の男に関するなぜも、彼にはこれっぽっちも興味がない。死を求める人間が、なぜそれを切望するようになったのかに関心を示さないように。だからこそ彼は、女性に何も聞かなかったのだ。

 女性は椅子からゆっくりと立ち上がった。これから言うことは、立って言うべきこと。それが最低限の礼儀だとでも言わんばかりに。

 どうやら、彼の懸念は杞憂だったらしい。身の上話する雰囲気ではなさそうだ。彼は真顔で女性を眺めた。

「め、迷惑かけて、すみませんでした。た、助けて、くださって、あ、ありがとう、ございました」

 腰を折って深く頭を下げられる。人の旋毛を、上から見下ろすような角度で見るのは二回目である。

 遠くの方でパトカーのサイレンが聞こえ始めた。彼は女性には何も言わずその場を移動し、後輩が警察に通報する際に使用した子機に手を伸ばす。もうじき警察が現着する。外で必死に裸の男を押さえ込んでいる後輩にも加勢が入るだろう。自分が男二人や女性から目を離して別のことをしても問題ないはずだ。

 強盗犯に全裸男。彼自身は連続殺人鬼。ここは意外と治安が悪いようだ。自分が犯罪者であるがために、自分と同じ犯罪者たちが自然と引き寄せられてしまうのだろうか。

 そんなスピリチュアルにも似た馬鹿げたことを思いながら、彼は深夜であっても構うことなく、自宅で休んでいるであろう店長に電話をかけた。


 ◇


 恋は人を変えるというのは、あながち間違いでもないのかもしれない。

 手を組んでいるカナデから近況報告された際、カナデは内気な彼女について少しばかり言及していた。彼女は前と比べて確実に明るくなっているようだ。他の人の前では大人しくなってしまうようだが、付き合っているカナデの前では笑うようになってくれたらしい。カナデに心を開いている証拠だと言っていいのではないか。信用してくれているのに最後に裏切るのはなかなか辛いものがありますね、などと心にもないであろうことを宣っていたが、とにかく、順調に進んでいるのなら何でも良かった。こちらもしっかりと冷却期間を置いた後にまた誰かを殺す時には、毎度のことながら、へまをしないように気をつけなければならない。

 二回目の警察沙汰になってから二週間が過ぎていた。その間はこれといって何事もなく平穏に仕事ができている。事件のことをどこかで知って、強盗の時と同じく心配してくれた客もいたようだ。夜は特に治安の悪いコンビニになりかけているが、全く客が来なくなった、ということはなかった。

 別の案件で二回も同じ場所で通報があることは、珍しいことなのか意外とよくあることなのか分からないが、事件が起きた当時、駆けつけた警察官は嫌な顔せずに変質者の対応をしてくれた。全裸の男は現行犯逮捕され、被害に遭った女性は事情聴取も兼ねて保護された。前回同様、彼と後輩にも警察は聴取をしたが、起きたことを正直に話しておけば怪しまれることはなかった。

 彼にとって最大の敵とも言える警察と二回も関わることになるとは思わなかったが、そのどちらも加害者ではないことが不幸中の幸いだった。被害者であり当事者なだけであるため、特にマークはされていないだろう。変わらず普通にしていればいい。

 どんな事件に巻き込まれようとも、日常は淡々と続いていく。今夜もまた、仕事である。シフトは店長と被っていた。後輩は休日で、彼女とデートするんすよ、と聞いてもいないのに予定を打ち明けてくれていた。つまり、そういうことのようだ。

 彼は店長と共に商品の整理や店内の清掃をしながら、時々訪れる客を手際よく捌き続けた。今のところ、イレギュラーは起きていない。このまま静かに仕事を終えたいが、強盗犯も全裸男も、何の前触れもなく突然現れた。後者についてはパニックに陥っていた女性が先ではあったが、その女性が来ることに関しても前兆は感じられなかった。警察を呼ばなければならないような危険人物の来店はお断りしたいものである。

 問題を引き起こすような人間は来ませんようにと願いながら作業をしていると、日付が変わって何人目かの客が来店した。顔を上げる。最初に目に飛び込んできたのは、腕や首元に彫られた刺青だった。ファッションなのかヤクザ関係者なのか、いずれにせよ、あまり近づきたくないタイプの人間だ。それでも客は客である。形だけの歓迎をしておいた。

 刺青の男は何かを探すように店内を一周し、彼と店長の姿を認めるなり舌を打った。何が気に入らないのか知らないが、失礼な男でしかない。

「おい、ここには女の店員はいねぇのかよ」

 高圧的に話しかけられた。店員を舐めていると一瞬で分かる口調だった。こういう客は嫌いだ。その太い首を絞めてやりたい衝動に駆られたが、ここで冷静さを失ってしまえば負けである。碌でもなさそうな人間を殺すこと自体は問題ないが、予定にないアドリブの殺人はしない主義である。何より今は、しがないコンビニ店員だ。

