004-002 『けど』?
第1ゲームが始まる。
飛行船の航路が画面に映った瞬間、K.A.I.先輩は航路後半の街にピンを刺した。
「参加者の傾向を読むから、後半降りするぜ」
「はい!」
「ああ」
「了解」
僕達はその街に届く距離まで、ゆっくりと待機する。
次々と他の部隊は降りていった。
そして、後半に差し掛かる頃には、飛行船に残っているのは、3部隊となっていた。
ここで、漸く僕達も飛行船から降りる。
「被りなし。他の2パは反対側行ったみたいだな」
その報告を聞いて、バラバラに着地した僕達は、各々装備を整える。
すると、第1安地が画面に表示された。
僕達は、既に安地に入っている形だ。
「この街は第3までは入るね。第4はここが中心になる形だろうね」
そう言いながら、K.A.I.先輩はピンを刺す。
ここまではテンプレだ。
なんでK.A.I.先輩は、第1安地を見ただけで、最終(第4)安地までわかるんだろうと、最初は思っていたけど、今は何とも思わなくなってしまった。
K.A.I.先輩によると、だいたい8割くらいは第1安地の形で最終安地までわかるらしい。
残りの2割も第2安地まで見ればわかるそうだ。
百人一首の決まり字みたいなものだろうか?
安地を知り尽くしたK.A.I.先輩の安地読みは予測ではなく、予言の域なのだ。
なんやかんやで、装備はある程度整った。
「MoMoちゃん、大会勝ちたい?」
当たり前の質問をyou先輩がする。
「それは、まあ、はい。せっかく参加してるなら勝ちたいですけど」
「じゃ、目指すは1位だな。そうと決まれば、二手に分かれよう。部長とMoMoちゃんは、ここの建物で籠城の準備しといてよ」
マップ上の建物にピンを刺しながら、you先輩はそう言った。
二手に分かれる?
あまりにもセオリーから外れた提案に僕は一瞬、理解が追いつかなかった。
もし、2人組で行動している最中に、接敵してしまったら、数的不利になってしまう。
だから、部隊全員が生存している時に、わざわざ2人組で行動するメリットはないのだ。
そんなこと、you先輩は百も承知だろう。
それでもその提案をしていると言うことは、you先輩の目には何らかのメリットが見えていると言うことになる。
けれども、僕にはそのメリットがわからなかった。
「MoMo、行くよ」
そうTomo先輩に言われ、僕は指示された建物に向かった。
―――
建物に着いた僕は籠城の準備を始める。
建物の周囲に地雷を設置し、建物内には弾薬と回復アイテムを備蓄する。
僕達が黙々とそんな作業をしていると、ボイスチャットから、you先輩の声が聞こえて来る。
「そこ、敵。こっちには気付いてないっぽい。K.A.I.、あれ撃てる?」
ピンを交えて、you先輩が言う。
「当然」
その直後流れるキルログ、1ノック。そして、1キル。
「あっ、あっち。漁夫来たっぽいわ」
「了解」
3ノック。
「馬鹿だね〜。顔出すの早すぎなんだよなぁ」
2キル。
「you、次は?」
「顔出さなくなったし、そろそろMoMoちゃん達と合流しよっか」
「了解」
「MoMoちゃ〜ん。一応、キルポ(キルポイント)3pt取ったよ」
なるほど、キルポイント確保のためだったのか。と、僕は不可解な別行動の理由がわかって納得する。
「あっ、はい。キルログ見てました」
「第1ゲームは上限8ptだから、残りの5ptも欲しいところだぜ。ま、5ptぐらいだったら、終盤で取れなくもないだろうけど。そっちの準備はどう?大丈夫そ?」
今日日聞かないネットスラングだ。
「はい。終わってます」
「OK〜。すぐ合流するわ」
そのすぐ後で、you先輩とK.A.I.先輩が合流した。
―――
第1収縮が終わり、第2収縮が終わった。
その間、何も無さ過ぎる程、何もなかった。
第3安地が示され、収縮までのカウントダウンが始まった時だった。
「あそこに誰かいるね。3人までは見えたよ」
Tomo先輩の方から敵が来たらしく、Tomo先輩はそう言った。
「OK〜。K.A.I.、あれ、こっちに来そうだったら弾いてもらえる?」
「了解」
どうやら向こうも僕達に気付いたようで、200m程先の岩陰に身を隠してしまった。
しかし、こちらの様子を伺おうと、顔を出して来る。
そこを、K.A.I.先輩の無慈悲なヘッドショットが捉えた。
1ノック。
K.A.I.先輩の次の狙撃が行われる前に、ダウンした人はいそいそと岩陰に隠れた。
「あいつら、東高の1軍の奴らじゃね?だよな、K.A.I.?」
