001-002 入部試験か、どんなことするんだろ?
廃部のショックで何処かへ行っていた心を取り戻し、職員室から急いで部室棟へと歩みを進める僕は、部室棟入り口の掲示板に目を留める。
4月の頭と言うこともあって、掲示板には様々な部活の勧誘ポスターが貼られていた。
それこそ狭い掲示板に全てのポスターがギチギチに詰め込まれたように貼られていて、むしろ、何でお互いが重なっていないのかが不思議なくらいだ。
しかし、そんなポスターの密集した掲示板の中央に堂々と鎮座するポスターが1枚。
黒い紙に白と赤の字と言う異色の配色で書かれたそれは、間違いなく僕が求めてやまないゲーム部、いや、ゲーム同好会のものだった。
そのポスターにはこう書かれていた。
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ゲーム同好会
強いプレイヤー募集。
遊び感覚で入ろうとしている方は地獄を見ます。
覚悟のある方は下記のメールアドレスに連絡してください。
入会試験の準備ができたら、こちらから連絡いたします。
***
良い!まさしく僕の求めていたゲーム部だ!
部員が足りなくて同好会になってなお、人員募集の基準を緩めないストイックさ。素晴らしい!
僕は早速ウェアラブル端末を使ってポスターのメアドを読み取って、入部試験の申し込みをした。
とりあえず、返信待ちだな。
入部試験か、どんなことするんだろ?
今日は家に帰って試験対策でもしておくかな。
バトロワか、格ゲーか、きっと公式e-Sportsの中のどれかだろうな。
なんて、僕が試験内容に思いを馳せていると、メールの通知が飛んで来た。
***
件名: RE:入部試験の受験依頼
本文:
モモイ ヒビキ様
試験の準備が整いましたので、本日17:00にゲーム部元部室にお越し下さい。
***
メールを読んだ僕は、チラリと端末の時計を見る。
16:53。
後7分で試験じゃないか!?
僕は急いで、部室棟の中へと入る。
室名札を確認しながら、1階、2階、3階と部室棟を登っていくと、3階の奥から2番目で漸くゲーム同好会の名前を見つけることができた。
16:58。何とか間に合った。
僕は引き戸をノックする。
戸についた窓から見える室内は暗く、本当に人がいるのかと心配になってしまう。
「どうぞ」
良かった。人はいた。
返事を聞いた僕は、扉を開けて中に入る。
案の定、室内は真っ暗で、PCのディスプレイだけが眩しいほど光っている。
PCの画面の光によって、そのPCが置かれた1つの机と椅子が照らされていた。
ここに座れってことだろうか?
「モモイ君だね?さぁ、座ってくれ」
僕が戸惑っていると、先程と同じく凛々しい声が聞こえて来る。
真っ暗で姿は全然見えないけれど。
僕がPCの置いてある席に座ると、ディスプレイには公式バトロワの画面が表示されていた。
ローカルマッチのロビーだろうか?
僕は画面に表示されたプレイヤーリストを覗く。
僕が「guest1」だとして、僕以外のメンバーは「Tomo」、「K.A.I.」、「you」、先輩方かな?
てか、3人もいたんだ。
「さて、新入部員候補君、いや、同好会だから新入会員候補君かな?君には2対2で対戦してもらうよ。私達の中から1人を選んでくれ。選んだメンバーとチームの組んで残りのメンバーと対戦してもらう、それが今回の入会試験さ」
「えっ、じゃあ、Tomo先輩、お願いしても良いですか?」
誰が誰だかわかっていない以上、名前だけ見て悩んでも仕方がないので、僕は1番上に表示されていたTomo先輩を選んだ。
「おや、私かい?本当は敵として君の実力を見たかったところだけれど、良いだろう、チームメイトとして、しかと見せてもらうよ」
どうやら僕に説明してくれている彼がTomo先輩らしい。
「へぇ、部長を選ぶんだ。ゲーマーとしてのセンスが良いんだか、勘が良いんだか」
前方から聞こえていたTomo先輩とは別の声が左の方から聴こえて来る。
ザ・イケメン、みたいなTomo先輩の低い声とは違い、こちらの人の声は高い。まるで中学生みたいな声だ。
「you、今の私は部長ではない、同好会の長、言わば会長だよ」
イケメンボイスで会長と言われると、同好会長ってより、生徒会長って感じがする。
「そいつは失礼。K.A.I.!会長が相手だ、オレらも本気で行かなきゃだな」
「ああ、ぼくの方は問題ない。そっちこそ、ぼくの足を引っ張らないように気をつけなよ」
you先輩の呼びかけに応じるようにK.A.I.先輩が口を開く。
どうやら右側にはK.A.I.先輩がいるようだ。
それにしても、男性にしては僅かに高いが、落ち着いた声だ。イメージとしては、仕事人、的な?you先輩とはまさに真逆のイメージだ。
ホストであるTomoさんがチーム分けをし、試験が今から始まろうとしている。
絶対に勝つぞ!勝って部員(会員?)になるんだ!
ちなみに、メンバーの位置関係はこんな感じ。
・Tomo先輩
会長、イケメンボイス。
僕の正面に座っている(ようだ)。
・you先輩
中学生みたいな高いの声。
僕の左前方に座っている(ようだ)。
・K.A.I.先輩
落ち着きのある高めの声。
僕の右前方に座っている(ようだ)。