ダンジョンじゃ無かった
今、俺たちは絶賛逃走中。
池の脇を駆け山の前を走る。
俺たちを追って来るのは、トゲトゲが付いた大きな金棒を振り回す赤や青のオーガの群れ。
10年程前、世界各地に突然ダンジョンが出現した。
出現したダンジョン、ラノベのダンジョンと違ってダンジョンで得られる物は、ダンジョンから湧き出る生物たちの身体から得られる魔石だけ。
金や鉄鉱石などの貴金属類やレアメタルなど存在せず、生物の肉も皮も食用にできず製品化に向かない。
だからといって出現したダンジョンを放置すると、ダンジョンが生み出した生物がダンジョンから出て来て勝手に繁殖。
人を襲うは住み着いた場所の生態系を滅茶苦茶にするはで迷惑な存在になるだけで無く、魔素の無い地上で繁殖した生物たちは数世代経つと魔石も取れなくなる。
だから各国政府は出現したダンジョンを見つけ次第兵士を派遣して、ダンジョンの最深部にあるダンジョンコアを破壊しダンジョンを消滅させた。
俺たちも日本国防軍から派遣された部隊。
此のダンジョン最初からおかしかったんだよな。
ダンジョンから出てくる生物たち、殆どがゴブリン、コボルト、オークなんだけど、ダンジョン内では繁殖しない筈なのに、俺たちに襲いかかって来るこいつらの中に何故か幼体か混じっていたんだ。
それに普通だとダンジョンの階層は数十階層から数百階層なのに、此のダンジョンは1階層の一番奥に長い長い階段が地下深くまで続いていただけ。
だから階層で言ったら此のダンジョン2階層。
それに他のダンジョンの生物たちが持っている武器は武器と言えるのかどうか疑問だが、そこらで拾った石や木の枝。
それなのに此処のオーガはデッカイ金棒を全個体が所持していた。
あと何故か追って来るオーガどもの身体が頑丈すぎる。
拳銃弾を受け付けないどころか自動小銃弾まで跳ね返しやがった。
ダンジョンの奥深くで派遣された国防軍の兵士たちが逃げ回っている頃、地上では。
1人の老婆がダンジョンを見つけて政府に通報し、ダンジョンの中に侵入した部隊の支援を行っている国防軍兵士たちを見学している登山者たちに声をかけていた。
「あんたら「きくち穴」の前で何をしてるんだ?」
「え? きくち穴って何ですか?」
「そこの穴の事だ」
「え、あれダンジョンじゃ無いんですか?」
「ダンジョン? ダンジョンって何だか知らんが、あのきくち穴は遥か昔からあった穴だぞ。
注連縄で封印してた筈なんだがね」
見学している登山者たちと老婆の会話を耳にした国防軍の将校が、会話に割り込んで来る。
「失礼ですが貴女は?」
「オラは近くの菊池集落に住んでる菊池ハナだ。
まぁ集落って言っても、限界集落でオラくらいの爺婆が10人くらいしか残って無いケドな」
「それで、あの穴はダンジョンでは無いと仰っておられましたが?」
「ああ、あの穴はな、きくち穴って言うんだが漢字で書くと鬼の口って書くんだ。
昔、オラたちの御先祖様が此の地に根付いた時に、穴から鬼が出入りしてたんで鬼口穴って言われるようになったんだ。
あの穴はな、地獄に通じてるらしいぞ。
御先祖様たちが穴を封じる為に、京の都から偉い坊様を招いて封じてもらったそうだが、そのとき坊様が此の穴は地獄に通じてるから、絶対に人は出入りしては駄目だ、と言ったらしい。
だから早く偉い坊様を連れて来て穴を封じないと、鬼が溢れ出てくるぞ」