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日々原高校ゲーム部  作者: 名波 和輝
008 県予選(2041)
72/83

008-006 その『空城の計』って何なんですか?


 K.A.I.先輩が指し示した最終安地に入ってからの動きはいつものランクマッチと(ほとん)ど変わらなかった。


 1番強いポジションに陣取って、罠を仕掛ける。


 近付いて来た敵はスナイパーライフルで牽制(けんせい)し、寄せ付けないようにした。


 隙あらば、ノックを取り、運が良ければ、そこから確殺まで入れる。


 本当に普段と変わらなかった。


 強いて違いを言うならば、2つ。


 1つは、敵があまり強くないと言うこと。


 もう1つは、スナイパーはK.A.I.先輩ではなく、僕だと言うことだ。


 たったそれだけが違う県予選の最終マッチは、穏やかに終局へと進んで行った。


 そして、第4安地収縮前。


 まだ、最終安地の1つ前の安地だと言うのに、残り部隊数は3部隊となっていた。


「敵、いませんねぇ」


 僕達が、と言うよりは、僕がスナイパーで牽制し過ぎたせいで、僕達の周りには誰もいなかった。


 それこそ、僕達みたいに最終安地がわかっていれば、強ポジを取る為に積極的に交戦もしたんだろうけど、最終安地になることがわかっていないのだから、ガチガチに籠城してスナイパーライフルを撃っている相手に無理に突っ込む必要はないと言う判断にもなる。


 そうして、僕のスナイパーライフルの射程圏外に逃げるように、遭遇した(と言うか発見した)敵部隊はみんな何処(どこ)かへ行ってしまった。


 やはり、順位を上げようとすると、こう言う動きになってしまうのだろうか?


「始まったな」


 you先輩はそう(つぶや)く。


 耳を()ますと、(かす)かに銃声が聞こえてきた。


「どうしますか?行きますか?」


「まさか。オレ達は動かねぇぜ。1位を取るつもりなら、漁夫を狙って動くのもありだが、2位以上で万々歳のこの状況なら、動く必要はないからな。それに、この感じだと、到着する前に終わりそうだしな」


 you先輩の予言通り、銃声はすぐに聞こえなくなった。


 残り部隊数も2部隊になっている。


「終わりましたね…」


「じゃ、始めますか」


 ダダダダダダダダダダッ。


 you先輩は壁に向かって発砲した。


「何を…ッ!?」


「『空城の計』って知ってるか?」


「いえ…、知りませんけど…」


「MoMoちゃんは無知だねぇ。三十六計ぐらい知っておきなよ。まあ、いいや。本当は自軍が劣勢の時に使う奇策なんだがな。大事なのはそっちじゃない。この策を使う事でオレのフィールド、心理戦に持ち込めるってことよ」


「来たようだね」


 僕とyou先輩が兵法(?)の話をしていると、Tomo先輩からそんな報告があった。


 僕は慌ててスコープを覗き込む。


「安心しなよ。まだMoMoの射程じゃない」


 K.A.I.先輩は僕を落ち着かせるようにそう言う。


「あそこの岩裏にひとまず入ったって感じか」


 そう言いながら、you先輩はアサルトライフルで敵が隠れた岩を撃つ。


「ちょっ!?なんでそんなガンガン撃ってるんですか!?」


「教えてあげてんのよ。オレ達の位置を」


「そんなことして、何の得があるんですか!?」


「ないよ」


「へ?」


「だから、得なんてないよ。直接的な得はな」


「じゃあ、何で…」


「『そんなことするんだ?』って聞きたそうな表情(かお)してんで説明させてもらうがよ。それこそがオレの『空城の計』なのさ」


「その『空城の計』って何なんですか?」


「いいぜ。どうせあいつらが動くまで今(しばら)く時間があるからな。ゆっくり説明してやるよ。そもそも『空城の計』って言うのは、かの有名な諸葛孔明の用いた策の1つでな。あえて自分の城に敵を招き入れるような素振りをすることで敵の警戒心を誘う計略のことだ」


「はあ、なるほど。それが本来の『空城の計』なんですね」


「で、オレはさっきからわざと発砲して敵に位置を教えてるわけだ」


「そうですね」


「この行動、オレ達に直接得はない。(むし)ろ、情報戦と言う見地(けんち)で言えば損をしてるくらいだ。でも、その『オレ達の居場所』と言う情報を捨ててでもオレが欲しかったのは『敵の警戒心』ってわけだ」


「どう言うことですか?」


「敵の立場になって考えてみなよ。残り部隊数は2部隊。銃声なんて本来、接敵するまでは聞こえる(はず)がない。それなのに幾度となく聞こえてくる銃声。であれば、そこには何らかの意図があるのだと考える。策か、罠か。当然、警戒するしかない」


「なるほど。でも、敵は警戒心を抱いてくれたんでしょうか?敵が警戒してくれなかったら、僕達は居場所をバラしただけの骨折り損ですよ」


「大丈夫。相手は十分に、いや、十二分に警戒しているよ。だから、あんな変な岩裏に陣取ってるんだ」


「そうなんですか?」


「あいつらの心理は手に取るようにわかるぜ。有利ポジを取りたい。けど、妙な動きをしているオレ達から視線を外すのは怖い。だから、あんな変な場所でこっちの様子をチラチラ(うかが)っているのさ」


「なるほど」


「あいつらはオレ達を警戒してる。だから、何かがないとこっちには近付いて来ない。あの位置なら、仮にスナイパーに抜かれても、詰められるまでに蘇生と回復が間に合うからな」


「じゃあ、顔出してるの見えても撃たない方が良いんでしょうか?」


「それはMoMoちゃんに任せるぜ。幸いにも弾の貯蓄は充分だからな。撃ちたかったら撃てば良い」


「わかりました」


「で、だ。恐らく、あいつらが次に動くのは、最終安地がわかったらって所だろうな。K.A.I.、あそこのフェンス裏、最終安地に入ってるか?」


「ああ、入ってるよ。ギリギリね」


「そうなると、多分、あそこの建物経由してフェンス裏に入るだろうな。MoMoちゃん、今あいつらが隠れてる岩から建物の裏に入るまでの間に射線が通るだろ?撃てるか?」


「撃てはするでしょうけど、当たるかは微妙ですよ。K.A.I.先輩なら百発百中の距離なんでしょうけど」


「当たれば御の字くらいの気持ちで撃ってくれれば良いさ」


「そう言うことなら、わかりました。撃ちます」


「OK〜。なら、第4収縮が終わるまで暫く待機だな。勿論、監視は外さねぇけどな」


 そんなわけで、僕達は敵の隠れた岩を見つめながら、待機することとなった。

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