007-010 人の心とかないんですか?
次の放課後。
「あ、K.A.I.先輩、お疲れ様です」
僕がPCを立ち上げていると、K.A.I.先輩がやって来た。
「ん。お疲れ」
「グレ、ある程度できるようになりましたよ!多分、ほぼ全部当てられると思います」
「えっ?それ、本当?まさか徹夜でやったとか言うんじゃないでしょうね?」
「いやいや、しっかり12時前には終わりましたよ!」
「随分と早いわね」
「そうですか?」
「だって、触るだけって言ってたじゃない」
「あ、まあ、それは興が乗ったと言いますか。最初は本当に触るだけのつもりだったんですけど、ちょっと触ったら、『これ簡単にできるようになりそうだな』って思いまして」
「それでマスターできちゃったってわけ?」
「あっ、でも、まだピン刺さずには無理ですよ。そう言った意味では、マスターとは言えないですけど。あっ、でも、目標にピンを刺して、正確な距離さえわかれば、ちゃんと当てられはします」
「そんなのほぼマスターしたと言っても過言じゃないでしょ。それにしても、5時間も触ってないのに、ほぼマスターするなんて素直にすごいと思うわよ」
「本当ですか?嬉しいです!でも、スナイパーライフルとかの練習に比べれば、簡単じゃないですか?」
「確かに、余計なことを考えなくて良い分、簡単かも知れないけど。それでも、目標を直接視認するわけじゃないから、直感に反する操作と言う一癖あるだけ難しいんだけど。昨日もちょっと思ったけど、あんた、段々体得していく速度あがってない?」
「そうですかね?僕的にはそんな気はしないですけど。寧ろ、得手不得手的な話かなって。一度、身に付けたものをアレンジしたり、黙々と没頭するだけで身に付けられるのが得意なんだと思います」
「何にせよ、わたしから教えられることはもうなさそうね。これからは体得した技術を実戦の中で磨くことね」
「およ?MoMoちゃん、仕上がったってこと?なら、今日は部長が来たらランクマ潜る?ブレインたるオレとしては、MoMoちゃんの実力を見極めておきてぇ所だからな」
僕とK.A.I.先輩の会話に、you先輩は割り込むようにそう言った。
「良いんじゃない?わたしとしては異論はないわよ」
「はい。僕も問題ないです!」
僕達はTomo先輩を待つことにした。
―――
「にしても、随分と仕上がるのが早かったんじゃねぇの?」
「K.A.I.先輩の教え方が上手だったからですかね?」
「嬉しいこと言ってくれるわね。でも、こんなにも早く結果に繋がったのは、MoMoが腐ったりせず直向きに最後まで頑張ったからだと、わたしは思うわよ。それに飲み込みも早いし」
「ま、MoMoちゃんが素直で飲み込みが早いってのはオレも同意見だな。オレが課したエイム練習も結局、ギブアップせずやり切ったわけだしな。正直、ギブアップさせて、背徳感を煽るつもりだったんだがな」
「う〜わ、you先輩、本当に性格悪いですね。何でそんなことしようとするですか…?」
僕はドン引きしたような声でそう言った。
「優秀な兵隊を育てるには自尊心を折った方が手っ取り早くて簡単なのよ。ほら、ブラック企業だって、心を折るところから教育を始めるだろ?」
「だとしても、それを実行に移せるのはヤバいと思いますよ。人の心とかないんですか?」
僕がそう言うと、you先輩は泣きそうな顔をする。
「こいつは人の気持ちとかわからないのよ。別に悪意とかはないんだけどね」
と、K.A.I.先輩が補足するようにそう言った。
「え、でも、you先輩って、相手の心を読むの得意じゃないですか?」
「相手の心を読むのと、相手を思いやれるのは別、ってことなんでしょうね」
「なるほど。それは、随分と歪ですね。大丈夫ですよ、you先輩。僕はこのくらいじゃ、you先輩のこと、嫌いになりませんから。それに、さっきは言い過ぎたかも知れません。すみません」
安堵の表情を浮かべるyou先輩。
「わかれば良いんだよ!」
よっぽど僕に、と言うか、人に嫌われるのが嫌らしい。
なら、少しは人を思いやれば良いのに。
そう思ったけど、話が拗れそうなので、僕は口には出さなかった。