「今の時間、女性店員はおりません」

「ふざけやがって。男なんか見ても何も興奮しねぇし盛り上がんねぇだろうが」

「申し訳ありませんが、女性店員を一目見ることが目的でしたらお引き取り願えますか」

「お前客に向かって何て口聞いてんだ? こっちはわざわざ足を運んでやったんだぞ」

「それにつきましては感謝しております。何か商品をお探しでしたらご案内致しますが、お客様も当然ご存知の通り、残念ながら女性店員は商品ではございませんのでご案内することができません。それを踏まえた上でお尋ね致しますが、店内にあるもので何をお探しでしょうか」

 毅然とした態度を崩すことなく突っぱね、反社の可能性も捨てきれない刺青の男の目を見て強気に対応する。もし裏社会の人間だとしても、すぐ感情的になるような人間の階級は下の方だろう。チンピラである。上へ行くほど余裕や貫禄があるものだと彼は思っていた。この男からは何も感じない。刺青は自分を強く見せるためのただの装飾だろうか。苛立っている男を見るに、そんなような気がしてきた。こんな男がヤクザであるなど、その道で食っている本業の人たちが好い顔をしないのではないか。店員を前に自分が上だと無駄に威張っている刺青男は、ヤクザの下っ端ですらないただの可哀想な落ちこぼれか。

 男は不満を隠しもせずに舌を鳴らす。何も言い返してこない。返す言葉が見つからないのか。熱くなって我を失わないよう、男なりに必死に我慢しているのか。どちらであってもどうでもいい。とにかく早く帰ってほしいものである。ここでまた何か問題を起こされてしまっては堪ったものではない。余計なことで警察沙汰になるのはもう勘弁してほしかった。

「舐めやがって。気味の悪いクソ店員が」

 内に秘めることもなく罵声を浴びせた刺青男が、腹立たしげに彼を睥睨して出て行った。勝手に来店して勝手に不機嫌になって出て行ったのだ。

「ありがとうございました」

 男の背中を見ながら、暴言を飛ばされても傷つかない鋼のメンタルを持っている彼はコンビニ店員としての言葉を発する。脳内では徹底的に絞め殺しておいた。

 舐めてんのはお前だろ刺青野郎が。ごちゃごちゃ言ってないでAVでも見て吠えてろよ。

 外面と内面で、実際に人に中指を突き立てられるかられないかほどの差がある彼は、冷静沈着な分厚い仮面に依然として一切の罅を入れることなく仕事を再開した。

「大丈夫だった?」

 息を潜め、出るタイミングを窺っていたのだろう店長が彼に歩み寄り、心配そうに眉尻を下げて彼を見上げた。

「大丈夫です」

 彼は冷静に答える。刺青の男は、上司である店長に助けを求めるようなレベルのクレーマーですらなかった。ヤクザにもなりきれなければ上司を呼び寄せるほどの悪質なクレーマーにもなりきれない。中途半端な人間である。しかしながら、勝手にイライラしながらも事を大きくはせずに背中を見せてくれたことはありがたいことだった。

「間に入ってあげた方がいいかなと思ったんだけど、あんな刺青入ってる人に威圧的に来られてもいつも通り冷静だし、寧ろ僕の方がちょっと動揺してたから思わず任せちゃったよ。ごめんね」

 店長は申し訳なさそうな表情を浮かべた。その表情の片隅では、疲労を感じているようにも、逆に一安心しているようにも見える。店長の本音が垣間見えるようだった。

 動揺していたと言っているが、正直なところ、また警察を呼ぶ羽目になるかもしれないと気を揉んでいたのではないか。責任者である店長の心労は、何の肩書きもない彼には想像もできないことであった。現場にはいなかったはずの店長が一番、巻き込み事故を食らっているような気がしないでもない。

 それでも、店長の穏やかさは変わらない。全裸男のことで報告をした時も、被害者の女性含めまずは身の安全が確保できているかの確認をしてくれた。後輩が逃げようとした全裸男を捕らえて羽交い締めにしていることを伝えた時には、どうしてわざわざ追いかけるような危険な真似をしたのかと彼が叱責されてしまったが、最終的には現場へと駆けつけてくれたのだった。事が落ち着いてから、逃走を図った全裸男を取り押さえた張本人に店長が、危険な行動は取るなと注意したことは言うまでもないが、最後には労いの言葉をかけてあげていた。後輩の起こした行動を完全否定することはしていなかったのだ。人の気持ちをよく考えている店長は、電話口で声を荒げてしまったことを彼に謝るくらいには誠実で繊細な人であった。

