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日々原高校ゲーム部  作者: 名波 和輝
001 始まり
7/78

001-006 はい、すごいです


 ここまでの出来事を振り返っておこう。


 念願のゲーム部入部を胸に、日々原高校に入った僕、桃井(ももい)(ひびき)は、ゲーム部は廃部になったと言う知らせを耳にする。


 人数不足で同好会となってしまったゲーム部に入るため、僕は試験を受けることになった。


 現ゲーム同好会の会員である先輩は、Tomo先輩と、you先輩と、K.A.I.先輩の3人。


 試験の合格と共に僕に知らされたのは、3人の先輩が実は全員、男ではなく、女性だったと言う衝撃の事実だった。


「…なっ、えっ、どうして…?」


 僕は狼狽(うろた)える。


「あひゃひゃひゃ。モモちゃん、混乱しちゃってるぜぇ」


 you先輩は笑いながらそう言った。


(だま)すような真似をしてしまい、すまない。ちゃんと自己紹介をさせてもらうよ」


「えっ、あっ、はい」


「私は2年の犬飼(いぬかい)(とも)。このゲーム同好会の会長、おっと、モモイ君が入部してくれたら、部に昇格するから、ゲーム部の部長になるね」


「あの、さっきまでの声は…?」


「ああ、このボイスチェンジャーを使って変えていたんだよ。普段から野良の人とVC繋ぐ時は、このボイスチェンジャーを使っているんだ」


「わざわざ、声を変えているんですか?」


「そうだね。私が女だとわかると、露骨(ろこつ)に連絡先交換を要求してくる人が多くてね。だから、オンライン上では、私は男としてゲームをプレイしているんだ」


「なるほど。大変なんですね」


「次は、オレかな?同じく2年、猿子(ましこ)(ゆう)だ。オレは部長と違って、声を変えたりはしちゃいないぜ。女にしちゃ声が低いし、(しゃべ)り方も女らしくないから、大体中学生男子だと思われてんだろうな。まあ、なんだ、よろしくな、モモちゃん」


