006-003 凄いじゃないですか!
「MoMo」
僕が時間を忘れて黙々と横移動しながらの射撃練習をしていると、Tomo先輩に肩を叩かれ、呼びかけられた。
「ぁ、はい」
「今日の部活動はここまでだ。そろそろ帰宅の時間だよ」
そう言われて、時計を見てみると、時刻は17時になろうとしていた。
いつの間に…!
本当に熱中し過ぎていて、わからなかった。
と言うか、今日僕、ずっと訓練場で射撃練習しかしてないんだけど…。
「MoMoちゃん。成果はどうだ〜い?」
Tomo先輩の陰からひょっこり顔を出したyou先輩がそう言った。
「どちらも100%当たることはあります。でも、連続10回となるとやっぱり難しくて、できて3連続と言ったところでしょうか」
「まあ、上々。明日もこの続きね」
「ぇ。はい」
「家で触っても良いけど、この練習以外しちゃダメね」
「わかりました。けど、何でですか?」
「わかる時が来るよ。すぐにね」
「はあ。そう、ですか。ところで、先輩達の方はどうだったんですか?」
「『どうだった』って?」
「ランク、回してたんですよね?」
「あ〜、うん。そうだよ。マジで全然ランク触ってなかったから、ルーキーまで落ちてたわ」
「結構上がったんですか?」
「まあ、ぼちぼち。プロ2かな」
「そんなに上がったんですか!?」
ちなみに、僕のソロランクの最大到達がプロ1だ。
それを1日で成し遂げるなんて…。
「正直フルパだったら、プロ3までは行ったと思うけど。つか、MoMoちゃんってランクやる人?」
「ええ、まあ、以前はよく1人で回ったりしてましたけど」
「ほ〜ん。その時の最高ランクは?」
「プロ1です」
「なるほどね。何とか頑張ってプロに足掛けて、満足しちゃった感じか」
「…はい」
図星だ。
「まあ、そんなもんだよ」
「え?」
「ん?どうしたん?」
「いや、you先輩が煽って来ないの珍しいなって思って」
「こいつも、わたしも、ソロで潜ったランクは大したことないからよ」
K.A.I.先輩は、少し離れた位置でソシャゲのスタミナ消費をしながらそう言った。
「そうなんですか?」
「まあ、そうだよ。オレはソロランク、アマ8だったか、アマ9だったか、とりあえず、プロ乗ってないくらいだな」
「どうしてですか?」
「どうしても何もそれが事実だからな」
「いや、すみません。言葉足らずでした。you先輩の実力なら、もっと上のランクだと思うんですけど、どうしてそんな低いランクなんですか?」
「お?煽ってんのか?」
「あ、いえ。そんなつもりはなくてですね」
「正直、オレは別にキャラコンやエイムが上手い訳じゃないからな。立ち回りが上手いだけで。だから、キャラコン上手い奴みたいに、地雷みたいな味方に当たった時に1人で何とかはできないのよ。人数不利とかほぼ勝てんし」
そう言えば、何の駆け引きもないタイマン勝負なら僕の方が強かったような。
とは言え、地形や人数差みたいな駆け引きの要素が出てくると途端に強くなるんだけど。
「なるほど。you先輩の実力は即席のパーティでは発揮するのが難しいんですね。さっきの口振りだと、K.A.I.先輩もランク低いそうですけど、それは何でなんですか?」
「わたしは、基本ソロでは潜らないからよ」
「なんでですか?」
「本気でやってるランクマでSRとハンドガン持ってる奴いたら嫌でしょ?縛りプレイするなら、カジュアルで良いのよ」
「でも、K.A.I.先輩の実力なら、やりさえすれば、結構な所まで行くんじゃないですか?」
「やったことはないけど、多分ね。まあ、Tomoくらいのランクは行けると思うわ」
「そのTomo先輩はどのくらいなんですか?」
「私は、ソロだとプロ6が最高ランクかな?」
「え!凄いじゃないですか!」
ストリーマーやるなら、最低限は欲しいランクだ。
「いや、そんなことはないよ」
「部長ったら、謙遜しちゃって。本当はソロマスも行けたのに、RP集めるの怠いからって理由で断念しただけなんだから」
ソロマス。つまりはソロで潜ってマスターに到達することだ。
実力で魅せるストリーマーなら、挑戦することもあるレベルの難易度だ。
それができるなら、相当な実力者と言うことだ。
「そうなんですか?」
「理由がどうであれ、私が到達したランクはプロ6だよ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「ま、本人はそう言ってるが、部長がソロランク向きなのは事実だぜ。キャラコンも、エイムも、戦闘時の立ち回りも、オレ達の中ではピカイチだ。欲しい時に欲しいサポートが貰える。ランダムマッチングでは是非とも来て欲しいSSRの味方だわな」
「確かに、僕もTomo先輩のサポートにはいつも助けられています」
「だろ?部長はどんな奴でも的確にサポートできるからな。脳筋バカも、臆病陰キャも、隣に部長がいれば、英雄になれる。まあ、サポートを受ける奴が上手けりゃ上手いほど、部長のサポートの恩恵もでかくなるんだが」
「そうなんですね」
もしかして、you先輩が僕を上達させたい理由って…。
「実は、部長のサポートは味方だけじゃないんだぜ」
「?どう言うことですか?」
「例えば、三竦みになってて、部長のチームともう1チームが不利ポジにいるとするだろ?そん時、部長は結託して有利ポジの奴を倒すんよ。こっそりと、秘密裏にな。だから、敵も味方も誰1人として部長がサポートしたことには気付けない」
「へぇ、すごいですね」
「で、そんなオレ達が集まれば、1枚が野良でも、プロ2に上がるのは余裕って訳だ。ガチでやれば、レジェンドも行けるだろうけど、このゲームに命懸けてるわけじゃないから、そこまではやらんけどな」
僕達がそんな話をしていると、部室の扉が開く。
「おい。お前ら、申請時間過ぎてるぞ。早く帰れ」
九鬼先生だった。
時計を見ると、17:09になっていた。
「おっ、くっきー」
「九鬼先生な」
「申し訳ありません。今帰ろうとしていたところです」
「なら、良いんだ。完全下校は19:00だしな」
「わざわざ言いに来るなんて珍しいじゃん。顧問みたいなことしちゃって。どしたん?」
「実際に、顧問なんだけどな。職員室から見えるんだよ。この部屋の光が」
「なるほど。全て理解した。また教頭のお小言か」
「ああ、そうだよ。5分しか過ぎてないのに、申請時間過ぎてるぞ、注意しに行かないのかって言われたんだよ」
「『顧問なのに〜』みたいな説教が始まりそうだったから、オレ達に注意する体で逃げて来たんだな」
「本当に細かいんだよな、あのハゲ」
「おっと、良いのかな。そんな暴言」
「ダル絡みは良いから、さっさと帰れ。いつまでも俺が戻らねぇと、今度は教頭が乗り込んで来るぞ」
「あのハゲの相手は面倒だな…。よし!みんな帰ろう」
「戸締まりだけ、しっかりな」
「はい」
そう言うと、九鬼先生は職員室に戻って行った。
僕達も程なくして、解散した。