 基本的にはのんびりとしているものの、いざという時はてきぱきと指示を出して動いてくれる。見かけによらず意外とリーダーシップが取れるところが、この店長が店長になれた所以だろうか。

「特に問題を起こさずに帰ってくれて良かったです」

「それはそうだね」

 店長が頷く。彼は刺青の男に気味悪がられてしまった調子のまま、止まっていた手を再度動かした。

 自分のことを気味の悪いクソ店員だと思っている人は、刺青の男以外にもいるのかもしれないと彼は思う。それでも気にすることはなかった。誰も彼もに好かれるなど無理な話である。寧ろ、人間的に好きか嫌いか分かれる方が、普通の人間っぽいのではないか。

 自分は普通になれている。普通に溶け込めている。周りの反応がそうしてくれている。その他大勢の一人になれている。どこにでもいる普通の人間としてこの場にいられている。

 男の言う気味の悪いクソ店員であっても、彼は淡々と仕事を続けた。その様子を見た店長も、別の売場で仕事の続きを始める。他の店員と比べてメンタルの強い彼にケアを施す必要はほとんどないのだった。

 刺青の男を捌いてから数十分が経った頃、扉が開閉されて新たな客が来店したかと思えば、やけに声量のある声に呼びかけられた。耳が勝手に覚えてしまった声だった。

「こんばんは、先輩。来ちゃったっす」

 言わずと知れた後輩である。彼は無言で顔を向けた。こちらへ駆け寄りながらにこにこと笑みを浮かべている後輩と、駆ける後輩の後を追っている金髪の女の姿が目に入った。後輩はオフの日で、彼女とデートをすると言っていたはずだ。つまりこの金髪の女が、後輩曰く超可愛い彼女なのだろうか。画像を見せられた時は近すぎてよく分からなかったため、後輩の彼女の姿は把握できていなかった。初見と言っても過言ではない。

「先輩に彼女紹介するって言ったんで、連れてきたんすよ。先輩に会うにはこの時間のこのコンビニしかないんで、先輩の仕事中になっちゃったんすけど」

 ノーリアクションでこちらが何も聞いていなくても勝手に語り始めるのが後輩であり、彼女など紹介しなくていいと言っても紹介してくるのがまた後輩である。

 求めてはいない彼女の紹介であったとしても、流石に何か口にしなければならないかと彼は金髪の女をじろじろ見ない程度に見た。負けん気の強そうな女だった。だからといって、負けん気の強そうな人ですね、とは言うべきではないだろう。彼は他の当たり障りのない要素を探したが、女が先に口を開いたことで彼の出番は消失した。構わなかった。

「この人がよく話題に上がってた先輩なの? やばすぎ、超かっこいいじゃん。思った以上に推せるんだけど」

「な、言った通りっしょ。かっこいいわけよ。中身もイケメンの最強の先輩だよ。同じ男だけど、俺も先輩のことはめちゃくちゃ推してるんだよな。一生ついていきたいくらい」

 後輩の評価が高すぎる気がしなくもないが、彼は否定も肯定もしなかった。喋るとギャルであることが判明した金髪の女には興味津々といったようにまじまじと見られ、あまり良い気分にはなれない。彼氏の前で他所の男を超かっこいいと言うのはどうかと思うが、その彼氏も他所の男をかっこいいだの中身もイケメンだの宣うのだから全くもって気分を害してはいないのだろう。共感してもらったことが嬉しくてたまらないといったようなことがその顔に書いてある。おまけにいつのまにか推されている。

「あれ、なんか聞き覚えのある声がすると思ったら」

「あ、店長、こんばんは」

「こんばんは。珍しいね、こんな時間にどうしたの?」

 後輩の声に導かれた店長が顔を出した。綺麗ではない歪な輪に自然と加わる。その瞬間、彼はそこから弾き出された。輪を歪ませていたのは未だ何も喋っていない彼であり、店長が来たことで歪だった輪が綺麗に完成した。

「先輩に彼女を紹介しに来たんです。先輩全然連絡先教えてくれないからここまで来るしかなくて」

「ああ、なるほど。なかなかガードが固いもんね」

「そうなんですよ。何回聞いても教えませんの一点張りで。俺嫌われてるんですかね」

「そんなことはないと思うよ」

「だといいんですけど」

 本人がいる前で話すような内容ではないと思ったが、それでも彼は無言を貫いた。ガードが固いと言われようが、嫌われているのかと思われようが、連絡先を教えるつもりはない。その意思が変わることはなかった。

