007-001 お疲れ様です…
「お疲れ様です…」
GWも明けた平日の放課後。僕は部室の扉を開けて、そう言った。
「お、MoMoちゃん。おっす、おっす。どしたん?随分とぐったりしてるけど」
やっぱり部室には既にyou先輩がいて、そんな先輩は僕を気にかけてくれた。
「昨日ゲームやり過ぎました…」
「何時に寝たん?」
「昨日の、いや、今日の4時ですね」
答えながらも、僕は椅子の方へとよたよたと歩き、そして、座って、机に突っ伏した。
「んで、睡眠不足ってわけか。バカだねぇ。そんなんなるくらいなら、もっと早く寝れば良いのに」
「それはそうなんですけど。ゲームに没頭しちゃってて、時計見たら4時近くだったんですよ」
「授業中寝なかったの?」
「一応、寝ました。1時間だけ。後は時間割り的に寝れなかったんですよね」
「つか、そんなんなら、部室に顔出さずに帰れば良かったのに」
「それはできませんね。僕は部活のために学校来てるので」
僕とyou先輩がそんな会話をしていると、K.A.I.先輩が部室にやってくる。
「どうしたの、MoMo。死にそうな顔、してるじゃない」
「あ、K.A.I.先輩、お疲れ様です。ゲームのやり過ぎですので、お気になさらず。それよりも、仕上げて来ましたよ、弾速の体得」
「そうなの?なら、見てあげるわ。準備して、エイム温めて待ってなさい。ソシャゲのスタミナ消費したら、試験してあげるから」
「わかりました」
僕はPCの電源を入れ、バトロワを起動する。
そして、訓練場に入り、スナイパーライフルを手にした。
何発か試し撃ちする。
よし。良い感じだ。
体調は絶不調だけど、エイムは逆に、と言うか、寧ろ良い感じだ。
夜遅くまで練習してた成果はばっちり出てる。
「じゃあ、試験を始めようか」
僕が少し試し撃ちをしていると、ソシャゲのスタミナ消費を終えたK.A.I.先輩が、僕にそう声をかけた。
「はい」
試験が始まり、僕はK.A.I.先輩に言われた的を撃ち抜いた。
そして、結果は…。
「合格だ」
「ありがとうございます」
「やっぱりMoMoは真面目で優秀だね」
「そうですか?」
褒められて、素直に嬉しい。
「ああ。この弾速の体得には2つの攻略法がある。1つは、素直にエイムを合わせる方法。もつ1つは、置きエイムだ」
置きエイム。敵が通りそうなところに予めエイムを合わせておく技術だ。
今回で言うと、的の通り道にエイムを合わせておくのが、置きエイムに当たるだろう。
「僕は、馬鹿正直にエイム合わせてましたけど、置きエイムの方が効率が良いですよね?」
「実戦なら、置きエイムを選んだ方が確かに良い。けど、これは練習だ。なら、自分にとって難しい方を選んだ方が良い」
「僕の選択は合ってたってことですか?」
「そうだよ。MoMoが置きエイムに逃げずに、真面目にエイムを合わせる選択をしたからこそ、得られたものがあった」
「得られたもの、ですか?」
「エイムを含む射撃全体のスピードだよ。MoMoの射撃スピードは、一流のSR使いと言っても過言じゃない。だから、もうこれ以上、練習する必要はないよ」
「でも、K.A.I.先輩にはまだまだ及ばないですよ」
「ぼくは、超一流だからね。でも、MoMoはぼくのレベルまで達する必要はないよ」
「どうしてですか?」
「超一流になるってことは、それ即ち、スナ専になるってことだ。スナ専になるつもりはないんだろ?」
スナ専、つまり、スナイパー専門ってことだ。
「確かに、なるつもりはないですけど、超一流になっておくに越したことはないじゃないですか?」
「一概にそうとも言えない。初心者が一流になるよりも、一流から超一流になる方が必要な経験値は多い。MoMoが今日まで練習した練習時間の何十倍もの時間の練習が必要だし、実戦経験もそれ以上に積まなきゃならない。超一流とはそうして初めて辿り着く境地だよ」