「あっ、はい。よろしくお願いします」


「最後はわたしね」


 聞き覚えのない声に、僕は困惑する。


「そいつ、K.A.I.な」


 困惑が顔に出ていたのだろう。you先輩が、補足してくれる。


 確かに、残りはK.A.I.先輩しかいない。


「わたしも同じく2年の雉尾(きじお)(うみ)よ。普段からゲームをする時は、声を変えているの。こんな風にね」


 K.A.I.先輩の声が変わる。ネットで言う所の両声類(りょうせいるい)って感じだ。


「K.A.I.先輩も、Tomo先輩と同じ理由ですか?」


「そうだね。出会い(ちゅう)を寄せ付けないためってのもあるけど、ぼくの場合は、普段の自分と違う自分を演じたいからってのもあるかな」


 変えたままの声で、K.A.I.先輩はそう言った。


「そうなんですね」


「だから、ゲームをしている時に、ぼくを『海』って呼んだり。部室以外で、わたしを『K.A.I.』って呼ばないでよね。わかった?」


 器用に声を変えながら、K.A.I.先輩はそう言った。


「はい、わかりました。よろしくお願いします。K.A.I.先輩」


「うん、よろしく」


「自己紹介もひと通り済んだところで、モモイ君、この入部届にサインして貰えるかな?」


「あっ、はい」


 僕は入部届に「ゲーム部」、「桃井響」と記入し、Tomo先輩に渡した。


「私は、モモイ君の入部と、『ゲーム同好会』を『ゲーム部』にする手続きをしてくるから、みんなは好きにしていてくれ」


 そう言って、Tomo先輩は部室を後にした。


「あのっ…」


「ん?どうした、モモちゃん?」


「さっきの入部試験、どうやって負けたか、理解できてなくて…」


「あー、あれな。あれは普通に、K.A.I.が撃ち抜いただけだよ」


「でも、K.A.I.先輩の射線は切って移動していたんですよ」


「いや、モモちゃん達が切ってたのは、オレの射線だよ」


「???」


「しゃあない。時系列に沿って説明してやるよ。最初にモモちゃんがダウンしたろ?」


「はい」


「あれは、K.A.I.の狙撃だ。で、モモちゃんの蘇生を通している間に、K.A.I.には移動してもらったのさ」


「じゃあ、僕達が見つけたK.A.I.先輩は…」


「そりゃ、オレだ。つまり、勘違いしてたんだよ。モモちゃん達がK.A.I.だと思っていたのはオレで、本物のK.A.I.はモモちゃん達の移動ルートを狙撃できる位置にいてもらったのさ」


「なんで僕達の移動ルートがわかったんですか?あの時点では、次の安地もまだわからないから、僕達がそのルートを通るなんて予測できないと思いますが」


「K.A.I.は安地読みが得意だからな。その読みを信頼したまでのことさ。で、次の安地と、モモちゃん達の位置がわかってるなら、どう圧をかければ、モモちゃん達がどう動くかなんて、オレには余裕でわかっちゃうわけよ」


「すごいですね」


「いやぁ、それほどでも…、あるかな!」


 嬉しそうに笑って、you先輩はそう言った。


「K.A.I.先輩もすごいですよね。あんなに正確に狙撃できるなんて」


「まあ、わたしはそこに全てを注ぎ込んでいるから。できて当然よ」


「なあなあ、モモちゃん。実は、あの1ゲーム、全部オレの(てのひら)の上だったんだぜ」


「どう言うことですか?」


 K.A.I.先輩に向いた僕の興味を取り戻すように言ったyou先輩の一言に、僕は食い付いてしまう。


「時系列順に話すと、まず最初に、オレ達は即降りしただろ?」


「そうですね」


「あれはモモちゃんの性格を読む一手なのさ。あのゲームはモモちゃんを見るための試験だった。となれば、部長はチームの司令塔をモモちゃんにするはず。つまり、オレ達の行動への対応でモモちゃんの性格がわかる。オレ達を追うように速攻を仕掛けてくるのか、それとも安定を取るのか。モモちゃんは後者だった」


「確かに、あの時は負けられないと思っていましたし、後降りして、運ゲーに持ち込みたくありませんでしたから」


「モモちゃんは、このゲームを知っていた。だけど、速攻を仕掛ける判断を避けたから、そこまで腕に自信があるわけじゃないと見た。つまり、立ち回りで勝つつもりなんだろうと予測したわけだ」


「まあ、確かに、そう思っていたかも知れないです」


「だから、オレ達は、序盤に無理矢理攻めに行った。こうすることで、モモちゃん達の動きをある程度絞り込めるからな。だから、その時点で、第1収縮が終わったあのタイミングで、あの状態になるようにオレは仕組んでいたってことさ」


「そうなんですね」


「すごいだろ!?」


「はい、すごいです」


「あひゃひゃひゃ」


 you先輩はご機嫌だ。


 これ、永遠にyou先輩の自分語りに付き合わなきゃならないのかな?


 僕は、K.A.I.先輩に助けを求めるように視線を送るも、「あんたが()いた種でしょ。自分で何とかしなさい」と言わんばかりの表情をされた。


「あと、あれだぜ。オレ達がダサT着てたのも、作戦のうちだぜ。オレとK.A.I.のコスをダサTにすることで、入れ替わりの策を使おうと思ってな。まあ、今回はそこまで(もつ)れ込まなかったけど」


「そうなんですね」


 やばい。このままじゃ、本当に、you先輩の自分語りを永遠と聞くことになる。


 何か、話題を…。


 僕が困っていると、部室の扉が開く。


「Tomo先輩」


「書類、提出できたよ。これでモモイ君は晴れてこのゲーム部の一員さ」


「ありがとうございます」


「ゲーム同好会が無事、ゲーム部になったところで、早速みんなでゲームをしようか。せっかくだし、今日は公式バトロワで遊ぼうか」


 そんなわけで、僕は無事、念願のゲーム部に入部できた。

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