001-004 すみません、ダウンしました!
ゲームは始まった。
飛行船の航行ルートは、南東から北西で進む形だ。
どこに降りようか。
そう、僕が考えていると、早速先輩達のチームは飛行船を降りる。
降下軌道を見るに、南西の街に降りるようだ。
後追いで、同じ街に降りても良いけど、負けられないこの試験でわざわざリスクを負う必要もないだろう。
着地直後の戦闘は運の要素が大きくなる。
ここは堅実に。
「Tomo先輩。僕達は北東の街に降りましょう」
「良いよ。君の好きなようにすると良い。私は君のオーダーに従うよ」
「はい!」
僕は、北東の街にピンを刺し、そこに向かって降下する。
街に降りてすぐ、僕は物資を漁る。
本来、4人1組、最大60人で1マッチが行われるゲームだ。
そのマップをたった4人で漁るのだから、武器や物資は潤沢だろうし、僕は僕の好きなように拾い集めるとしよう。
武器は、遠〜中距離用のアサルトライフルと近距離用のショットガンにしようかな。
まあ、これが王道だし。
バックパック(中)を見つけたから、弾薬はアサルトライフルを5スタック、ショットガンを1スタックにしよう。
回復は大を4スタック、小を3スタックにして、グレネード2スタックと地雷1スタック持てば良いかな。
うん。なかなか良いバックパックだ。
「Tomo先輩、僕の方は準備大丈夫です。先輩はどうですか?」
「うん。私も大丈夫だよ」
「じゃあ、移動しましょうか?」
「ああ、構わないよ」
さて、第一安地は島の西側に寄った感じか。
僕の読みだと、最終安地は島の中央より若干南西の地点になりそうだな。
そうなって来ると、先輩達のチームが安地に先入りしてて、僕達がそこに入る展開になりそうだ。
「このまま西方向に進んで、島の北西方向に進みましょう」
「了解だよ」
不用意に南西に進んで、意図せず先輩チームと接敵するのが最大のリスクだ。
だったら、多少試合時間はかかってもリスクの低い選択をしたい。
瞬間、僕の体力がいきなり減る。
25ダメージ。
着弾音が示すのは、近くに敵がいると言うことだった。
慌てて僕は、近くの建物に入り、回復する。
「先輩、撃たれました」
まさか、まさか、まさか。
わざわざ僕達の方に来たのか?
安地方向でもないのに!
「きっとK.A.I.の仕業だね。撃たれた方向はわかるかい?」
「いえ、いきなりのことだったので、正確な方向はさっぱり。きっと南西方向だとは思いますが」
「まあ、まだ2人は遠い。とりあえず、合流しようか」
「はい、わかりました…けど、どうしてまだ遠いってわかるんですか?」
「25ダメージだっただろう?つまり、弾は手足に当たったと言うことだ。K.A.I.の技量なら300m以内ならヘッドショット、500m以内なら胴体に当たるだろうからね」
そんな馬鹿な!と言いたかったけど、現に発砲音がしない狙撃を受けてしまっているので、500m以上離れた狙撃と言うのも信憑性がある。
僕とTomo先輩は合流する。
「無事合流はできたけど、ここからどうしようか?」
「遮蔽で射線を切りながら、北側をぐるっと回って、安地に入りましょう。僕達がスナイパーライフルを持っていない以上、超遠距離の戦いはできないですから」
「了解。ちなみに、私は武器を持ち替えても構わないのだけれど」
「スナイパーに変えるってことですか?」
「モモイ君が前線を張ってくれるなら、私はスナイパーライフルとアサルトライフルの構成に変えるよ」
「正直、先輩の実力がわからないので、こればかりは何とも…」
「スナイパーライフルの実力はK.A.I.には劣るけど、300m以内なら良い勝負になると思うよ。結局は、モモイ君がどうしたいか、どうして欲しいかになるね。私に同じ距離で戦って欲しいのか、それとも後方からの援護に徹して欲しいのか、私としては、どちらでも十全にモモイ君のサポートはできると思うよ」
「わかりました。では、後方からの援護をお願いして良いですか?射程で負けていると、一方的にやられる展開も考えられるので」
