2夜目 ~大学生の懐事情と商売の理想~
「俺、やめようかと思ってるんですよ。」
雨の影響で珍しく時間を持て余している中、彼のバイト仲間がポツリと話を持ちかける。もうすぐ雑誌の搬入があるため二人してレジでぽけっとしている状況でいきなり言われ、彼は思考が追いつかず咄嗟になんで、と聞き返し頭の中では全力で理由を考える。
自分に落ち度があったか、態度が悪くなかったか、辛辣な言葉遣いをしていなかったか。だが、仲間からの答えはあまりにも意外すぎる理由だった。
「いやだってここ廃棄殆ど無いじゃないですか。」
「は?」
バイト仲間曰く、コンビニといえば廃棄を安く、もしくは無料で貰えるのが当然と思いコンビニで働き始めた。なのにここのコンビニは廃棄が殆ど無いため食費がかかって困っている、とのこと。
「近くのコンビニは一日数百円のジュース代と廃棄物は食べ放題らしいんですよ。なのでそっちに行こうかな~って。」
「あ〜最近出来たあそこかぁ。そんな条件なの?」
「俺の知り合いが働いてるけどそうらしいです。てゆーかここって廃棄が少なすぎません?あっちは毎日カゴ何杯分もあるそうなんですけど。」
「あ〜確かに。自分も夕方は別のコンビニで働いてるけど確かに他のコンビニは廃棄が多いね。コンビニなんて何処もやること同じだし友達いるなら移るのもいいんじゃない?」
ありきたりなアドバイスをした頃に雑誌の搬入があり二人はため息混じりに作業に戻る。
確かにここのコンビニは廃棄が異常に少ない。お弁当が四つもでれば多いと感じるくらいには、ここは廃棄が殆ど出ず、廃棄を目的にしているスタッフの中では取り合いになる。
親元から離れ、一人暮らししている大学生のバイト仲間にとって食費の負担は出来る限り減らすにこしたことはない。そんな彼にとってここで働き続けるメリットや魅力はないかもしれない。
廃棄が少ない理由はオーナーの才覚。
売り捌けけるギリギリのラインを見極め注文をしている。客の好みまで把握しているのではと疑いたくなる程、その注文数は正確だった。参考にしているのは周囲で行われるイベント、学校行事、社会人の動向、天気、季節、メディアなどなど。
特にメディアに関しては敏感に情報の収集をしているようで、番組に出た食材や食品を参考におにぎりやサンドイッチなどは種類によっては量を増減させていた。
何でも視覚に入ってきたものは味の欲求に影響があるとのことだ。売れ筋が毎日必ず売れるわけではないと。
数日後、バイト仲間の大学生はこの店から姿を消し、数週間後、再び戻ってきた。
彼曰く、あそこはモラルがなく染まりたくないとあまり多くを語らなかった。
変わり始めているこのお店を取り巻く環境を少しだけ気にかけて、大学と縁のなかった店員は人の流れに抗うように帰路につく。