「なるほど。スナイパーライフルばかりに時間を使うくらいだったら、その時間を別の練習に充てて、他の技能を習得した方が良いってことですか?」
「ああ、その通りだ。それに、超一流になる過程は苦行だからね。血の滲むような努力をして、漸く0.1秒、或いは、0.01秒速くなるとか、その程度だ。要は、努力と成果のバランスが悪過ぎるんだよ。だから、楽しくない。それこそ、スナ専になると覚悟を決めて、上達を気長に待つような気の持ちようでなければ、狂ってしまうくらいにはね」
「大人しく今の実力で満足しておきます」
そう、僕とK.A.I.先輩が話していると、部室の扉が開く。
「良いタイミングだね、Tomo。ちょうどMoMoのSRが仕上がったんだ。4人でランクに潜らないかい?」
「ああ、構わないよ」
「youも良いだろ?」
「ああ、良いぜ。でも、スナ2枚は、バランス悪くねぇか?」
「なら、ぼくが2丁拳銃で戦おうか?」
2丁拳銃。武器スロットを両方ピストルにする構成のことだ。
「いや、それ、火力下がってんじゃねぇか。K.A.I.もスナで良い。オレがスナ2枚でも勝てるように考えてやるからよ」
―――
そんなわけで実戦だ。
「良いかい、MoMo。スナイパーは最初の1発が何よりも大事だ。敵に警戒される前の最初の1発。それが当たるか当たらないかで戦況は大きく左右される」
「はい」
K.A.I.先輩は飛行船の中で、僕にそうアドバイスをくれた。
結果だけを言うと、面白いくらい弾が当たった。
K.A.I.先輩が重要だと言っていた1発目。これは、殆ど全弾当たった。
あまり動いていない敵には勿論のこと、移動中の的にもしっかりと当てることができた。
多少射撃までのスピードが遅くなっても、しっかりと狙うことで弾はちゃんと当たるのだ。
ヘッドショット率もおよそ7〜8割と、5発撃てば3〜4回はダウンさせられる計算だ。
つい数日前までスナイパーライフルなんて殆ど触ったことがなかっただけに、こうしてバンバン敵をダウンできると、上達を実感できて楽しかった。
ちなみに、課題、と言うほど大きな問題ではないけど、課題のようなものは2点だけあった。
1つは、2発目以降の命中率だ。
敵に警戒されると、命中率は6割を下回る程まで下がってしまう。
特に、ランダムに動かれると当たる気がしない。
こればっかりは経験だとK.A.I.先輩は言っていた。
もう1つは、中〜近距離での戦いにあまり貢献できないことだ。
普段はアサルトライフルとショットガンの構成だから、中距離をアサルトライフルで戦って、近距離をショットガンで戦うと言うスタイルで戦っている。
でも、今回は1枠をスナイパーライフルによって埋められてる所為で、アサルトライフル1本で中〜近距離を対応しなければならなくなっている。
アサルトライフルのエイムを鍛えていたお陰で、一応戦えてはいるのだけど、いつもより戦闘力が落ちている感覚は否めない。
―――
そして、ランクマッチを制した後。
「どうでしたか?」
僕はK.A.I.先輩に聞く。
「良いんじゃないの?練習で身に付けたことは、発揮できていたと思うわ。現時点で平均より上のスナイパーになっているんじゃないかしら?後は、実戦あるのみね。実戦を重ねていけば、より柔軟な対応ができるスナイパーに成長できると思うわ」
「ありがとうございます」
「オレとしても及第点だぜぇ。ま、普段、K.A.I.に慣れちまってるから、オレの採点は辛めになってるんだけどな。野良で潜っても充分活躍できるんじゃないか?知らんけど」
you先輩からも(一応)褒め言葉をもらえた。
「じゃあ、SRの最後の練習に移るとしましょうか」
「はい」
僕のスナイパーライフルの練習は、もうちっとだけ続きそうだ。