「了解。じゃあ、スナイパーに持ち替えるね。付近のエリアを漁っても良いかな?」
「はい、大丈夫です」
僕達は、島の北側を漁りながら、安地に北から侵入した。
―――
第1収縮完了まで残り45秒ほど、随分と余裕を持って安地に入ることができた。
高台の建物の中。
こう言うゲームは高台が有利って相場が決まっている。
「次の安地がわかるまでは、この建物で待機しましょうか。先輩達のチームが後を追って来ているかも知れないので、周囲の警戒はしておきましょう」
「了解だよ」
そう指示を出した僕も、周囲を警戒する。
格子窓から顔を出した直後、僕はダウンする。
それは、スナイパーライフルでヘッドショットされたことを意味する。
「先輩。すみません、ダウンしました!」
「大丈夫、落ち着いて。今、蘇生するよ。南の窓から撃たれたようだね」
僕を蘇生しながら、先輩はそう言う。
「南は崖ですから、崖下の集落から撃ってきたんだと思います」
「そうだね。1番近い建物で目測120m。K.A.I.なら充分にヘッドショットできる距離だね」
300m以内でほぼ確定ヘッドショットは、チート過ぎる。
1発で仕留められるから、敵の居場所がわからない。
「すみません、ありがとうございます」
蘇生を通してもらった僕は、回復を行う。
「ちょっと待ってね。軽く索敵するから」
Tomo先輩はスナイパーのスコープを覗き、敵の居場所を探る。
「はい、お願いします」
「あっ、いたいた。左奥の大きな建物の4階だね。撃たれないように気を付けてね」
忠告を受けた僕は、そっとその方向を見る。
180m程度離れたその建物にK.A.I.先輩はいた。
「あれは、ダサT?K.A.I.先輩は、いつもあのコスなんですか?」
コスチューム。実力主義のこのゲームの課金要素の1つ。ただ見た目が変わるだけで、それ以外の変化はない。
そして、ダサT。去年のオリンピックの開会式と共に全プレイヤーに配布されたコスチューム。オリンピックの公式キャラクターが描かれただけのTシャツ姿と言うあまりのダサさから、巷では「ダサT」と呼ばれている。
「いや、普段は『ロンリーウルフ』、だったかな?黒いコスを使ってるよ」
あの中二病患者御用達みたいなコスか。
まあ、普段からダサT着てる人なんているわけないか。
そんな雑談をしていると、次の安地が明らかになる。
島の南西部に寄るだろうと言う僕の読みは外れ、島の北西部に寄った。
僕達が今いる所から北に行けば、すぐに安地に入れる感じだ。
「安地、北西の方になりましたね。K.A.I.先輩がいる以上、長射程対決は不利ですから、もっと安地が縮まるまで待ちましょう」
「うん。了解だよ」
「それと、向こうのチームが先に安地に入る形になると、僕達の安地入りが妨害されてしまうので、安地には先に入るようにしましょう」
「それは良い考えだね。じゃあ、早速移動かな?」
「はい、そうですね。姿が見えないyou先輩が伏兵になっている可能性もありますから、その辺りを気をつけながら、K.A.I.先輩の射線を切って安地に入りましょう」
僕は次の目的地の建物にピンを刺しながら、そう言った。
「わかったよ」
僕達は移動を開始した。
建物をいきなり飛び出した僕達をK.A.I.先輩の狙撃が襲うも、運良く当たらなかった。
まだ、K.A.I.先輩は移動していないようだ。
もし、僕達の思惑を読んで、you先輩が伏兵として先回りして潜んでいたとしても、2対1の構図になれば、勝算がある。
ダウン。
K.A.I.先輩の射線は完全に切れていた筈なのに、僕は2度目のダウンをした。
すぐに物陰に隠れられるような位置でもない。
ダウンした僕はなす術もなく次の1発でキルされた。
「どうやらここまでのようだね」
これは僕の入会試験だ。
つまり、僕がキルされてしまった以上、試験はここまでと言うことなのだろう。
Tomo先輩が降参し、ゲームは幕を閉じた。