006-021 僕の記憶の中にこの人は存在しない
いつも通りにお昼の時間は過ぎて行く。
先輩達は売店で買って近くで食べ、僕は自販機で買って部室で食べる。
静かな部室、1人で黙々と食べるのは少し寂しいけど、先輩達と食べてるところを同級生にでも見られて、噂される恥ずかしさに比べれば、大したことではない。
食事をしながらも、僕は偏差のことで頭がいっぱいだった。
どうすれば上手くできるのだろう。どうすれば早く上手くなるのだろう。
そんなことを考えながら、作業のように食べ物を口に運ぶ。
だから、部室はただただ静かだった。
そんな静寂は突如、切り裂かれる。
勢い良く部室の扉が開いた。
「やっほ〜、遊びに来たよ〜」
音に釣られて僕の首は扉の方へと回る。
知らない人だった。
くせっ毛の短い黒髪に眼鏡の女性。
僕の記憶の中にこの人は存在しない。
「あっ。えっと」
「ごめんなさい!間違えました!」
勢い良く扉が閉まる。
一体、なんだったんだろう?
穏やかそうな見た目に反して、台風のような人だった。
僕がそんなことを考えていると、扉越しに「あれ?やっぱりここがゲーム部だ〜」なんて声が聞こえてくる。
先輩達の知り合いかな?
僕は部室を出る。
「あの、先輩達の知り合いの方ですか?先輩達なら今、売店の方にいると思いますけど」
「あ、そうなんだ〜。もしかして、君、1年生かな〜?」
「あ、はい。そうです」
「そっか、そっか〜。『誰だ?』って顔してるから、自己紹介させてもらうけど、あたしは金田葵。この学校の卒業生で、元ゲーム部員だよ〜」
点が繋がって、線になる。
「あ、じゃあ、僕も自己紹介させていただきます。桃井響と言います。最近ゲーム部に入部しました」
「そっか〜。よろしくね〜」
「はい。よろしくお願いします。あっ、どうぞ、部室の中に入ってください」
「ありがと〜。じゃあ、遠慮なく〜」
先輩達、呼んできた方が良いのかな?なんて考えながら、僕は金田先輩を部室に通した。