ここまでの一連の流れを見ていたyou先輩はそう言った。
you先輩の言った「東高」とは、お隣の「日々原東高校」のことだ。
「そうかもね。コス的にはそうっぽいけど」
「だよなぁ」
確かに、今回の参加チームの中には、東高の名前もあった。
でも、この短い時間で特定できるとは思えない。
「もしかして、先輩達、他校の人達のコス覚えてるんですか?」
「え、うん。まあ。よく関わるチームの人のコスとプレイスタイルくらいは。とは言え、コスの方はすぐ変えられるし、参考程度にしかならないけど」
「おっ、向こうさんもこっちに気付いたみたいだぜ。どうすっかなぁ。あんまり手の内晒したくないんだけど」
「なんでですか?」
「夏の大会とか、公式大会で当たるからさぁ。嫌じゃん。ここで圧勝しちゃって、研究とかされたら。だから、ほんとは手を抜きたいところだけど。でも、MoMoちゃん、この大会勝ちたいんでしょ?」
「はい。勝ちたい、ですけど。もしかして、僕が勝ちたいって言ってなかったら、わざと負けてたってことですか?」
「だって、こんなどうでも良い大会なんて負けたって別に良いじゃん。それで公式大会で楽に勝てるなら、お釣りが来るでしょ」
「でも、…」
「良いかい、MoMoちゃん。人生ってのは、全ての戦いで勝てるわけじゃないんだ。だからこそ、勝たなきゃいけない戦いで必ず勝つために、最大限の努力をすべきなんだぜ」
you先輩のくせに、随分と真っ当なことを言う。
「なら、この大会は負けるってことですか?」
「いいやぁ。MoMoちゃんが勝ちたいって言うから、仕方なく本気を出してやるけど」
「『けど』?」
「その代わり、MoMoちゃんにも頑張って貰うぜ。この大会が終わってからだけどな」
「?」
「まあ、そんな大したことじゃないから、気にすんな。さってと。あれ?あいつら逃げる気満々じゃん。K.A.I.。多分左に抜けると思うから、最後尾の奴でも殺ってくれ」
「ん、了解」
you先輩がK.A.I.先輩に指示を出すと、東高の人達は、you先輩の読み通りに左方へ逃げ出した。
そこを、K.A.I.先輩の弾丸が撃ち抜く。
1ノック。2ノック。
確キルまでしっかり入れる。
「ラッキー。キルポ2ptゲット〜。このまま芋ってれば、1位まであるな」
―――
そのまま時は流れ、第3収縮が終わり、最終安地が表示された。
僕達は極めて有利なポジションにいる。
残り8部隊。
第4収縮が終わる頃には、ポジションの奪い合いの果てに、3〜4部隊にまで数が減りそうだ。
「あっ、あそこ。ファイト始まりましたよ」
「ほんとだ。K.A.I.、狙える?」
「余裕」
一生懸命戦っている人達を嘲笑うかのように、スナイパーライフルでキルポイントだけ奪う僕達は、他のチームから見たら、相当な悪役だろう。
大量のヘイトを集めているが、しかしながら、僕達に挑んで来るチームはいなかった。
you先輩の指示と、K.A.I.先輩のスナイプが敵を寄せ付けないのだ。
果敢にスナイパー対決を挑む輩もいたが、三流のスナイパーなど、K.A.I.先輩の足元にも及ばない。
そして、第4収縮が始まる。
残った部隊は、押し出されるように接敵し、ファイトを始める。
僕達はそれを悠々と見ながら、ちょっかいをかけていた。
そうして、第4収集が終わる頃には、残り3部隊9人となっていた。
僕達は建物の中に入っているが、残り2部隊は、岩裏、障害物裏と言うかなり残念な位置にいる。
「K.A.I.。グレ投げ込もうぜ」
とニヤニヤとした声で、you先輩は言った。
「了解」
「部長、MoMoちゃん。相手が顔出さないように見張っててくんね?」
「はい」
「ああ」
K.A.I.先輩の得意技、直下グレだ。
「右、2ノック。と、10ダメくらい。左75ダメと60ダメ」
「よし。右詰めちゃお。K.A.I.は左にグレ入れといて」
「了解」
その指示を聞いて、僕達は急いで、建物を出た。
僕達が岩裏に到着すると、残った1人が、蘇生を通していた。
その1人を僕は狙い撃つ。
40%ぐらいの精度で僕の弾は当たる。
僕も多少被弾したけど、流石にここまで有利な状態で負けることはない。
僕は、1人をキルした。
「あっ、左のパーティ漁夫に来てるわ」
残り2部隊の表示を見て焦ったのか、かなりのダメージを受けている筈の左の部隊も、僕達の方へと詰めて来た。
しかし、そんなやぶれかぶれの攻撃は何も怖くない。
Tomo先輩の援護射撃と、you先輩のスナイプでこの試合は終わった。




