Ep.00 悔恨の独白
━━━力なんてあったところで、守りたいものを守れる訳じゃない。
景色も時間も、何もかも朧気にしか残っていないあの日の記憶なのに、父のその一言だけが今も耳から離れない。いつも朗らかに笑う父の顔が、その時ばかりは虚空を見つめるかのように暗く、真っ白だったことも覚えている。
その時、何一つ意味を分かってはいなかったのだ。父の背におぶさって、いつものように子守歌と共に揺られながら家に帰り、笑いながら無意味に、しかし幸せに時が流れるのを噛み締めて、家族からの溢れんばかりの愛を全身で受け止めていたに違いない。
そして、それがいつまでも続くのだと、疑いもしなかったのだろう。
止まない雨はなく、明けない夜もない。
それならば、終わらない喜劇もない。
雨上がりの虹は、すぐに消え去ってしまう。その後には、雨水に塗れた地面しか残らない。
そのことにもう少し早く気づいていれば。あの日、父の言葉の意味を少しでも読み取ろうとしてさえいれば。
きっと今、こんな地獄に潜り込んだまま、血反吐を呑み込まなければならないような苦しみを味わうことはないはずだったのに。
無力さは恥だ。免罪符にはならない。屈辱を繰り返すことは愚かな怠慢でしかない。だからこそ今、剣を抜いて戦わねばならない。
生き長らえる屍よりも、崩じた獣となる為に。
そうしてあなたの言葉に背き、あえてこの言葉を胸に、生きよう。
━━━何も守らなくて良い。ただ、力だけを、この手に。