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日々原高校ゲーム部  作者: 名波 和輝
005 日常(2041/04)
19/83

005-001 もしかして、僕、ですか?


 後味の悪かった大会も終わり、次の部活の日。


 僕が部室に入ると、やはりyou先輩だけがいた。


「おいっす!MoMoちゃん」


「元気ですね、出場停止になったって言うのに」


「あー、あれな。気にすることないから」


「どう言うことですか?」


「オレら、去年も1年間の出禁食らってるから」


「どう言うことですか?」


 脳が受け付けない情報を押し付けられ、思わず同じ返答をしてしまう。


「去年もあの大会、4月度の時に無双し過ぎちゃって、1年間の出禁喰らったんよね」


「えっ?じゃあ、やり過ぎたら出禁になるのわかっててやり過ぎたんですか?」


「だって、MoMoちゃんが勝ちたいって言うから」


「確かに、僕が勝ちたいって言いましたけど、だとしても、手を抜いて優勝することだってできたじゃないですか!」


「獅子は兎を狩るにも全力を尽くすのさ」


 キリッ。


「…」


「と、言うのは半分冗談で。正直あの大会出るメリットあんまりないんだよね。今回出たのは、新生ゲーム部の実力を見たかったからだし」


 半分は本気なのか…。


「でも、出場停止になることはないじゃないですか。月に1回の頻度でお手軽に参加できる大会なんてあれぐらいですし、もし、出たくなったらどうするんですか?」


「いや、それはない」


「何でですか?」


「だってあの大会、東高とかさ、周りの高校の参加頻度も高いしさ」


「それの何が問題なんです?」


「人読みされるじゃん」


 人読み。つまりは相手個人の手癖や思考パターンを読む行為だ。


 格ゲーなんかは人読みが有効的なゲームの1種だ。


「インターハイみたいな公式大会で人読みされて負けるのが嫌ってことですか?」


「まあ、そうだな」


「でも、先輩達の強さなら、人読みされたくらいで負けなくないですか?」


「MoMoちゃ〜ん。ダメだよ。相手をナメちゃ。オレは、相手をバカにしても、ナメはしない」


「先輩って意外に慎重なんですね」


「オレは慎重だよ。前にも言ったけど、人生、全部の戦いに勝ち続けることなんてできないからな。だから、必ず勝ちたい戦い、勝たなきゃいけない戦いを選んで、それに勝てるように最善の手を打つべきなんだよ」


 いつになく真剣にyou先輩はそう言った。


「でも、この間の戦い、本気出しちゃいましたよね?それって先輩の考えに反するんじゃ…」


「布石だよ、布石」


「布石、ですか?」


「あの時、言ったろ?『あの大会で勝つ代わりに、MoMoちゃんにも頑張って貰う』って」


「ちょっと話が見えないんですが…」


「東高の奴らの気持ちになってみなよ。公式大会でもない適当な大会とは言え、オレ達に惨敗したんだ。そして、インハイではその相手と絶対に当たる。MoMoちゃんならどうする?」


「僕達の学校を研究しますかね」


「ああ、その通り。勝つためにオレ達を攻略するわけだ。若しくは、勝つことを諦めるかだが、相手がそっちを選んだら、それは無視できるな。で、だ。オレ達を研究したら、どうすれば勝てると思う?」


「ええっと…。…弱点を突くとか?」


「おっ、良いね。じゃあ、オレ達の弱点って何だろ?」


「それは…。…あっ。もしかして、僕、ですか?」


「ピンポンピンポン!大正解!」


 ここまでストレートに馬鹿にされると、怒りを通り越して、(むし)ろ、冷静になる。


「つまり、『僕に頑張って貰う』って言うのは、『僕に強くなって貰う』ってことですか?」


「ああ、あの大会じゃ、K.A.I.や部長の性能(スペック)を前面に押し出すように指揮を取ったからな。K.A.I.や部長の仮想敵と戦って対策を取ろうとしても、そもそもその仮想敵を用意できない(はず)だ。そうなれば、奴らがオレ達の弱点であるMoMoちゃんを狙うのは自然な発想だわな。相手が攻め込むルートがわかっているなら、対策も容易(たやす)いわけよ」


「でも、相手が僕を狙って来なかったら…」


「それはそれで問題ない。それでもある程度、奴らの策は絞られるしな。それに、見せてない手の内はまだまだあるし、負ける可能性は極めて低い」


「先輩は、僕との会話の一瞬で、そこまで考えていたんですか?」


「まあ、そうだな。元々、参加が決まっていた時点である程度は考えていたしな。手を抜いて負けることで、相手にこっちを(あなど)らせて勝つルートか、本気出して勝つことで、相手の対策を絞って勝つルートか」


「ちなみに、僕が強くなれなかったら、どうするつもりですか?」


「大丈夫、大丈夫。強くなれるように徹底的に指導してあげるから」


 笑顔が怖い…。


「ぼ、僕が途中で音を上げたり…」


「は、しないよね?だって、M()o()M()o()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 笑顔が怖い…。し、圧が強い…。


 僕は選択肢を間違ってしまったらしい。


 僕とyou先輩がそんな会話をしていると、部室の扉が開かれる。


「何だ、2人しかいないのか?他の奴らはどうした?サボりか?」


 ぼさぼさとした天然パーマの男性がそこにはいた。


 あ、えっと。


「おっ、くっきーじゃん。どしたん?」


()()()()な。教頭の講演会が始まりそうだったんで逃げて来た」


「相変わらず、クズだね〜。普段は顔も出さない癖に」


「教師をクズ呼ばわりする奴には言われたくはないけどな」


 そう、そうだ!思い出した。僕に職員室でゲーム部の説明をしてくれた九鬼広輝(くきこうき)先生だ。


「九鬼先生、こんにちは」


「おう。ええっと、桃木、じゃなくて、桃井だったか?どうだ、ゲーム部は?」


「はい。楽しいです」


「そいつぁ、良かった。もし、こいつにイジメられたら、言えよ。ちゃんと叱ってやるから」


 九鬼先生は、ぽんぽんと(てのひら)でyou先輩の頭を軽く叩きながらそう言った。


「ちょっ、触んなし。セクハラだぞ」


「うっせ。お前みたいなガキが一丁前に女面すんな」


 you先輩と九鬼先生は随分と仲が良さそうだ。


 ピンポンパンポーン。


『九鬼先生。教頭先生がお呼びです。職員室まで至急お越しください。九鬼先生。教頭先生がお呼びです。職員室まで至急お越しください』


 ピンポンパンポーン。


「うおっ。マジか」


「草。逃げ切れてないじゃん」


「はぁ。しゃあない。行ってくるわ」


「いってらっしゃ〜い。あっひゃっひゃっ」


 ボリボリと頭の後ろを掻きながら、九鬼先生は去っていった。

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