 今のうちに、自分から意識が逸れている間に、彼はしれっとその場を離れようと画策したが、金髪のギャルにあっさりと見つかり動きを封じられてしまった。

 無視しても良かったが、そこまで態度が悪いのは逆効果かもしれない。自分の印象を可もなく不可もなくといった程度に保つためには、薄くても多少なりともリアクションを取っておいた方がいいだろう。

 そう思い直した彼は、三人の輪に片足の爪先だけを軽く突っ込んだ。

「ねぇ先輩、何か喋ってみてくれないですか? マジで声聞きたいんですけど」

 彼と会話のキャッチボールをしようとしているのか、ギャルが質問を投げかけてきた。

 プライベートに土足で踏み込んでくるような強引な距離の詰め方が後輩と似ている。声量も大きく、よく通る声をしている。だからこそ、後輩と気が合ったのだろうか。

 声の出る二人の会話はうるさそうだと思いながら、彼はその思考とは全く関係のない別の言葉を思わず吐露していた。

「俺はあなたの先輩ではありません」

 一番引っかかった箇所だった。当たり前のように先輩と呼んでいることが、妙に胸に引っかかってしまった。

 後輩が先輩先輩と呼んでいるために、彼女の方にまでそれが移っているのだろうことは想像に難くないが、同じ職場で働いている後輩はともかく、ほとんど関わることのないような金髪ギャルに馴れ馴れしく呼ばれるのは気持ちのいいものではない。

 彼は盛り上がりに水を差すような冷たい言葉を投げ返してしまったが、金髪ギャルは彼が投げたものを避けたり落としたりもせずに容易に受け取った。

「え、やば、喋ったじゃん。不意打ちすぎだし超イケボなんですけど。めちゃ好みの声してる。やばくない? 私この先輩本当に推せるんだけど」

 内容は何一つ聞いておらず、彼の声しか聞いていないと分かる返答だった。

 ギャルは隣の後輩の肩を叩き、やばいやばい、と興奮気味に繰り返している。やばいっしょ、やばいんだよ、と後輩も一緒になってテンションが上がっている。やばいとしか言っていない。

「モテモテだね」

 のんびりとしている店長が、ゆったりとした口調で他人事のように言葉を漏らす。実際他人事なのだろう。こちらとしてはモテても推されても困るが、そうは言わずに、よく分からない人たちですね、とよく分からない返事を適当に舌に乗せた。話を聞かずに声しか聞いていないギャルの相手をするのはやめにした。

 自分が後輩とギャルの何を刺したのか分からないが、どうせ刺すのなら物理的に刺したいものである。物理的に。

 彼は盛り上がっている眼前のカップルを刺し殺す想像を顔色一つ変えずに繰り広げた。ぐさぐさぐさぐさ刃物を突き刺して、突き刺して、突き刺して。若い男女の身体に無数の穴を空ける。刺して刺して刺しまくった後は、この場にいる店長も滅多刺しにする。店長は巻き込まれ体質である。彼の脳内で初めて、現場で巻き込まれたのだった。

 次に誰かを殺す時は、特に捻らず刺殺にするかと彼は漠然と思う。相手が自殺志願者である場合は希望に沿った殺し方をするつもりだが、そうでなければ刺殺する。遠方にいるカナデが捕らえた金蔓を刺し殺すのもいいかもしれない。とりあえず刺したい。殺したい。刺して殺したい。

「先輩に彼女を紹介できて良かったっす。先輩がやばいくらいかっこいい人だってことも彼女と共有できて良かったっす。好きな人と推しが被るのは最高っすね」

 終始嬉しそうで楽しそうな後輩の明朗な声で彼は我に返った。

 脳内で刺殺されたことなど知る由もない後輩の快活さは相変わらずで、隣の金髪ギャルと目を合わせては笑みを浮かべている。笑い合っている。彼は無表情でそれを眺めていたが、彼の隣の店長は微笑ましそうにしていた。

 店長くらいの年代になると、仲の良い若いカップルを見ると微笑ましくなるのだろうか。彼はいちゃつくカップルを見ても何も感じないのだった。

「せっかくコンビニまで来たんで、ちょっとだけ買い物して帰るっすね」

 彼女と身を寄せ合って店内を物色し始めた後輩は、自分の職場であっても恥ずかしがることなくゴムを購入した。二人はこれから家に帰ってベッドの上で絡まるようである。

 先輩また次のシフトよろしくっす、とにかにかと歯を見せて笑う後輩は知らない。マジのイケメンでイケボな先輩バイバイ、と大きく手を振って笑みを見せる彼女も知らない。身体を重ねることよりも享楽的な行為があることを。彼の中ではそれが殺人であることを。殺人に勝る快楽などないことを。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